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対話

俺はリディと一緒に奥の部屋に通された。その部屋には錬金の壺やらなにやらがびっしりと置いてあった。メガイラさんは俺たちと向き合うように座っている。その瞳や仕草からは、なんの心理も読み取れなかった。


「さて、リディ様。お話、とは?」

「お前が今やっていることについてだ、メガイラ。ガルナル族の存続を脅かすような事をして、さらには国家直属のシゲル兵団まで出すとは何事だ。誰の命令だ?このようなこと、お父様が命じるはずが無い」

「それは・・・申し上げられません」


メガイラさんは俯いた。この人から悪意は感じなかったが、頑なに口を閉ざす様子に違和感を覚えた。


「言えないということは無いでしょう。現シゲル国国王であるガストン王と現シゲル国王妃ジュリア妃の次に権力を持つリディ様の問いでございますよ。これに応じないということは、これを命じたのはリディ様のご両親のどちらかということになります」


まぁ、王様と王妃様の命ではないとは思うけどな。


「そう、なるのはわかっております。しかし・・・」


なぜそうまでして明かさないのか。リディはそのやり取りを腕を組んで静かに見つめていた。そして、少し静寂が流れた後、リディがポツリと呟いた。静かだが、確信的な声音がその場に響いた。


「・・・叔父様か」

「・・・何を、おっしゃいますか」


明らかに動揺した。返事もワンテンポ遅れている。メガイラさんの肩が、わずかに震えていた。


ビンゴか・・・。


「ジャメル公爵なんですね、メガイラ様」


俺はほぼ確信に近い形で聞いた。公爵ならこういうことを命じてもおかしくないとは思っていた。


「・・・もう、確信をお持ちなのですね」


メガイラさんは諦めたように溜め息をついて言った。やっと口を割ってくれたか。


「叔父様の命だという事はわかった。では、直ちに声を返してくれるな?」

「それは・・・できません」

「俺からの命令だ」

「それでも・・・」

「メガイラ様。公爵と王女の命令、どちらを優先すべきか、聡明なあなたならお分かりになるはずだ」

「わたくしとて、このような研究は進めたくありませんでした・・・しかし」


なぜそこまで拒むのだろう。命じたのがジャメル伯爵だとすると、今までの手口などから弱みを握ったのだろうという事は想像ができる。


「あなたにも口外できないような事情があるのであろうということは、お察しできます。しかし、それではガルナル族の民が死んでしまう。どうか、ご英断を」

「どうせ叔父様の事だ。弱みを握って無理強いをしているのだろう?」


お、おいおいリディ・・・そう堂々と聞くかね。弱みを握られてるって他人に知られるの、結構心に刺さるぞ?


「・・・その通りでございます」


メガイラさんがか細い声で言った。リディは呆れたように溜め息をついた。そして、真剣な顔になって、メガイラさんに語りかける。


「やはりな。だが、ここでこのようなことをしてガルナルの民の声を奪い、殺めてしまったとなれば、また更に弱みが増える。今お前が握られている弱みがどのような物かは知らんが、今回の事はおまえ自身が罪悪感を感じるほどの弱みとなるだろう。そのような生き方は、どうかと思うがな」


その言葉に、メガイラさんの瞳が揺らいだ。そして、大きな深呼吸を一つすると、俺たちをまっすぐ見つめて告げた。


「姫様、ミシェル殿・・・わかりました。ガルナル族の民の声を返しましょう」

「ほ、本当ですか!?」


俺は嬉しさのあまりガタッと立ち上がった。これで全て上手くいく。血を流さずに、ガルナル族の人たちを助ける事ができる。リディの顔をちらりと盗み見ると、彼女もほっとしたような、満足げな顔をしていた。そして、心底嬉しそうにメガイラさんの下へ駆け寄って、その肩を叩きながら話す。


「メガイラ、お前は本当に賢いやつだ。お前の決断に敬意を表する。公爵のほうは俺たちがなんとかしよう。弱みなど気にするな。俺はお前に、人を殺めて欲しくは無い」


メガイラさんは、その言葉を聞いて一瞬目を丸くしたが、次の瞬間、感極まったような声で俺たちに言う。


「姫様、ミシェル殿・・・わたくしが、間違っておりました。わたくしは、つまらぬ弱みを握られたことに怯え、勇気ある選択を渋っておりました。一生の恥でございます。お二人のおかげでわたくしは、正しい選択をすることができました。心より感謝申し上げます」


メガイラさんはそう言うと、丁寧にお辞儀をした。この人は悪い魔女なんかじゃない。善良な人間だ。


「メガイラ様・・・あなたは本当に聡明な人だ」

「そんな・・・これほどまでに迷う人間を聡明とは言いませぬ。それでは今、音素を抽出する装置を止めてまいります。今しばらくお待ちを__」


そのときだった。複数の悲鳴と怒号が基地内に響いた。それと同時に、俺たちのいる部屋のドアが勢いよく開き、慌てふためいた兵士が入ってきた。


「何事ですか、騒々しい」

「ご報告します、メガイラ様!不審な男が侵入してまいりました!負傷者多数!ただいま救援を呼んでおります」

「なんですって・・・!?」


これには俺たちも焦った。恐らく、その男とはドーラフだろう。せっかくすべてが上手くいくと思っていたのだが。俺とリディは顔を見合わせて頷いた。やることは、決まった。


「負傷者をここへ。直ちに治癒します」


メガイラさんが命じると、兵は、そのまま慌ただしく来た道を戻っていった。


「姫様、ミシェル殿。お聞きになられたとおりでございます。この基地に賊が侵入した模様です。ここは危険ですゆえ、裏口から避難されてください」

「いや、メガイラ。ここは俺たちに任せてくれ。賊とは俺たちが話をつけてくる」

「な、何をおっしゃいますか、姫様!あなた様を危険な場所へ連れて行くわけには行きませぬ」


ま、普通はそうだよな。こういう返答が来るとは予想していた。いや、逆に「一緒に戦ってくださるなんて!嬉しい!」なんていう答えが来た場合は耳を疑う事だろう。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。これが俺たちの最後の大仕事だ。これが終われば一件落着だ。


「メガイラ様、俺からもお願いします。俺もついてますから、安心して任せてください」


いや、俺は実際は小指の先ほども頼りにならないんだけどね?むしろ足引っ張るだけなんだけどね?それでも、俺のことを知らない人にとっては、王女を一人で行かせるよりは遥かに安心感があるはずだ。


俺とリディは頭を下げて頼んだ。メガイラさんも、リディに頭を下げさせるわけはいかないようで、しぶしぶながら承諾してくれた。


「そこまでおっしゃるならば、いいでしょう。しかしながら、無茶はなされないようにしてください。いまだ死者は出ていないとは言えど、賊はかなりのやり手のようです。どうか、ご武運を。もし負傷などされた場合には、直ちにこの部屋__応接室までお戻りになられてください」

「ああ、すまない。ありがとう。メガイラは負傷者の治療を頼む。ミシェル、話をつけにいくぞ」

「わかってる。行こうぜ!」


俺達は急いで部屋を後にした。


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