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現状

エーリカはもう俺たちをどうにかしようとは思っていないらしい。その点で言えば少しほっとしている。だが、まだ気になる事があった。リディの事だ。そして、エーリカの様子から、この国が何かよからぬ事態になっていることが窺えた。恐らくアイリスの件も関係しているのだろう。


俺達はその後、エーリカに連れられてリディがいるとされている部屋にやってきた。俺が部屋に入ると、エーリカに握られて、手がブンブンと上下に振られているリディの姿があった。とりあえず、リディが無事かどうかすらわからなかった俺は、リディの姿を見て、ほっと胸をなでおろした。


「リディ!」


俺は思わずリディの名を呼んだ。その声にはっと顔を上げたリディと目があった。


「ミシェル!!」


リディは俺の姿に気がつくと、驚いたように目を見開いて俺の元へと走り寄ってきた。


「ミシェル!・・・すまない、()のせいで、こんなことに・・・!」


リディは涙目になりながら俺に抱きついてきた。リディはここに捕らえられている間、ずっと俺の事を心配してくれたのだろう。


「別に気にしねーさ。こっちこそ心配かけてすまなかったな。リディが無事で何よりだ」


俺はそう声をかけた。嘘偽りのない本心だ。それはリディに何かあると自分の命に関わるとか、そういう問題ではない。ただ単純にリディには無事でいて欲しかったのだ。


だが、俺は1つの違和感を感じた。先ほどのリディの言葉にだ。


「リ、リディ・・・お前、さっき自分の事、私って・・・」


そう俺が言うと、抱きついていたリディはとっさに離れて僅かに顔を赤らめた。


「・・・少し、色々あってな。一人称だけは直す事にしたんだ。・・・まだ、ちょっとだけ恥ずかしいが」


そう言って、リディはちらりとフィーネのほうを見た。それに気がついたフィーネはふっと微笑んだ。


お、俺がいない間に何があったんだ・・・!


いや、嬉しい!嬉しいけど!こんなにあっさりと、一番時間がかかると思えた一人称を直すという事がクリアできるなんて・・・。


「何か・・・フクザツだ」

「・・・?何がだ、ミシェル?」

「いや、なんでもねー。__ところで、エーリカ。さっき言ってた、異変ってのは?」


その問いに反応したのはフィーネだった。


「エーリカ、この人たちを認めたのね」

「・・・うん。二人なら、大丈夫だと思う」

「なんなんですか?」


ここでドーラフが初めて口を出した。ドーラフも先の戦闘で消耗していたので口数が少なかったのだ。


「ドーラフさん、といいましたね。名前からしてシゲル出身ではないように思えますが」

「・・・そうですが、それがどうしたのですか?」

「いえ。少々心配でしてね。ミシェルさんはシゲルではリディ様の直属の部下か何かだと思いますが、あなたは部外者のようです。信用に足るか不安なのですよ」


その言葉にドーラフは唇を噛んだ。


「それはこちらのセリフですよ。リディさんの大切な友人を攫っておいて、そんなことよく言えますね」


フィーネはその言葉を受けて目をそらした。


「・・・それに関しては__そうですね、先にそちらからご説明しましょう」


フィーネはこの件になるとなんだか歯切れの悪い言葉になった。通常のクールな印象からは少しはずれた反応だ。


「でも、どこから話そうか~」


エーリカは腰くらいの高さの棚に腰掛けながら、足をぷらぷらと揺らした。それを見たフィーネはこめかみを押さえながら深く溜め息をついた。


「こら、エーリカ。お行儀が悪いわよ。座るならイスやソファに座りなさいと何度言ったらわかるの?さっきもそうだけど、あなたには姫としての自覚が足りないわ」

「はぁ~い」


不服そうに返事をすると、エーリカは棚から飛び降り、近くにあったイスを持ってきて座る。


フィーネはそれを見届けると、また元の真剣な顔に戻り、俺たちを一瞥した。


「では、本題に入りますね。簡潔に申しますと、我らがルーカス帝王が、行方不明の可能性があるのです」

「な、なんだって・・・!?」


俺達は予想だにしなかった言葉に驚愕した。


「そうそう。帝王は今もいるんだけど、本当に私のパパのルーカス帝王なのかっていうのが信じられないんだよね」


エーリカが真剣な顔で呟く。


「どういうことだ?」


リディの問いに、エーリカはなんともいえない、というように目を細めた。


「うーん、なんていうかね、パパのするようなことじゃないの。最近の帝王からの命令って」

「最近の帝王からの命令?」


俺の言葉にエーリカは頷いた。


「うん。例えばさ、今回アイリスを攫ったのも帝王の命令。でも、今までのパパなら絶対こんな事しなかった。パパはとっても平和を望んでたから。ね?フィーネ」


フィーネは頷いた。


「ええ。その通りです。そしてさらに、ここ近年、帝王の姿を見た者は、大臣以外に誰もいないのです」

「そんな!国の最高権力者の姿を見た者がいないなんて、そんな事ありえるのですか?」


ドーラフが信じられない、という風に言った。俺だって同じ気持ちだ。普通、国家というのは象徴となる人物がいる。その人物を国民が見た事ないなんてありえない。


「別に一度も見た事がないわけではありませんよ。・・・ただ、ここ数年間、体調を崩されているとかで人前には出ないのです。元々、帝王は式典のとき以外は民衆の前に姿を現す事はないのですが、近年は私たち騎士団の上層部でさえ、お顔を拝見する事はなかったのです。命令は全て大臣を通して書状で、という状態が続いておりました」

「そんなバカな・・・」


リディは嘆いた。


「ほんっと・・・私がパパのところに行こうと思っても、大臣に止められるしさー。もう、なんなのーって!」


エーリカは頬をぷくーっと膨らませながらわめいた。


「落ち着きなさい、エーリカ。__とにかく、私とエーリカは密かに今、我々に命令を下している帝王の正体を探っています。もし、今の帝王がルーカス様でないのなら、我々は本物の帝王を見つけ出さなければならない。__私たちがお仕えしているのは、他の誰でもないルーカス・アルムガルト帝王なのですから」

「うん。私のパパはルーカス帝王一人だけだからね!」


二人の忠誠心は本物だった。


__これが、騎士。


うちの国にも騎士団はあるが、ここまで忠誠心があると言えるだろうか。


ちらり、とリディを見やる。


リディは感動に顔を輝かせていた。今まで見た事もないくらい、生き生きとしていた。


本物の騎士に出会えた瞬間だったのだろう。俺としてもリディにいい経験をさせてやれたと思うと、この旅が無駄じゃなかった気がしてとても嬉しい。


リディは急に立ち上がった。


「・・・フィーネ、エーリカ、私たちにも協力させて欲しい」


リディはそう言ってから、はっと口をつぐんで俺のほうを見た。


「・・・かまわないか、ミシェル?」


俺はまさかリディがここでこっちに振ってくるとは思わなかったので少々困惑した。いつもなら、自分ひとりで決めてしまうリディだが、今回色々あったせいか、少し変わったのだろう。


そして、俺自身にも変化があった事に気がついた。


「ああ。かまわないさ。乗りかかった船だ。どこまでも協力しようぜ!」


いつもならリディの身の上を考えて連れ戻させようとしていたはずだ。だが、俺は1つの迷いもなく肯定した。


これからの冒険がリディの成長に繋がるように思えてならないのだ。


これは俺自身の変化なのか、リディの変化の影響なのかはまだわからなかった。


リディは俺の答えを聞くと、改めてフィーネ達の方へと向き直った。


「そういうことだ。私たちもお前たちに加勢したい。お前たちのことなら信じられる気がするんだ」

「リディ様・・・ありがたいお申し出でございます。こちらも、ぜひご助力いただきとうございました」


フィーネが一礼した。それをリディが手で制す。


「ああ、私のことは呼び捨てでかまわない。敬語も抜きだ。私もそうさせてもらうから」

「・・・わかったわ。ではリディ、よろしく」

「ああ。こちらこそ」


二人は固い握手を交わした。


「・・・で、結局の所俺達はどうすればいいんだ?状況がわからない以上、下手に動くわけにもいかないだろう」


俺はそんな感動的(?)なシーンに水を差すのもどうかと思ったが、これだけは聞いておくべきだと思って呟いた。


「ああ、そのことならばご心配なく。いくつか手は考えてあります」

「手?」


俺の言葉に、フィーネは頷いた。


「ええ。あなた方には我が国の捕虜になってもらいます」

「っ!!・・・捕虜、だって・・・?そんなの」


俺は一瞬言葉に詰まる。


「ええ。一番危ないポジションです。しかし、ここが絶好のチャンスなのです」


フィーネが俺の反応を予想していたかのように言った。エーリカが腕を組みながら頷く。


「そーそー。ここでパパ(仮)がどう出てくるか、なんだよね」

「つまり、どういうことなんですか?」

「ドーラフ、パパはね、さっきも言ったように、すっごい平和主義者なの。だから、捕虜を捕らえても、めったな事がない限りは処刑しない」


エーリカの言葉を聞いているうちに段々と作戦の全貌が見えてきた。


「・・・エーリカ、少し、わかったぞ。つまり、俺たちを帝王の前に釣り下げて帝王がどう出るかで最終的な判断をするんだな」

「そーゆーことっ」


エーリカは俺に向かって人差し指をびしっとつきつけた。


「なるほどな・・・って、俺たち餌じゃねーか!!!」

「うん、餌」

「いや、そんな即答されても・・・」


まぁ、この方法が一番後々のことも考えると安全だろうけどさ・・・。なんっか納得いかないんだよなぁ・・・。


「でも、ミシェルたちは捕まってくれてるだけでいいんだよ。パパもどきには私が話をつけてくるから」

「もうすでにパパもどきとか言ってるし・・・」

「だって絶対アレ、パパじゃないもーん。一人娘のこの私が言ってるんだから間違いナシ!」

「じゃあ俺たち必要なくね・・・?」

「決定的な証拠がないと、言及できないでしょ?パパもどきの目の前で、今のパパはおかしいよ!あなた、パパじゃないわね!?って思いっきり指差してあげるんだからっ」


・・・なんかこっちのお姫様も随分とアグレッシブだ。最近流行ってるのか?こういうの。


「まぁ、とりあえず俺達は捕まってればいいと」

「ええ。このまま状況が変わらなければ、ですが」


フィーネの言葉に、俺は片眉を上げた。


「随分と含みのある言い方すんな・・・」

「状況というのは、数秒後には変わってるのが戦場です」

「いや、別に戦場じゃねーがな」

「私知ってるよ!そういうの、『ふらぐ』って言うんだよね!」


ニコニコしながら言うエーリカにドーラフがへぇ、と感嘆の声を上げる。


「へぇ~、よく知ってるね」

「うん。ギルドメンバーでひょろっとしてて眼鏡かけたおにーちゃんがいるんだけど、その人がよく言ってるの。『ふらぐだー、ふらぐがたったー、もうおしまいだー』って。予言、みたいなものなのかな?」

「知らないで使ってたのかよ!」

「うん!もちろん!」


俺は思わずツッコミをいれずにはいられなかった。ツッコミ気質だったのか、俺は・・・これは新たな発見だ。


「ところで・・・アイリスに会わせてはくれないか?」


がやがやと騒がしかった部屋が、急に静まり返った。


「あ~、そうだよね!リディたちは長い距離をアイリスに会うためにやってきたんだもんね。うん、いいよ!今連れてくるから!」


エーリカはイスから飛ぶようにして降りると、部屋をばたばたと出て行った。


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