表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/40

対立

基地内は騒然としていた。負傷者はいるが、死者はいないようでほっとした。今ならまだ間に合う。


怒声のするほうへと足を進める。それがだんだんと近づいてきた頃、俺は妙な風が吹いている事に気がついた。


「なぁ、この風、気がついてるか?なんか、生暖かいような、足元にまとわりつくような感じがするんだが・・・」

「ああ。恐らく、魔術の一種だろう。シゲルの魔術兵か、あるいは__いや、なんでもない」

「なんだよ。はっきりしろよな」


リディの表情は険しかった。その表情にますます不安になる。考えるのはよそう。とりあえず、現場に行って己の目でこの風の正体を確かめねば。少なくとも、この風はいい物ではないだろうことは想像ができる。油断しては駄目だ。何が起こっているのかはわからないのだから。この風が吹いてきているのは、中庭の方からのようだった。


こうして、基地の中庭にやってきた。基地は上から見るとドーナツ状になっていて、輪っかの中__つまり中庭にあたるところで戦闘が始まっていた。不運な事に、この中庭への入り口は一つしかなく、応接室のちょうど反対側にあった。なので、移動まで少し時間がかかってしまった。状況が悪化していないかが心配だ。


中庭への扉を開けて、勢いよく飛び出した。


「ドーラフ!」


やはり戦っていたのはドーラフだった。ドーラフは長い槍を両手に持ち、恨みのこもった目で兵士達を睨み付けている。そして、その目は俺たちに向けられて、憎しみの色を帯びた。


「リディさん・・・ミシェルさん・・・なぜ、黙っていたんですか」

「な、何の事だよ、ドーラフ」


嫌な予感がした。胸騒ぎとでもいうべきか。


「シゲル国の王女の名前、リディ・アルシェというそうですね。あなたのことでしょう、リディさん」


リディは何も答えない。ドーラフは続ける。


「リディさん、俺は一度装備を整えるために集落に戻ったんです。そうしたら・・・サラーナが、死んでいました」


俺たちは息を呑んだ。


「サラーナが・・・どうして・・・!」

「間に合わなかったそうです。俺が行くすぐ前に、もう・・・」


ドーラフは目を伏せる。そして、憎しみのこもった目でリディを見つめた。


「リディさん。俺はあなたを許さない」


槍をリディにむけて構える。俺は慌ててリディとドーラフの間に割って入った。


「ま、待てよ!俺たちだって今回の事は予想外というかなんというか・・・とにかく、関係ないんだ!槍を引いてくれ!」

「待て、ミシェル」


リディが手で制する。そして、リディは俺の前まで来ると、静かにレイピアを抜いた。刀身がきらりと光る。


「お前の怒りはもっともだ。だから、お前の槍、俺の剣で受け止めよう。さぁ、全力で来い!」

「リディ・・・!?ドーラフと戦う気か!?」

「もとよりその覚悟はしていた。俺はドーラフの怒りを受け止める義務がある。逃げる事は俺が王女である限りしてはいけないことだ」

「だからって・・・」


うまくすれば犠牲を最小にすることができるかも知れないのに。


俺はドーラフに力の限り叫んだ。


「ドーラフ、聞いてくれ!交渉はうまくいったんだ!今はみんなの声をいち早く元に戻すべきだろう!?」


だが、ドーラフは槍を下ろさない。


「信じられるわけ無いでしょう。あなた方はあの魔女の頭領とも言える存在なのですから。あなたを倒して、魔女を倒して、声を取り戻してみせます」


ドーラフの目は血走っていた。もう俺たちを信用していないってことだろう。リディは軽く微笑んで俺に言う。


「ミシェル、心配するな。俺がうまくやってみせる」


任せろってことか・・・。とりあえず俺はリディのことを見守っておくことにした。


「さぁ、ドーラフ。手加減は無しだ」

「もちろんです・・・!」


ドーラフは槍を勢いよく地面につきたてた。


「__サイクロン!」


その瞬間、槍の周辺に風が集まり始める。そしてそれは段々と大きくなりはじめた。


(竜巻・・・!?)


俺はとっさに状況を理解した。周りが危ない。


「皆、この場から離れろ!」


俺が兵士達へと叫ぶと、兵士達は一つのドアへと一目散に駆け出した。俺も壁際の木につかまる。


だが、あんなものリディが食らったらひとたまりも無いだろう。


「リディ、逃げろ!」


だが、リディは動かない。槍の周りで大きくなった竜巻は、槍の元を離れ、リディに向かって物凄い速さで突っ込んでいった。


あと数センチでリディに当たると思われたときだった。


竜巻がいきなりかき消えた。


それには俺もドーラフも目を丸くしていた。


「な・・・何をしたんですか!」


ドーラフが狼狽する。リディはなんでもないというように言う。


「お前のサイクロンを俺のサイクロンでかき消した。それだけだ」

「それだけだ・・・って、あなたは剣士のはず。魔法は使えないはずです!」

「ああ。だが、一応護身のため、城では魔術師による魔法の指導があった。だが、いくつか魔法を習ったにもかかわらず、俺のVSDは剣士から変わることは無かったがな」


そんなことが・・・。これは俺も聞かされていなかったことなので驚いた。


ドーラフは唇を噛んだ。リディは顔色を変えずにドーラフに言う。


「ドーラフ、お前は見たところ、風使いだろう。風魔法に特化した魔術師・・・。風使いと戦うのは初めてだ。俺はお前と戦えることが嬉しい。今度は・・・こちらからだ!」


リディは瞬時に間合いを詰めて、剣を突き出す。ドーラフは槍の柄の部分で受け流した。そして、ドーラフは距離を取って槍を振るう。リディはそれを紙一重で避け続けた。


互いに一歩も引かない攻防。素人の俺でもレベルの高い戦いだということがわかる。


(リディ・・・頑張れ)


俺は心の中で祈った。祈ることしかできない俺はなんて無力なんだろう。


兵士達は避難したまま窓から不安げに様子を窺っている。このハイレベルな戦いに手出しするのはできないと判断したのだろう。


やがて、2人とも疲労してきて、一旦距離を取った。


「リディさん・・・あなたは強い。でも、もう体力は残っていないでしょう」

「それはお互い様だろう。次の一撃で決めようじゃないか」


そうして2人はにっ、と笑った。


距離を取った2人は詠唱を始める。


(2人とも魔法で決めるつもりか・・・!)


リディの魔法をちゃんと見たことのない俺は不安半分、期待半分でその様子を見守っていることしかできなかった。


「__フレアショット!」


リディが唱えた。その瞬間いくつもの火球がリディの周囲から出現する。

そしてそれはドーラフに向かって飛んでいく。


「__トルネード!」


ドーラフが唱えると、立てた槍の周囲から、先ほどより大きい竜巻が出現した。


だが、恐らく規模からしてリディの魔法の方が劣るだろう。まして、リディは剣士だ。元々魔法が得意なわけではない。


(この勝負・・・圧倒的にリディが不利だ・・・!)


ドーラフの槍の元から離れた竜巻は真っ直ぐ飛ばず、リディの火球をかき消しながら飛んでいく。


かなりの数があった火球はすぐに数個に減った。そして、残りの火球を消しにいこうとしたときだった。


火球はいきなり複雑な軌道を描き、竜巻を避けていく。そして、ドーラフの足元に直撃した。ドーラフは思わず体制を崩して尻餅を着いた。


「あ、当たった!」


俺は思わず声を上げる。その瞬間にドーラフの魔法で出現させた竜巻は消えた。そしてリディはその隙を逃さず、一瞬で間合いを詰める。そして、手に持ったレイピアをドーラフの喉に突きつけた。


「・・・勝負、あったな」


リディは静かにはっきりと言葉を紡いだ。


「・・・なぜ、殺さなかったんですか」

「お前を殺して何の意味がある。お前はガルナル族の皆を助けに来たのだろう。それは俺たちも同じだと告げたはずだ。ここで争うことは無意味だ」

「けど、あなたは魔女の長にあたる人物で・・・!」


まだ信じられないという様子のドーラフに、リディは小さく溜め息をついてレイピアを戻す。


「もし俺の目的がガルナルの声にあったとしたら、それを取り返しに来たお前を真っ先に消すだろうな。それをしないということはどういうことだか、お前もわかるだろう」

「そ、れは・・・」


ドーラフは俯いた。そのとき。


「姫様の言う通りでございます」


一つしかない中庭への入り口から声が聞こえた。


俺たちが一斉に振り向くと、そこにいたのはメガイラさんだった。


「魔女め・・・!」


ドーラフはとっさに槍を掴み、メガイラさんへ向かっていく。その手をリディが掴んだ。


「待ってくれ、ドーラフ。彼女の話を聞いてくれ」

「何を言い出すんですか、リディさん!」

「ドーラフ、頼む・・・」


リディのその真剣な目に、ドーラフはしぶしぶ槍を下ろした。メガイラさんはその様子を見て、ドーラフの元に駆けつけ跪く。


「ドーラフ殿。この度は申し訳ないことをいたしました。事情は姫様からうかがっております。すぐに声はお戻しいたします。どうか、平にご容赦ください」

「魔女め・・・謝って許されることではないだろう!もう、手遅れの者も出たのだぞ・・・!」


メガイラさんは額に汗を掻きながら跪き続けている。そして、恐る恐る口を開いた。


「お、恐れながら・・・その方は場合によっては助かるやも知れませぬ」

「どういうことだ?」


聞いたのはリディだ。メガイラさんは目を見開きながら言う。


「姫様、あなたなら知っておられましょう。私のできうる限りの最大の魔法。禁忌とされてきたあの魔法です。いえ、もはや呪術に近いものですが・・・」


その答えを聞き、リディははっとする。


「メガイラ・・・お前、まさかあれをやるつもりか・・・!?」

「責任はわたくしが持ちます。・・・ですが、その前にまずは皆様の声をお返しいたします。ドーラフ殿もおいでください」


ドーラフは訝しげな顔をしていたが、メガイラさんについていく。俺たちも後を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ