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天才魔術師

俺たちは一旦身を隠した。このまま基地へ進入するには、俺もリディもいささか混乱しすぎていた。ドーラフは、俺たちの様子に、どうしたらいいかわからず、ただおろおろしている。


「リディさん、ミシェルさん、どうなさったんです。あの紋章に何か見覚えがあるんですか?」


リディは答えない。答えないというよりも、答えられないというべきか。まだ混乱しているようだ。俺が言うしかないか・・・。


「ドーラフ、よく聞いてくれ。あの紋章は俺たちの国の兵団のものだ」

「えっ・・・?」


それを聴いた瞬間、ドーラフの目に動揺が走った。そして、俺たちから一歩離れた。警戒の色が見て取れた。そんな様子を見て、俺は早口に次の言葉を言う。


「でも、俺たちは何も知らない!俺達は、ガルナル族を助けたい一心でここまでついてきたんだ!たとえ、俺たちの国の兵士と戦うことになったとしても戦う!・・・だから、俺たちのことは信用して欲しい」

「それは・・・」


ドーラフが目を伏せながら口ごもった。まぁ、普通はそうだろうな。敵の国の人間なんて、普通は一緒に行動しようとか思わないもんな。


でも、それでも。ここまで来たんだ、やれることはやりたい。


俺はドーラフの答えを待ちながら、ちらりと隣のリディを覗き見る。リディは依然として俯いたままだ。ショックだろうな、自分の部下ともいえる兵団がこんな事をしてるなんて。


そのとき、か細いが、凛とした声が耳に届いた。


「ミシェル・・・」

「リディ、お前は何も知らなかったんだ、お前のせいじゃない」

「すまない、ありがとう」


そう答えたリディは意を決したように、すっくと立ち上がった。その顔は静かな怒りに満ちていた。何に対してなのかは、わからなかったが。そして、静かな声音でドーラフに告げた。


「ドーラフ、お前は集落にもどれ。お前は俺たちと一緒に来るのはきっと不本意だろう。そんな状態で戦われても足を引っ張るだけだ。俺たちだけであの基地を攻略する」


その言葉に、俺とドーラフはあっけに取られた。俺は我に帰るとリディに詰め寄る。


「な・・・何を言ってるんだよ、リディ!シゲルの兵団を俺たちだけ、いや、俺なんてまだ戦力にもならないから実質お前一人であの兵団をなんとかするんだぞ!?無謀すぎるだろ!」

「そ、そうですよ!いくらなんでも女性をあんな恐ろしい魔女の元へひとりで向かわせるわけにはいきませんよ!」

「ドーラフ、今完全に俺のこと頭数に入れなかったよな?」


さりげなく外されるのが一番傷つくんだよ・・・!


リディは溜め息をつくと、きれいなポニーテールを手で払って、改めてドーラフを真正面から見つめた。その目は冷ややかだったが、ドーラフに対して怒りを持っているわけではなさそうだった。


「ドーラフ、理由はそれだけじゃない。俺達だけが向かえばあの場は丸く収まるかもしれない。しかし、お前が行けば、確実に乱闘になる。無駄な血は流したくない」

「ど、どういうことなんですか?」

「俺たちだけが行けば、あの場に血は流れずにすむ可能性が高い。それだけの話だ。無駄な犠牲は増やしたくない。敵にも、味方にもな」

「あなたたちだけで行けば、丸く収まるってことですか?」

「そういうことだ」

「それは納得いきません。部外者の、ましてや、魔女と同じ国のあなたたちに、すべてを任せるわけにはいかない」


ドーラフははっきりと意思を持って伝えた。それが、ドーラフの答えだった。リディもドーラフも意思のこもった目でお互いを見つめている。

俺はどうすることもできずうろたえる事しかできなかった。


「ドーラフ・・・」

「すみません、ミシェルさん。俺は、ガルナルの皆を守る使命があるんです」


ドーラフが申し訳なさそうに目を伏せながら告げた。その様子を見たリディは表情を変えずに、ドーラフに言い渡す。


「・・・わかった。好きにするといい。ただ、ここまで来ると俺たちの自国の問題でもある。お前がもし、俺たちに背中を預ける事ができないのであれば、俺たちは俺たちだけで行動させてもらう。お前がどう行動しようと勝手だが、命だけは粗末にするなよ」


そう告げると、リディはひとり、基地に向かって歩いていった。


俺は最後にドーラフに向かって、そっと聞いた。


「どうすんだ?」

「・・・すみません。俺は、一人で行きます」

「そうか・・・」


俺はそれ以上は何も言わずに、リディのあとを追いかけた。俺には、どちらの言い分が正しいとは言い切れなかったからだ。何もできない自分が、歯がゆくてならなかった。





「で、リディ。基地の正面に移動したわけだが・・・大丈夫なのか?」

「問題ない。この旅は一応公式だ。正体をばらしちゃいけないというルールは無い」

「つまり、自分は王女だということをバラし、その権力でやめさせる、と」

「権力という言葉はあまり使いたくないが、まぁ、そういうことだ」

「だが、それで聞いてもらえなかったときは・・・」

「わかっている。戦う覚悟もしておけ」

「戦うって・・・お前、一応自国の民だぞ?そんな簡単に・・・!」

「極力避けるさ。行くぞ」


リディはこちらの話を聞かずに、基地の扉を守っている2人の兵士の前に立ちはだかった。


「な、何だ貴様は!」

「この基地は安息なるシゲル国の聡明なる大魔術師、メガイラ様のいらっしゃる基地である。関係の無い者は即座に立ち去れ!」

「そうか・・・メガイラか」


俺はリディに追いついて、横目でリディの顔を見やった。その目は怒りに燃えていた。ドーラフと話しているときにはみられなかった目だ。


そして、リディは凛と通る声で門兵たちに怒号を飛ばした。


「無礼者!俺はシゲル国王女、リディ・アルシェだ!メガイラの元へ通せ!」


二人の門兵は顔を見合わせた。まぁそりゃあこんな所に王女様がいるとは思わないもんな。それに、格好が格好だし。


「何を言うか!このような場所に、偉大なる王女様がいらっしゃるわけないだろう!」

「王女様の名を騙る不届き者め!捕らえよ!」


聞く耳も持たない、か・・・。


「リディ、どうする?」

「いたしかたあるまい。行くぞ、ミシェル」


リディがレイピアを抜いた。俺も剣を抜く。同じ国の兵士と戦うのか・・・!


そのとき。


「あらあら、なんの騒ぎ?」


門がゆっくりと開かれて、その場にいた全員がそちらへと目をやった。そこには、紫のローブを着て、紺のウィッチハットをかぶった女性がいた。23、4歳くらいだろうか。妖艶な見た目をしている。


俺だって名前くらいは聞いた事あった。天才魔術師メガイラ。彼女は7歳の時に王室つきの魔術師になったそうだ。シゲル国きっての魔法使いだった。


「メガイラ・・・!」


リディもよく会っていたのだろう。すぐに気がついた。そして、それはメガイラさんも同じだったようだ。


「ひ、姫様!?どうしてかような所へ!?」

「メガイラ。俺はお前に話があってきた。通してくれるか」

「わかりました。・・・あなた達、この方達をお通ししなさい」


メガイラさんが兵士達に申し付けると、兵士達の顔がたちまち青くなった。


「リディ王女!申し訳ございません!まさか、あなた様がこちらへいらしているとは」

「別に構わない。行くぞ、ミシェル」

「あ、ああ・・・」


俺は足早にリディのあとを追った。どうやら偽者扱いしたことについては全くと言っていいほど腹を立ててはいなかったようだ。


「ふつーは怒るよなぁ」


俺はリディの懐の深さを改めて実感したのだった。

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