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俺はいろいろと言いたいことがあったが、言われたとおり、先ほどリディがぶった斬った扉の前に移動した。この部屋には窓が無いので、退路といえばここしかないはずだ。


リディのことは心配だったが、エーリカも一緒にいることだし、多少は安心していられる。


遠目に見ていても、すさまじい戦いだということはわかった。


リディとエーリカが最前線で戦い、ドーラフが魔法で援護する。エーリカとリディの連携は抜群だが、男の方も負けてはいなかった。そんな連携攻撃をすべて捌いていく。


それでも、徐々に男は逃げ場を失っていた。それこそがエーリカ達の狙いでもあるのだろう。あくまで今回は討伐ではなく捕縛だ。いかに逃げ場をなくさせるかというのが大切だった。


エーリカがダガーで突き刺して、避けたところでリディがレイピアを突き出す。そして、ドーラフが男の足元に風を巻き起こし、足元をすくう。


この絶妙なバランスで相手をどんどんと壁のほうに追い詰めていくのだ。


「・・・ほんとに俺、出る幕ねーな・・・」


情けないやら、恥ずかしいやらで俺はぽろり、と独り言を漏らした。


そんなことをしている間にも男は壁際まで追い詰められていた。


ドーラフとリディとエーリカがそれぞれ得物を男に突きつけた。


「降伏しろ。というか、本物の帝王の居場所はどこだ」

「そーだよ。パパをどこにやったの?もし危険な目に合わせてたら、許さないよ?」


男は黙っている。そして、壁に背をぴたりとつけたまま手を後ろにやった。


ピッ、と何かが作動するような音が聞こえた。


その瞬間、男の後ろの壁が外れる。その後ろに見えるのは外。そして、そのまま男は吸い込まれるように後ろに倒れこんだ。


「ま、待て!」


リディは、気がついて手を伸ばしたが、後一歩届かなかった。


そのまま身を乗り出そうとしたところを、エーリカが慌てて止める。


「リディ!危ないよ!」


俺は慌ててエーリカ達の元に駆けつける。


「おい、どういうことだ。隠し扉があったのか?」


ドーラフは扉の先を注意深く観察しながら答えた。


「・・・そのようです。あの先は断崖絶壁でしたが、男は城壁などに手を掛けながら勢いを殺しつつ降りていったようですね」

「マジか・・・」

「一応俺もやる気になればできるんですがね。よくジャングルでは似たようなことしてましたから。まぁ、ほとんど指を掛ける場所がない城壁でやるのは、危険すぎて無謀としか言いようがないです」

「まぁ、そうだろうな」


まさか、こんなところに隠し扉があったなんて、想定外だった。完全に俺たちの負けだ。


「まさか、取り逃がすことになるとは・・・」


リディが、がっくりとうなだれながら言った。


「元気出して、リディ。当初の目的は達成したんだからいいじゃない。とにかく、フィーネに報告報告!これで大臣も問い詰めることができるしね」


エーリカは笑いながらリディを励ました。だが、三人の間にはどことなく


よどんだ空気が流れているように見えた。


「・・・よし、帰ろう!話はそれからだ」


俺は元気付けるように声を掛け、三人の背中を押すようにして元来た扉に戻っていった。





「お帰りなさい」


大扉を出ると、目の前にフィーネが立っていた。


「大臣は部屋に戻ってもらったわ。それで、成果のほうは・・・?」

「思ったとおり、ニセモノだったよ、フィーネ。でも・・・」


エーリカは気まずそうにうつむいた。リディは軽く息をついてポツリと言葉をこぼした。


「・・・逃がしてしまった。すまない・・・」


だが、フィーネはふわりと笑った。


「気にしないでいいわ。もともと捕縛は今回の作戦に含まれてなかったんだもの。あなたたちは十分よくやってくれたわよ。明日にでも、大臣に問い詰めましょう。今日はもう遅いわ。ゆっくり休んでちょうだい」


そのフィーネの一言で俺たちは解散になった。


「あーあ、つーかーれーたー」


エーリカが頭の後ろで手を組みながら言った。ドーラフはそんな様子に苦笑しながら、ふと何か思いついたように言った。


「そういえば、エーリカちゃん。エーリカちゃんって結構身軽なんだね。いつも大きな剣ばかり使ってたから気がつかなかったよ」


先ほどの戦闘でのことを言っているのだろう。俺も同じことを思っていた。確かに俺たちとの戦闘のときも蹴りで男二人を伸してしまうくらいだから、多少身軽だとはわかっていたが、先ほどの戦いはその比ではなかった。


エーリカは、ああ、と笑いかけた。


「その事ねー。びっくりした?私、どっちかって言うと機動力が命みたいなもんだからさー。ぶっちゃけ、体術の方が得意ってのもあるし。一応職業は剣士だけどさ」


そう言って、胸当てのところに手をかざした。そこには赤い宝石がひとつはめ込まれていた。


すると、宝石が輝いて、ステータスが俺たちの前に表示される。VSDだ。


「お近づきの印にってカンジ?」


えへへ、と笑うエーリカの前に現れた数値は目を瞠るものだった。



エーリカ・アルムガルト(14)


職業:剣士 Lv70



攻撃力:1000

防御力:600

生命力:600



俊敏さ:1400




「な、なんだこのステータスは・・・」


リディですら、言葉を失っていた。


「す、すごいね、エーリカちゃん・・・」

「あはは、すごくなんてないよ。でも、そりゃあ戦場に出まくってれば、経験値も溜まるよね・・・」


そう話すエーリカがなんだか、さびしそうな感じがした。気のせいかもしれないが。


「そういえばぁ、三人のも見せてよ!」


まだ見てなかったしさっ、と無邪気に笑うエーリカに内心冷や汗が止まらない俺。


そんな俺の横で、ドーラフが気まずそうに言った。


「あー、ごめん、俺、その宝石着けてなくて・・・」


ドーラフのは見れないらしい。そうなると、リディと俺、二人分のをエーリカに見せることになる。


「私のはこんな感じだ」


悶々としている間にも、リディは前とさしてステータスが変わっていないVSDを見せていた。


「ふむふむ。さすがリディ。強いねー!」

「Lv70が何を言うか・・・」


呆れたようにリディがつぶやいた。確かに強いと思われていたリディもまだLV40程度だ。そして、エーリカはとうとう俺の所に来る。


「ねぇねぇ、ミシェルは?」

「お、俺か・・・?」


いっそのこと、ドーラフと理由を同じに、宝石を持っていないということにしてしまおうか、とも思ったが、嘘をつくのはどうにも後ろめたい。かといって、エーリカが見せてくれたのにもかかわらず見せないというのも、失礼にあたるのだ。


・・・まぁ、どうせエーリカはこんなもの見なくても、俺の実力は見抜いている。今更か。


「・・・俺のはこんな感じだ」


俺はなるべく見たくないので目を背けながら表示する。エーリカから、あー・・・という声が聞こえた。なんだその残念そうな声は、わかってたことだろーが。


だが、そんな時、リディが目を丸くしていたことに気がついた。


「リディ・・・?」

「ミシェル!お前、すごいじゃないか!」


そう言われて、おそるおそる自分のステータスを見てみた。


ミシェル・バルビエ(20)


職業:剣士 Lv22


攻撃力:60

防御力:40

生命力:100


俊敏さ:10


「お、おお・・・!」


俊敏さが!俊敏さが二桁行った!俺はもうそれだけで満足だ!前回の俊敏さ5なんて夢だったに違いない!


俺が一人感動していると、リディが心底うれしそうに言った。


「すごいな、ミシェル!大躍進だ」

「大躍進、なの・・・?」


エーリカが呆れた目で見てくる。確かに俺もうれしいが、リディ、これくらいで大躍進なんて言わないでくれ。さすがに恥ずかしい。


まぁ、何はともあれ前回がレベル15で、今回が22。レベルが7も上がったことは進歩だろう。


エーリカが腕を組んで唸る。


「うーん・・・とにかく、ミシェルも戦場に放り出されたらかなり危険な状態だしリディも専門的に修練していない状況でなら結構強い方だけど、やっぱり戦場で生き残るには心もとないよね。ユニコーンに襲われたときだって、助っ人が来てくれたから、無事だったでしょ?」

「えっ・・・!・・・ああ、そうか、知ってたんだもんな。俺たちの動向を」


俺の言葉に、エーリカは、うーん、と苦笑いした。


「ちょっと、違うかな。実際に見てたわけじゃなくて、ユニコーンから聞いたの。あの子、フィーネの召喚獣だから」

「は・・・?ってことは、俺たちを襲撃したのは・・・?」

「うん。私たちってことになるね。あれも一応試練のつもりだったんだ。あれくらいの魔物に遭遇して逃げ帰るくらいの意思だったら、今回の作戦、任せられなかったから」

「そ、そういうことだったのか・・・」


ユニコーンのような聖獣をあれくらいの魔物扱いが出来るのは普通に驚いた。


そして俺は、はっとする。まてまて、それで良いわけないだろう。


「って、俺たち死にかけたんだぞ!?試練、重すぎるわ!」

「あはは、大丈夫大丈夫。別に命まではとらないよ。そういう風に命令してあるからね。ぶっちゃけ、焦る必要ぜんぜんないよ~」

「~っ!だからってなぁ~!」


けらけらと笑うエーリカにふっと笑うリディ。そして、このやりとりを見て微笑むドーラフ。なんでこの二人はここまで笑っていられるのか。いや、まぁ、ドーラフはあのユニコーン騒動を経験していないからだろうが、あの場にいたリディまでも笑えるのはすごいと思う。実際、リディはユニコーンのときも、冷静に状況を分析できていたし、肝が据わっているのだろう。


「・・・まぁ、無事だったから良しとするか」


俺は軽くため息をつきながら部屋までの廊下を歩き続けた。途中から先を歩き出した、エーリカ達の楽しそうな声を聞きながら、俺はなにげなく、後ろを振り返った。


この大きな城の廊下は薄暗く、今歩いてきた道の奥はもう暗闇に飲まれていた。ずっと見つめていると、自分の感情が浮き出てくるように思えた。


恐れ。


それは何に対するものなのかはわからないが、俺の中で明確にそれが浮き出てきていた。そして、その恐れの正体がわからないと克服することが出来ないだろう、ということも実感していた。


じっと、暗闇を見つめる。そこに何かを見出そうとしたが、曖昧な形が亡羊と頭の中に浮き出るだけだった。


(・・・疲れてんだな、俺も)


そりゃそうだ。ここ数日いろんなことがあった。ありすぎた。きっとそのせいだ、と俺は頭を振った。今しがたまで考えていた、『答えが出ない問い』を心の奥底に無理やり押し込める。心をコントロールするのは俺の得意技だった。


_ずっとそうやって生きてきたから。


だが、ふとした時に自虐思考になるのが、昔からの悪い癖だった。そして、そんな癖さえも自虐的に笑って済ませてしまう。負の連鎖だった。


(ああ、もうこんちくしょう。こんなときに・・・)


恐らく俺たちの立場は一気に動き出す。そんなときに、ただえさえお荷物の俺が、ネガティブという追加効果までつけ始めたら、マジで良い所なくなる。というか、完全に邪魔物扱いされることうけあいだろう。


とにかく、今日は寝てしまおう。そう思いつつ、俺は皆の後ろをくっついて歩いていった。


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