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フィーネ・ブルーム

その頃、リディはフィーネに連れられて客室に来ていた。


リディは一人、客室で紅茶を飲んでいる。フィーネがその様子をドアの前で見張っていた。


落ち着かなくなったのか、リディは紅茶から顔を上げてフィーネを訝しげな目で見つめる。


「・・・随分と手厚い歓迎だな。俺達は侵入した身だぞ」

「ええ。しかし、あなた方は捕虜です。私達の国は戦を神聖なものとする国だというのはご存知でしょう。戦という神聖な行いに参加した敵国の捕虜に対しても敬意を払って接するのです。ですからこの国には捕虜を捕まえておくための牢などは無い。第一、そんなものが無くともここから逃げ出すことなど不可能なのですから」


その言葉には絶対に逃がさないという自信が現れていた。


「・・・そうか」


リディは興味なさげに呟く。というのも彼女の頭は1つのことでいっぱいだったからだ。


「おい・・・ミシェル達は・・・」


リディがそう聞くが、フィーネは答えるそぶりも見せなかった。リディは諦めて、手に持っている紅茶に目を落とす。


(・・・俺の、せいだ。俺が迂闊な行動をしたから・・・)


リディは紅茶の入っているカップをぎゅっと握り締めた。


フィーネは、壁にもたれかかりながらその様子を見ている。そして、諦めたように一言呟いた。


「・・・まぁ、エーリカの事ですから、むやみに殺す事はめったに無いでしょう」

「その言葉、信じられるのだろうな?」

「ええ。彼女の事は、よく知っておりますから」


リディがほっと息をつく。フィーネは別段他人に情を移す方ではないのだが、このときばかりはリディがさすがに哀れに思えたのだろう。


というのも、フィーネも一騎士団を預かる身。自分の不始末で部下の命を落としてしまうということの辛さを知っている。


フィーネは壁から離れ、リディの座っているソファの向かい側のソファに腰を下ろす。


「今度はこちらから質問です」

「尋問、の間違いではないのか?」

「いえ、そんな形式ばったものではなく、私個人の興味でして」

「・・・なんだ」


リディは警戒しつつも相手の言葉を待った。


「リディ様は王女なのですよね。しかもあのシゲル国の。それにしましては少々言葉が荒いのでは、と思いまして」

「・・・悪かったな」

「いえ、責めているのではございませんよ。興味、といったでしょう?」

「・・・」

「・・・だんまり、ですか。困りましたわ。これでは私のほうが饒舌のようではないですか。私、いつもはほとんど喋らないのですよ?」

「饒舌のよう、ではなく饒舌なんだ。そう思うのなら喋らなければいいだろう」

「喋らなくていいのですね?__アイリス嬢の居場所も」

「・・・!」


その言葉にリディは反応した。フィーネはこの反応を予測していたかのように口角を上げた。


「アイリス嬢はご無事ですよ。今のところは、ね。彼女がどうなるかは私にもわかりませんわ」

「貴様等・・・なぜアイリスを攫ったッ!」


リディは立ち上がり、自らの剣に手を掛けた。だが、その瞬間。


「・・・っ!」


一瞬のうちに、フィーネにその手を押さえられた。その場から手を動かす事が出来なくなったリディはなす術もなく、ただフィーネを睨みつけることしか出来なかった。


「・・・やれやれ、随分と気が短くていらっしゃる。ガストン王もさぞ手を焼かれたでしょうね」

「余計な世話だ・・・!」


リディは剣を抜くの諦めてソファーに腰をうずめる。


「・・・アイリスを返せ。こんな事、人道的に許される事ではないぞ」

「すみませんね。これに関しては私もどうしようもないのでございます。なにせ、これを命令したのは帝王ですから」

「ティール国帝王・・・ルーカス・アルムガルト帝王か・・・」

「そうなのです。私たちも、やりたくてこのような事を行っているのではございませんわ」


最後はフィーネは周りを気にしながら小声で言った。


リディはまだ不服そうな顔をしていたが、少し落ち着いたようで、フィーネを観察するように眺めた。


「それは意外だな。騎士というのは正義を貫き通すものだと俺は思ってきた」

「騎士というのは(あるじ)に忠誠を誓い、お守りするのが役割ですわ。もちろん、我々の正義に則って、ですがね。あなた方のおっしゃる正義とは別物の可能性だってあるのですよ」

「そういう、ものなのか・・・」


リディは少しがっかりしたような口調で呟いた。そんな様子を観察していたフィーネは、リディに試すような目線を向けた。


「・・・もしや、リディ様は騎士に憧れを抱いてはいないですか?」

「っ!・・・そんな、ことは」

「図星ですか」

「・・・」


リディはうなだれた。フィーネは納得がいったように頷く。


「なるほどね。さしずめその言葉遣いも騎士を真似ての物といった所でしょう」


リディは何も答えない。一瞬にして全て見破られたリディはなにも返す言葉がなかったのだ。


フィーネはそれ以上は、興味もない、というように立ち上がった。そしてまた元のドアの方へと歩いていこうとしたが、ふと立ち止まり振り返る。


「・・・リディ様、せめて一人称は変えてはいかがでしょうか?参考程度に述べておきますが、この国には私たちのように女騎士も存在します。女騎士まで男言葉を使う事はないのですよ」


リディは何も答えなかった。フィーネはそれに腹を立てるでもなく壁にもたれかかる。


少しの静寂の後、リディが口を開いた。


「・・・おい」


フィーネはふと顔を上げた。


「なんでしょう?」

「お前らの主であるルーカス帝王の事なんだが__」


リディがそう言いはじめたとき、バン、とフィーネの横のドアが勢いよく開いた。


「たっだいまぁー!いやー、やっぱ部屋は良いわぁー!おーちーつーくー」


そう元気な声を響かせながら入ってきたのはエーリカだった。いきなりの事に呆然としているリディに、エーリカが話しかける。


「おお!あなたがリディね!私、エーリカ!・・・って、さっき自己紹介したときにリディも居たかー。まぁ、よろしくね!」

「あ、ああ・・・よろしく」


エーリカは無邪気に笑いながらリディの両手を取ってブンブンと縦に振った。


「・・・エーリカ、ノックくらいはしなさい。仮にも姫という身分なのよ」


そう声がしてエーリカが振り返ると、エーリカが開け放ったドアの裏から、フィーネが鬼の形相で出てきたのだった。

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