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こんにちは王女様

ここは、太陽の王国、シゲル。


緑に囲まれた、豊かな土地だ。魔物という存在もいるが、それでもこちらを襲ってくる事は少なかった。女神ダイアナの加護があるからだと言い伝えられている。


その女神様と言うのが、シゲルの代々の王妃であった。もっとも、象徴というだけであったが。初代セレス妃を初め、国民の安寧と休息、豊穣と富を象徴する王妃。どの代の王妃もおしとやかであり、とても強い意志を持っている。


王妃は、その美貌と優しさを併せ持っていて、老若男女問わず、皆の憧れの的となっていたのだった。






俺はミシェル。ミシェル・バルビエ。シゲルの、ちょびっとだけ裕福な家庭に生まれた男だ。いわゆる貴族ってやつだな。でもまぁ、そう呼ばれていたのも一昔前の話。これでも昔は沢山の領地を持っていた家だったらしいが、今では領地も0。だが、当時の名残で国には貴族という登録がされている家だった。名前だけ貴族。生活は平民とさして変わらない。今では両親はそれぞれ別の店で働いていた。妹も別の国へ出稼ぎに出ていた。


そして俺、ミシェル・バルビエはというと、年齢は20。無職。


もう一度言う。無職。


え?何で無職かって?やだなぁ、決まってるじゃないか。


とりえがないからだ。



顔は普通に地味だし、何か特技があるわけでもない。好きなことは世話をすることくらいかな。世話っていっても、動物だけじゃない。人の世話を焼く事もしばしばある。だがそれだけ。剣の腕も普通っていう(何もやってない人よりはマシかな程度)本当にどうしようもない人間なのだ。


一応そこそこ勉強はできたので以前は学校に勤めてたけど、人数足りてて、不況だからって跳ね除けられた。いわゆるリストラっていうやつだ。どうすりゃいいんだ、まったく。


働きたいのに働けない20歳。


大通りを空風が吹く。とぼとぼ歩いていると、風に吹かれて飛んで来た紙がべしっ、と顔に当たった。泣きっ面に蜂だよ、全く・・・。


俺はその紙を顔から剥がし見てみると、思わぬ事が書いてあった。


『【緊急!】リディ・アルシェ王女の教育係求む!詳細は王室にて』


これだ!まさに俺にぴったりの職業じゃないか!


まぁ、受かるかどうかはさておきだ。善は急げ。こりゃ今すぐ行動にうつすべきだろ!


俺はすぐに家へ飛んで行き、身支度を整えて登城した。





シゲル王国の王女、リディ・アルシェ王女は俺の記憶だと人前へ姿を現したことは一度もなかった。もう齢17だったと思うが、一度も顔を見たことない人が殆どだろう。


最近は魔物の活発化で、兵が出払っているので王室のメンバーが人前で姿を現す事が少なくなっているのだが、それに関係なくリディ王女は姿を現さない。


顔を見たという人の噂によると、王妃に負けず劣らずの美貌で、清閑な顔立ちをしているという。将来有望じゃあないか。


そんな王女の教育係がいなくなったという。


安定した職をむざむざ手放すなんて、何があったんだろう。・・・ま、いいや。


リディ王女を一目見てみたいという気持ちもあって、この仕事につきたい気持ちは大きかった。


さて、王室お抱えの教育係なので、当然試験などがあると身構えていたのだが行ってみたらすぐ採用。


拍子抜けしてしまった。いや、確かに緊急って書いてあったけども!そんなんでいいのか!?


まぁ、一つ聞かれたとすれば、剣の腕はあるか?との事だった。


嘘をつくわけにはいかないので、正直に「無い方だと思います」ときっぱり言った。もうこの質問で「俺、終わったな」と思ったのだが、大臣はなぜかほっとした表情で俺に採用の一言を告げたのだった。王室に住み込みでは無く、家から直接通えということなので、何か特殊な事例なのだろうということは予想がついた。



そんなわけで、今俺は王女の部屋の前まで来ている。ああ、ちょっと緊張してきた・・・!


ばくばくしている心臓の音を押さえつけ、扉をノックする。ノック数は王女に会うのだから4回。2回だとトイレ用のノックだから失礼になる。


すると、中から声が聞こえてきた。


「誰だ」


凛とした透き通る声。声の主は、考えるまでも無くリディ王女だろう。


俺は、負けじと(?)大きな声で返す。


「今日からリディ王女に配属となりました、教育係のものでございます!」


返事はない。まさか、聞いてないとかないよな・・・?新手のドッキリか?


そんなことを考えていると、少ししてから返事が聞こえてきた。


「そうか。入れ」


そうか。って随分そっけないな、オイ。まぁ、王女にとって教育係なんてそんなもんか。


とりあえず、許可を得たので、失礼します、と言いながら扉を開ける。


そこに居たのは、噂にたがわぬ美人だった。長いブロンドの髪をポニーテールにしていて、瞳は翡翠色。愁いを帯びた表情で窓際の椅子に腰掛けて窓の外を眺めていた。ふわっとした薄いピンクと白のドレスを着ており、とても絵になっている。


俺がしばしの間見とれていると、リディ王女が窓の方を向いたまま言う。


「あんたが新しい教育係か?」


ちょっとぞんざいな言葉遣いが見受けられた。なるほど。こういうところを治せってことだな。採用試験も無く、特別勉強ができるかどうかを問わないということは、そういうことだと予測ができた。


これくらいならちゃちゃっと治せるぞ!とりあえず今は相手の言葉遣いを指摘しないで、自己紹介を済ませる。


「はっ・・・。私はミシェル・バルビエと申します、リディ王女」


深々とお辞儀をする俺に、ちらりとこちらを見た王女。


「あんたは確か・・・バルビエ家の子息だったか」


驚いた。幾百もある貴族層の中でバルビエ家は殆ど百姓の家と大差ないほど落ちぶれた、貴族と言っていいかわからないほど小さな家なのにそれを記憶しているとは。恐らく勉学にも秀ているのだろう。


王女が腰を上げる。そして俺の前まで歩いてきた。


「では、これからよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


意外と楽だな。ちょっと王女の言動やらを気をつけていればオーケーなんて。


しかも月給60万Gだなんて、やっぱり王室は気前がいいなぁ・・・。


「これから世話になるのだから、一応自己紹介はしておこう。・・・()はリディ・アルシェだ。よろしくな」


所詮教育係である俺なんかに自己紹介してくれるなんて、なんていい王女様なんだ。そう思っている俺の頭に、違和感が飛び込んできた。


ん?俺・・・?


俺はおずおずと手を上げて疑問を口にした。


「あのー・・・、失礼ながら、女性ですよね?」


その俺の質問に、王女は何言ってんだコイツというような顔をした。いや、俺もまさか城まで来て、あなたは女性ですか?なんて質問をするとは思ってもみなかった。


「正真正銘、俺は女だ。どう見たら俺を男だと思うのだ」


その言葉遣いですよ、王女・・・。大臣が緊急と寄越したのも頷けた。王女が17にもなって、俺という言葉遣いで民衆の前に出すわけにはいかないだろう。


「そ、そうですよね、大変失礼いたしました!」


これは・・・思っていたより大変そうだ・・・。


俺は気が遠くなりそうな思いでいくつかの連絡事項を王女にして、部屋を後にした。


部屋から出ると、扉の前に居た警備兵が哀れみの目を向けてきた。やめろ!そんな目で俺を見るな!

わかってる。もう受けてしまったんだし、断れるはずが無い。


・・・ちくしょう。やってやろうじゃねぇか!俺が王女の女子力を取り戻してやる!



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