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対人戦


「ド、ドーラフ・・・どうすんだ?」


ドーラフを横目で見やりつつ小声で言う。勝てる自信ないぞ、と言おうと思ったが、俺はその言葉を飲み込んだ。だが、俺の気持ちは伝わったようだ。


「・・・仕方がありません。やれる所までやりましょう。ここで引き下がるわけには行かない」

「・・・だな」


傍から見れば男二人に少女一人が対峙しているのだから、こちらが有利だと考えるだろう。


だが、戦闘慣れしていない俺でもわかる。


こいつ、強い・・・!


まだ剣も交えていない、お互いの間合いにも入っていない状態だがわかる。生半可な奴が挑んで勝てるはずがないと。


「ちょっと二人ともー、こないの?・・・じゃあ、こっちから行くよッ!」


エーリカは長くて重そうな大剣を滑らせながら、こちらへ向かって一気に加速してくる。


「うわわっ・・・!」


俺は慌てて受けの体制に入った。剣同士がぶつかり合って甲高い金属音を奏でる。


だが、剣の大きさも重みも違うのだから、受け止めきれるはずが無い。俺はどんどん後ろに押されていく。倒れないようにするのが精一杯だった。


「くそっ・・・!」

「ちょっとー、さすがに弱すぎない?」


対するエーリカは呆れたように呟いた。


「もうちょっとさ、手ごたえってもんが__うわっと!」


エーリカは一瞬驚いた顔をした。というのも、俺がいきなり剣を押し返して来たからだ。


だが、俺自身なぜ剣を押し返せたのかは不思議だった。だが、後ろを振り返って納得がいった。


風が俺の背中を押していたのだ。もちろん、この中で風を操って俺を助けられるのは一人しかいない。


「ミシェルさん、俺が援護を引き受けます。安心して戦ってください」

「ドーラフ・・・!」


俺はそのドーラフの力強い言葉に感激した。しかし、よく考えてみる。


「・・・なぁ、ドーラフ。俺のレベルで勝てると思うか?」

「ミシェルさん、すみません。俺、戦闘のレベルで言うとミシェルさん以下です」

「そんなバカな!」


俺はいきなりのドーラフの告白に衝撃を受ける。あんなにリディと対等に渡り合ってたのに!


「俺が戦闘で役に立つのは風を使った攻撃だけです。だから俺が援護に回りますから、ミシェルさん、戦ってください!」


無茶苦茶じゃねーか・・・。勝てるわけが無い、こんな中途半端なパーティ。


だけど、とにかくやるしかない。


俺は剣を再び構え直す。正直女の子相手に剣を向けるのは・・・と躊躇っていたが、そんなこと言っている場合ではない。相手はガチで強い。少女だからと舐めてかかったらこっちの命が無い。


俺は覚悟を決めて横に振るった。だが、対人戦の経験など無い俺は、覚悟を決めたにもかかわらず、その振るった剣に力を込められなかった。


エーリカは悠々とその俺の剣をかわす。


「何その剣っ。その程度のレベル、戦場じゃ三秒も生き残れないよー?」


そりゃそうだ。ド素人が戦場で生き残れるわけが無い。


だが、今は生き残らなければならない。


エーリカは大剣を俺めがけて思い切り振り下ろした。その瞬間、俺の頭上に竜巻が巻き起こる。


その竜巻はエーリカの大剣を受け止めるほどの圧力だった。


大剣が竜巻に弾き飛ばされ、その瞬間エーリカは後ろに体勢を崩した。


今だ!俺はそう思い、そのままエーリカへと斬り込む。


だが、エーリカは俺が剣を振るう前に、その手に持っている大剣を床に思い切り刺した。そして、その剣をバランスに、体を旋回させ、そのまま飛び蹴りを繰り出してきた。


予想だにしていなかったその蹴りは俺の腹にクリーンヒットし、俺は見事に吹き飛ばされる。そしてそのまま壁にぶつかって倒れ伏した。一瞬息が詰まる。威力が半端じゃないことを身をもって理解した。


「ミシェルさん!」


遠くでドーラフの声がする。頭を打ったのか、意識が朦朧としているとき、次の瞬間、隣にドーラフが吹っ飛ばされてきたのを確認し、血の気が引き、意識がこちらに呼び戻された。


改めて敵の強さを確認させられた。やはりコイツはとんでもなく強い。


エーリカがこちらへゆっくりと歩いてくる。屈託の無い笑顔で歩いてくる姿は実に恐ろしかった。


「うーん、まぁ、二人とも素人にしては楽しめたかな。まぁ、二人とも片っぽだけじゃ話にならなかったけど。っていうか、ドーラフが強かっただけだけどね」


最後の一言が心にクリーンヒットしたのは置いておいて、俺は横目でドーラフを見る。俺と同様に蹴られただけのようだ。生きてはいる。


こいつだけは生き残らせなければならない。こいつは今回の件に関しては無関係だ。ここまで着いてきてくれて、命を落とさせるわけにはいかない。リディに代わりちゃんと逃げ帰らせねばならない義務がある。


「二人とも、楽しかったよ」


エーリカは大剣を振り上げる。俺は慌ててエーリカに向かって叫ぶ。


「待ってくれ!ドーラフだけは!」

「何も聞くことなんてないよ」


エーリカはそう言って無情にも大剣を俺に向かって振り下ろした。


ああ、俺もとうとう死ぬのか。


そう思い目を瞑った。







だが次の瞬間、コン、という少し軽い音と共に、頭に鈍器をぶつけたような衝撃。思ったほど痛くない。というか生きてる。もちろん、まったく痛くないなどということは無いが。


その次に隣でも、コン、という音がした。


俺は頭を押さえながら目を丸くしてエーリカを見る。先ほどの殺気はもう見る影も無かった。今の彼女は普通の女の子。彼女は悪戯っぽく笑った。


「不法侵入した罰だよ。悪く思わないでね」

「ば、罰って・・・今のが?」

「うん」


倒れている俺たちに向かって屈んでいる彼女は、大剣の柄頭を俺たちに向けていた。恐らく、あの部分で殴ったのだろう。ちょっとだけ痛かった。


エーリカは剣をしまい、俺たちに手を差し出した。


「二人が素人だっていうのは、会った瞬間から見抜いてたよ。まぁ、ドーラフがあそこまで自由に風を使いこなせるっていうのは計算外だったけどさ。でも、さっき言ったでしょ?戦場じゃ三秒も生き残れないって。私だったら三秒もかからずに終わらせられる。戦ってるときには、二人を殺そうなんて思っちゃいなかったよ」

「じゃあ、なんで・・・」


俺の問いに、エーリカは差し出した手を引っ込めて急に真面目な顔に戻る。


「試す必要があったの。二人が信用に足る人間かどうか、ね。最初からあえて殺気を出して、それに怯えて二人が王女を捨てて逃げ出すようなら、有無も言わさず斬り捨てるつもりだった」

「エーリカちゃん、どういうことなの?」


ドーラフが腹をさすりながら立ち上がる。俺も手に持った剣を杖代わりにして立ち上がった。エーリカはまだ答えていいものか考えているようだった。何かあるのだろうか?そうして少しして、エーリカは諦めたように溜め息をついた。


「・・・この国に、異変が起きているかもしれないの」


エーリカはそう、嘆くように呟いたのだった。


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