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東洋の剣士

門まで歩くうちに、自分の気持ちに整理をつけた。つまりはリディの身を守れればいいのだ。要約すれば盾である。だから、リディから目を離さなければいいのだ、という考えに至った。我ながら無理やりな考えだが、自分が納得できればそれでいいのだ。


もっとも、そんなことを考える前に道中でレベルが上がればいいだけの話だ。前向きに考えようじゃないか。


などと、頭の中が大忙しのとき、リディが顔を覗き込んできた。


「何一人で百面相しているんだ?」

「へ?ああ、いや。大丈夫だ。リディこそ大丈夫なのか?緊張とか、してるだろ?」

「別に緊張などしていないさ。そんなことして、体が動かなくなるのが怖いからな。無に近い状態で戦闘を行うのが一番だ」

「そうなのか。まあ、大丈夫そうならいいけど」


まあ確かに、レベル5の人間がレベル40の人間を心配するのもどうかと思うが。


そんなこんなで俺達はティール帝国へと向かっていた。馬などがあるわけでもないので、恐らく3日はかかるだろう。王女であるリディを野宿させるのは気が引けたが、仕方が無い。


とりあえず、初日だけでも何事もなく済んで欲しいものだが。



しかし、そんな願いも無情に崩れるのだった。


「なあ、リディ。何か聞こえないか?」


遠くから、馬の嘶きのような声が聞こえた。キャラバンでもいるのだろうか。


「ああ。聞こえるな。・・・つくづく俺達は運が無いらしい」


その嘶きが近づくにつれてリディの表情が次第に険しいものに変わってい

った。


俺は恐る恐る聞く。


「・・・やばい、ものなのか」

「ああ。かなりな。見つからないように動くぞ」


この運の無さは何だ。行きでもそれなりに強い魔物に遭遇し、また強い魔物に遭遇したというのだ。勘弁してくれよ、全く。


気配を消して動くのは得意じゃないが、そうも言ってられる状況ではない。獣は人間よりも五感が鋭い。がさごそと音を立てようものならすぐに見つかってしまう。


ゆっくりと草を踏み分けるように進む。と、そのとき。


目の前の気配が揺れ動いたかと思うと、行きで出会ったあのウィザードクリスタルという魔物が目の前に出現した。


「ちっ・・・タイミングの悪い」


リディは吐き捨てるように言うと、レイピアを抜いて敵の懐に音も無く入り込んだ。そして、無駄の無い動きで渾身の一突きを浴びせる。


敵は大きな悲鳴を上げて動かなくなった。



・・・うん、倒した。さすがリディだ。


でも、これやばいんじゃね?今の悲鳴、確実に遠くにいるであろう化け物(まだ断定はできないが)に聞かれているはずだ。


リディも眉間にしわを寄せる。


と、そのとき。またあの恐ろしい嘶きが聞こえた。そして、今度は嘶きだけでなく、足音まで聞こえた。確実に近づいてきている証拠だ。


やってしまった。気付かれたのだ。俺はおずおずと、リディに聞いた。


「リ、リディ、どうすんだ」

「・・・逃げるぞ」


だろうな。もうこうなったら気配を消すのは無意味だ。だったらこのまま突っ切る方がまだいいだろう。


「まだ敵の姿は見えない。ということは、それなりに距離があるはずだ。走ればなんとかなるかもしれない」

「なるほどな。・・・じゃあ、行くか」


俺たちは音が立てられるのも気にせず走り出した。




やはり、追ってきているようだ。走りながら後ろを確認する余裕は無いが、足音が聞こえるのでわかる。


ちらりと、リディを見やると今までに見た事が無いほど焦りがある表情をしていた。


・・・そんなにヤバイやつなのか。


たしかに、姿が見えないほど距離があったのに足音や嘶きが聞こえてくるくらいだ。相当でかいやつなのだろう。もしそいつが強すぎて、リディが太刀打ちできないやつだったとしたら・・・。


(くそっ・・・いきなり大ピンチかよ!)


俺が盾になるしかない。心の中では覚悟を決めた。まぁ、そのときに体が動くかは別だがな。


色々考えつつも走っていたが、あるとき体が横に引っ張られた。リディだ。


「う・・・うわっ!」


俺はドペッという効果音が相応しい感じで盛大にこける。なんとも情けない男だろうか。引っ張ったリディはというと、しっかりと受身を取っていた。俺もああなりたいものだ。


「い、いきなり何するんだよ、リディ・・・」

「大馬鹿者。横を見てみろ」


そう言われて振り返ると、今まで俺がいた場所の地面が抉り取られていた。そして、その近くには大きなひづめ。


「追いつかれたのか・・・!?」

「気がつかなかったのか、お前は!?鈍いにも程があるぞ!」


リディが叫びつつもレイピアを抜く。俺もへこんでる暇も無かった。すぐに剣を抜いた。戦えなくたって、盾ぐらいにはならなくてはならない。


リディは自分の何倍もある敵を恐れずに突っ込んでいった。


敵は大きなひづめを持ったユニコーンと呼ばれる聖獣だった。文献などでしか見たことのない、幻の生き物だ。聖獣は魔物と違い、知性を兼ね備えている。中には人間の言葉を喋れる者もいるという。


そんなものが、なぜこんなただの草原にいるのか。


いや、今はそんなことどうでもいい。リディを助けなければ。


ユニコーンはでかい上に素早い。突進などまともに食らったら簡単に命を落とす。リディも素早さは負けてはいないので、回避はできているが、相手も素早いので、一太刀浴びせる事もできないでいた。



俺は、どうすれば___。



そのときだった。


ユニコーンが距離を取った。その下に魔方陣が浮かび上がる。


間違いない。魔法だ。その魔方陣は少しして動き出し、リディの下に移動した。ターゲットを絞った証拠だ。


まずい・・・!


直感的にそう思った瞬間に俺は飛び出していた。俺の剣で詠唱を中断させることは不可能だと判断した俺は_。


そのままリディを突き飛ばした。


一瞬の事だったので、魔方陣はリディを追わずにターゲットは俺に切り替わった。


突然の事に尻餅をつきながら倒れたリディは目を丸くして驚いていた。


次の瞬間、魔方陣が大きくなり消失した。魔法が発動されるのだ。


「ミシェル!!」


リディが立ち上がり駆けつける前に、雷電が俺の上から降り注いだ。



__ああ、死ぬのか、俺。


そう考えながら目を瞑った。




しかし、一向に衝撃は襲ってこなかった。恐る恐る目を開けると、俺の頭上に膜のようなものが張られていた。見たことはないが、これはバリアだろう。サポート重視の魔法使いがよく使う術らしい。だが、なぜこれがここに?


リディも驚いているようだった。そんなとき、俺の頭上を何かが跳び越していった。


それは太陽の逆光に照らされながらも形から人影のように見えた。その人影はそのまま俺たちとユニコーンの間に着地した。背格好からして男性のようだ。


その人は見慣れない服を着ていた。東洋のマンジュという島国で着ているとされている着物という服にそっくりだった。それにその人の持っている武器。反りがあってすらりと伸びた剣はそのマンジュという国独特の武器、刀だった。


ユニコーンと相対するその姿はとても勇敢だった。その人は脅威の跳躍力でユニコーンの頭上まで飛び上がった。そして、そのままユニコーンを一刀両断にする。


一瞬の出来事だった。ユニコーンはその姿を光の粒子に変えた。


俺たちがあっけにとられていると、その人はこちらへとやってきた。


「旅の方々。怪我は無いか」


その人は少し長めの黒髪で、笠を被っていた。信念が宿っている強い紅の目は見るものを惹きつける。


「危ない所を・・・感謝します。あなたの助けが無ければ、俺たちは今ここにいませんでした」


リディが丁寧にお辞儀をする。俺もそれに倣った。


「気にしないでいい。それよりもあのユニコーンはなんだ。なぜこのような場所にいる」

「俺にも何がなんだかわかりません。・・・ああ、申し訳ない、俺はリディ。こっちはミシェルです」

「ミシェル・バルビエです。さっきは危ない所をありがとうございました」


この人がいなかったら今頃俺はあの世だったからな。まさに奇跡だ。


「そうか・・・。俺はムラクモ。東洋の島国、マンジュの出身だ。俺の師匠が何者かに暗殺されてな。その復讐をしにこの大陸へと渡ってきた」


復讐・・・このムラクモという人の目に携えられている強い信念はそれだったのか。


「あのような強い聖獣なら何か手がかりがあるのではと思い、聖獣を探して渡り歩いているのだ。そこで今聖獣らしき強い力を察知してその力の正体を捜し歩いていたらお前たちの所にたどり着いた。お前達、何かユニコーンに狙われるようなことをしたのか?」

「い、いやいやいや。俺たちにも、なんとも・・・」


怪訝な目を向けてくるムラクモさんに俺は素早く反応する。返答次第によっては斬るという目を向けてきたからだ。俺の答えを聞くと、ムラクモさんは目を伏せる。


「そうか・・・すまない、俺はてっきりお前たちが何かしでかしてユニコーンに狙われたのかと・・・」


疑ったことを詫びて頭を下げようとするムラクモさんに、リディが手で制した。


「いや、確かにあのような所にユニコーンが出てきたのは異質だった。あなたが疑うのも無理は無いだろう。もしよろしければ、あなたも一緒に来ないか?俺たちはティール国へと向かう。あなたの復讐すべき相手も見つかるかもしれない」

「いや、ありがたいが遠慮しておく。集団の戦闘は苦手なのでな。それでは、俺はもう行く。頑張れよ」

「ああ。あなたも、ご武運を」


そんな会話をすると、ムラクモさんは風のように去っていった。


なんか、かっこいい会話過ぎて入れなかったな。熟練の戦士同士の中に新米戦士がひょっこり顔を出すような感じになるし。


俺もムラクモさんみたいに強くならないと、この先リディを守る事は難しいだろう。


今更だが、これからティール国へと乗り込むのが無謀に思えてきたのだった。




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