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飛行

「ほら、二人とも早く乗って乗って!」


裏口から庭に出ると、昨日の夜お世話になった、フィーネの召喚獣、黒竜のウーアが、フィーネ、エーリカ、ドーラフ、そしてアイリスを乗せて腰を下ろしていた。


エーリカが尻尾の方まで降りてきて、俺とリディに手を差し出す。


「ちょっとミシェル、何ぼーっとしてるワケ?追っ手が来るのも時間の問題なんだから、急がないと」

「あ、ああ。わりぃ」


改めて客観的に見たウーアのでかさに、俺は少し見とれていたが、時間が無いことを思い出し、エーリカの手を掴んだ。


「さ、リディも!乗って乗って!」

「ああ。お邪魔する」


リディが乗ったのを、ウーアは首を後ろに向けて確認する。


「また会ったな、姫君よ。今度は怖がってくれるなよ?」

「・・・問題ない。二度目にもなれば、多少は慣れた」


リディは、あまりからかうな、と小さく呟き顔を背ける。


「さて、それじゃあ行くわよ」


フィーネが、ウーアの首の所に手を掛けてバランスをとりながら言った。


「でも、行くってどこへ?」


俺が聞くと、答えたのはエーリカだった。


「とりあえず手がかりを探さなきゃだから、一旦国外に身を潜めようってことになったの。それで、動向を探るのに適した町を、昨日の夜フィーネと二人で話し合ったんだ!そんで向かうことになったのは、夢の国テイリアだよ」

「テイリア?聞いたことない国だな」


俺の言葉にフィーネは振り返る。


「そのはずだわ。テイリアは地図には書かれていない国よ。時空の狭間にある、とも言われているわ。入り口はいつも同じ場所にあるんだけど、なかなか見つけられないのよ。見つけられた人はラッキーってとこね。でも、それを口外してはいけない決まりになっているから、場所はどこにあるかわからないままなのよ」

「そんなところ、俺たちが一緒に行って大丈夫なのか?」

「大丈夫、連れて行くのは問題ないわ。ティールでは外交を行っていたから、存在自体は国でも認知されていたし。まぁ、それでも入り口を知っているのは私とエーリカ、それにルーカス様くらいだったと思うわ」

「なるほどな。隠れるにはもってこいってことか」

「そういうこと。それじゃあ、皆、行くわよ!」


そのフィーネの声を聞いて、ウーアがゆっくりと羽ばたき、浮上した。ウーアも、いくらでかいとはいえ、6人も背中に乗せておいてよく飛べるもんだ。


町がゆっくりと小さくなっていく。まだ朝早いせいか、人影は全くない。


と、そのときだった。


「フィーネ様・・・!?それにエーリカ団長も・・・!」


俺たちが昨日侵入した窓のある屋根で、兵士が掃除をしていたのだった。兵士は訝しげな顔をしている。


まずい・・・!フィーネが、召喚獣であるウーアに乗って、確保したはずの俺たちをどこかに連れ去っているのだ。怪しまないはずはないだろう。そう思ったが、フィーネは慌てず対応をした。


「ルーカス様のご命令です。私はこの者たちを護送しなければなりません。あなたはしっかり自分の与えられた役割をこなしていなさい」


毅然とした態度で言い放つフィーネに、兵士は敬礼をする。


「はっ!これは失礼致しました、フィーネ様。お気をつけて」


フィーネは軽く手を上げて返すと、ウーアはそのまま飛び立ったのだった。



「まったく、肝を冷やした。・・・フィーネ、よく乗り切ったな」


リディが額に汗を掻きながら言った。フィーネは薄く笑う。


「私自身生きた心地がしなかったわ。とんだ伏兵が居たものね」


しょっぱなから計算外なことが起こっている。幸先はよくないと言えるだろう。


「まぁ、でもさすがフィーネだね。私は心配してなかったよ」

「私がなんでも出来るとは思わないで。少しはフォローの一つ入れてもよかったんじゃない?」


フィーネの言葉にエーリカは笑った。


「フィーネは超人だから大丈夫だよ。下手に凡人が手ぇ出したら、それこそ足を引っ張るだけさ」


その言葉には、エーリカにしては珍しく皮肉が混じっているように聞こえた。フィーネは軽くため息をつく。


「全く。超人はあなたでしょうに。その年で団長まで勤めるなんて前代未聞よ」

「・・・そりゃあ、まぁ、ほら、血ってもんだよ」


エーリカはそれから、ふい、と横を向いて押し黙った。


・・・なんだ?エーリカらしくない気がする。もちろん、一日程度しか関わってないのだが、それでもなんだか得体の知れない違和感を覚えた。


「エーリカ、どう__」

「ミシェル。ちょっと急降下するわ。リディを支えてあげて」


俺がエーリカに聞く前に、フィーネが指示を飛ばした。これは聞くなって事なのか・・・?


まぁ、なんにせよ、リディが落ちないように見てやらないといけない。急降下なんて体験したことないはずだからな。ちなみに俺もない。なので、支える方もガチで怖い。


だが、俺の使命はリディを守る事だ。自分の身より、リディの身。それはもう俺の本能に刻み込まれていた。問題ない。リディが落ちることはないはずだ。


だが、そのとき。


ビュン、と何かが俺たちの頭上を通り抜けた。そして突如、リディがウーアの身体から引き剥がされた。


「リディ!」


俺の声に皆が後ろを振り向いてはっとする。リディは、大きな翼を持った鳥のような獣の鍵爪に吊り下げられていた。服が引っかかっていたのだ。


俺は思わず飛び出していた。


「ミシェル!危ないって!!!」


エーリカがそう手を伸ばすも、俺は反射的に動いてしまっていたのだった。もうどうしようも出来ない。


「ミシェル!」


リディもそんな俺を見て真っ青になって叫んでいた。俺はリディに向かって手を伸ばすが、もちろん届くわけもなく、そのまま落下していく。


下は森。助かるか助からないかは五分五分という所だろう。それよりもリディのことを__。


だが、落ちていくだけの俺はどうすることも出来ずにただただリディの悲しそうな顔を見ているのだった。



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