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ガルナル族



さっき出発したばかりの小屋へ到着した。相変わらずさまざまな物が乱雑においてある小屋だ。


とりあえず、俺たちは藁を集めてベッドを作り、女の子をそこに寝かせる。


一息ついて床に座った。ちらりと横目で女の子を見やる。女の子はまだ目覚めない。


「リディ、これからどうするんだ?」

「・・・声を取られたと言っていたな」

「ああ。とりあえず、アイリスのことが終わったら本国に報告するか?」

「いや、そんな悠長な事を言っている暇はないかもしれない」

「どういうことだ?」


声を取られたぐらいでは命に関わる事など無いはずだ。そう急ぐ事は無いはずだが。


そう思っていると、リディがサックから一冊の本を取り出した。題名は、「世界の雑学」。いかにもリディが好きそうな本だ。


リディは何ページかめくると、俺に差し出した。そこのページには、「食事をしないガルナル族。主食は音楽!?」という大きな見出しがあった。


「ガルナル・・・?聞いた事無いな」

「ああ。俺もこの本を読んで知った。今は無きガルナルという村の民族だったらしい。今では遊牧民族の一種で各地を渡り歩いているそうだ」


俺はリディからその本を受け取ると黙々と読み始めた。ガルナル族の特徴は、桃色の髪、茶褐色の肌、青い瞳、澄んだ声、高い聴力らしい。


見た目の特徴は一致している。そして、少女が持っていたピンクに輝く石。これは自分の声を、魔力を使ってターゲットの脳内に直接響かせるための石らしい。このガルナル族はこの石を共鳴石(きょうめいせき)と呼んでいて、とても神聖な物とされているそうだ。そして、この民族の一番の特徴は、物を食べないことだ。食事は「歌」。自分で歌を歌ったり、他のガルナル族の者の歌を聴いたりすることが俺たちでいう食事にあたる。


俺は一通り読み終えると、本をリディに返した。


「なんつーか・・・不思議な民族だな」

「ああ。とても神秘的だ。彼らの歌は一度は聴いてみたいものだ。・・・恐らく彼女はガルナル族だろう。彼らの声が取られたということは、死を意味する」

「なるほど。何も食べれないのと同じだもんな」

「その通りだ。見逃すわけにはいかない」

「でも、これ以上関わったらアイリスが・・・」


アイリスのほうも切羽詰っている事には変わりなかった。


「そのことだが、ミシェル。俺はアイリスはまだ無事だと思う」

「どうしてだ?」

「敵は、アイリスを“連れ去った”のだ。殺したわけではない。もし、ラーグへの進軍の弊害になっているアイリスを始末したいなら、その場で始末すればいい話」

「うーん、兵士を一人で一網打尽にしたやつだから、まともにやりあっても勝てないって思ったんじゃないのか?」

「そんなやつが、なぜアイリスを連れ去れた」

「あー・・・アイリスが寝てたとか」

「だとすれば殺すことだってできるだろう」

「あ、確かに」


そういわれてみると、なぜ連れ去ったんだろう。敵の狙いがわからない。


「いいか。奴らはアイリスを連れ去らなければならなかったんだ。つまり、生きたままでアイリスを手元に置いておかなければならない、なんらかの理由があるはずだ」

「なるほど。つまり、まだアイリスは生きてやつらに捕まっている可能性が高い、と。そういうことだな?」

「その通りだ。だから、こちらを優先した方がいいだろう」

「そう、だな・・・たしかに、ほっとけないもんな」

「それに、困っている人を放っておいて助けにいったなんて言ったら、アイリスにどやされる。あいつ、困ってる人は放っておけないやつだからな」

「おいおい、それはリディもだろ」

「ふふ・・・否定はできないな」


お人よしなのだろうか、俺も、リディも。俺は、立ち上がってリディに言う。


「とりあえず、この女の子が目を覚ましたら、この子からできるだけ情報を集めよう。このままじゃ、どうすれば解決できるかもわからないからな。俺がこの子を看てるから、リディは外で素振りでもしてるといい」

「そうか、助かる」


せめて、この旅の最中は、少しでも長い間、剣を握らせてあげたかった。ふと、窓の外を見ると、リディがとても充実した顔で木剣を振っている。それはもう、見ているこっちが幸せになるほどに。そんな様子を視界の端に入れつつ、俺は女の子が目を覚ますまで、ずっとそばでじっとしていた。




少し、うたた寝をしてしまったかもしれない。俺は袖が引っ張られる感覚で現実に引き戻された。ふと、横を見ると、俺の袖を引っ張っていたのは女の子だった。


「あ、気が付いたのか」


コクリ、と女の子が頷く。俺は立ち上がり、戸を開けてリディを呼ぶ。


「リディ、女の子が目を覚ましたぞ」

「そうか。わかった、すぐ行く」


リディと俺が女の子の目の前に座る。リディが優しく女の子に聞いた。


「体は大丈夫か?」


女の子は静かに頷く。その様子を見て、リディは微笑むと、続けた。


「俺はリディ。こっちはミシェルだ。さて、君に聞きたい事がいくつかあるんだが、構わないか?」


女の子が頷いて、ポケットから例の石を取り出した。それをリディは手で制する。


「いや、君は俺が質問する事を首を振って答えて欲しい。その石を使うと君の体に負担がかかるからな」


女の子はそれを聞くと、頷いて石をポケットにしまった。


「さて、まず聞きたい事だ。君はガルナル族か?」


女の子は頷いた。やっぱり。


「そうか。ではその石は共鳴石なのだな?」


女の子は頷く。


「では、次の質問だ。他の村人は全員無事か?」


女の子は考え込み、首をかしげた。わからない、という事だろう。


「では、今回の事件についてよく知っている者の場所はわかるか?」


女の子は、考え込み、頷く。


そこまで聞いて、リディと俺は顔を見合わせる。


「恐らくここまで、だな。聞きだせるのは」

「だな。これ以上は、はい、いいえ、だけじゃ無理だ」


そうして、リディは最後に女の子に聞く。


「では、その事件についてよく知っている者の場所へ案内してもらえないだろうか?」


女の子は元気に頷いた。


「それは助かる。では、まだ日も高いし、すぐに出発しよう」


俺たちは安堵する。これで事態は進展した。なんとか、この女の子達を助けることができるかもしれない。


女の子はすっかり元気になったようで、走りながら俺たちを先導していった。リディが言ったように、魔力の使いすぎで倒れていただけのようで、少し安心した。



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