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さて、決意を固めた次の日に、俺は王女へ問うた。


「リディ様。なぜ「俺」などという言葉をお使いになるのですか?」

「ああ、それはだな。誇り高き騎士に憧れているのだ」


そう言って王女が本棚から出してきたのは、児童向けの絵本だった。童話などの由緒ただしき物では到底なく、子供向けの絵本というのが正しいかもしれない。


「これは・・・騎士の本、でございますか?」

「ああ。俺が幼い時に、母上が初めて読んでくれた本だ。とても衝撃を受けたのを覚えている」


王女はいとおしそうにその本を眺めると本棚へしまった。


俺も、あの本は小さいときに読んだ事がある。


確か、豪快だが実直な騎士が大胆にも、悪の組織の支配により荒廃した国を再建していくという話だったはずだ。いわゆるヒーロー物というくくりに入るやつだろう。


確かに子供だとかっこいいと思ってしまうのかもしれない。その純粋な心は大変素晴らしいものだ。心が豊かに育っているようで、さすが安寧と秩序という言葉を絵に描いたような国だ。だが、その純粋さが将来にまで影響してしまうとは。


「・・・そうなんですか」

「どうした?浮かない顔だが・・・?」


きょとんとして俺の顔を見上げる王女はとても美しく、どこかあどけなさが残った顔立ちで、とても女性らしかった。


黙ってりゃ立派な王女様なんだがなぁ・・・。


「いえ、なんでもありません。それと、王女。失礼ながらあなたは王女という身。将来は王妃様となる身でございます。その際に、「俺」という言葉遣いは少々問題があるかと。どうか、一人称を「私」に変えていただけないでしょうか」


すると王女はなぜか顔を赤らめる。


「わ、私とはなかなか恥ずかしくてな・・・前の教育係の者にも言われたのだがな。なんとも・・・」


オイオイ。僕って言うのを恥ずかしがる思春期の男子か。


「そ、そうなんですか・・・まぁ、少しづつでいいですから。せめて、民衆の前に姿を現す時だけはその言葉遣いを直していただきたいのです」

「・・・善処する。が、期待はするな」

「いや、お願いしますから期待させてくださいよ・・・」


駄目だ、会話が平行線だ。


解決策が見当たらないまま、俺は王女の部屋をあとにした。


実は俺は今朝、大臣に王女の可視化ステータスデータを見せてもらっていた。


可視化ステータスデータというのは、visualization status data。通称VSDと言って、その人間の能力を数値化したものだ。普通は見ることができないのだが、神父や僧侶などの魔力が高い者が習得できる呪文や、その呪文が施された装飾品などを身につけることで見ることができる。


王女のものは、毎日王室付きの魔術師が測定して記録しているそうだ。


それを見た俺は空いた口が塞がらなかった。


見れる情報は事細かにあるのだが、その中でも俺が必要であろうと思われるものを見ることができた。


一つは、王女の性格。性格と言っても、女子力と男子力の比率という超簡単なものだが。


リディ・アルシェ(17)


男子力:9


女子力:1



おいおい、普通は逆じゃねぇのか・・・?てか、女子力1って!いや、まだ0じゃ無いだけマシかもだけどさ・・・。


ちなみに俺のはこんな感じだ。



ミシェル・バルビエ(20)


男子力:8


女子力:2



何で俺より男子力高いんだよ!てか俺の方が女子力あるってどういうことだよ!ちょっと男として自信なくしたじゃないか!



そしてもう一つ。これは冒険者等が一番利用する情報だが、特技や特徴、レベルなど。レベルというのは、自分の職業(タイプ)の攻撃力、防御力、生命力の高さを総合的に評価したものだ。職業は戦いに行かないものでも、誰でも持っているタイプ。いわゆる素質のみなので、子供でも賢者とかが稀にいる。


リディ・アルシェ(17)


職業:剣士 Lv40


攻撃力:250

防御力:100

生命力:100


俊敏さ:300




待て待て待て!なんだよこの攻撃力と俊敏さ!てか王女なのに何でこんなに攻撃力高いんだよ!それにめっちゃ素早いし。


ちなみに比較するために公表するが俺のはこんな感じだ。


ミシェル・バルビエ(20)


職業:剣士 Lv5


攻撃力:10

防御力:5

生命力:20


俊敏さ:3



弱っ!俺、弱っ!いや、これは王女が強すぎるんだ!きっとそうだ!


俊敏さ3ってドンだけ鈍くさいんだよ・・・。まぁ、近所のおっちゃんの見せてもらったときもこんな感じだったから王女が異常なんだろうと思うけどな。てか王女なのに剣士ってどういうことよ。


恐らく異常なほどに・・・いや、失礼。希望に満ちた強烈な憧れが王女を騎士の世界へと引きずりこもうとしているのだろう。


結論から言おう。このままでは王妃にはなれない。王女が人前に姿を現さないのは、これが原因だった。大臣達が今のままでは到底人前に出せないと、うまい事人と会わせないようにしていたのだ。・・・言っちゃ悪いが、それは賢明な判断だと思う。


勿論、騎士国家で王女や妃が戦になると最前線で戦いまくる国もある。お隣の聖ティール帝国はそのような国だ。ここの国に生まれたらリディ王女は泣いて喜ばれるほどの逸材だった事だろう。


だが、お隣の国にもかかわらず我がシゲル国はむしろ保守的な平和主義国家だ。その国の妃とあらば、平和と安寧の象徴でなければならない。つまり、こんなにアグレッシブでは駄目なのだ。このままでは暴動が起きかねない。抗議の声が殺到するだろう。


ましてや、騎士に強烈な憧れを抱いているなど・・・。いや、俺個人としてはとてもすばらしいことだと思うが・・・やはり、民衆や伝統のことを考えると、せめて人目に出るときは慈悲深き聖母を演じてもらわなければ困る。


絶句している俺に、大臣が聞いた。


「・・・なんとか、なりそうかね?」

「・・・頑張ります」


自分の笑顔が引きつっている気がするが、その辺は気にしない方向で。









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