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八、梟盧一擲、其の二

まだ、夏の盛りではないのに、座っているだけで汗ばむほど暑さ。

しかしここ国吉城大広間はまた違う意味で熱かった。


「孫八郎様、今のはどういうことでございますか?」

言った直後は騒めいていたが今はだれも声を発さない状況を家老の粟屋 勝久が破り問いかけてくる。


「・・・京へ上洛し将軍に謁見する。」

先ほどの騒めきを生み出した言葉を再度言う。


「殿、何故今上洛を果たそうなどとおっしゃられるのですか?」


「もちろんただ上洛するだけじゃない、武田家の家督相続を伝え若狭守護として認めてもらうことで朝倉の若狭支配の名目をなくさせる。」


そもそも朝倉は武田家の嫡男に若狭守護の役目が不可能であるということを理由に

若狭を実行支配している。

そして今ではただの名目上の役職に過ぎない守護でも、任じられれば朝倉の若狭支配の建前はなくなってしまう。


「皆はどう思う?」

そう言いつつ重臣たちの顔色をじっくりと観察する。


この評定に呼ばれているのは譜代衆の中でも重臣中の重臣、あるいは親族衆のみ。

だがそのうち誰が朝倉寄りで誰が織田寄りなのかは不明。

だから今回の評定はそれぞれにどんな思惑があるのかを炙り出すのが本当の狙い。

そしてそのための布石もちゃんと打ってある。

このなかではっきりと織田寄りであると確信している粟屋 勝久に事前に

指示をしておいた。

粟屋 勝久は朝倉の若狭侵攻に最後まで抵抗していた、

はっきり言えば朝倉を憎みこそすれ好みはしないだろう。


そしてもし俺の考えが正しければあの男が一番に反論するはず・・・。


さりげなく粟屋 勝久に目配せし合図を送る。

勝久もさりげなく僅かに頷き

「某は殿の考えに賛成でござる。」

と発言する。


するとそれに対して過剰なほど激しく反応した者がいた。


「殿!わしは越中(粟屋 勝久)には反対ですぞっ!!」


内心予想通りで軽く安堵する。

大声で反対の意思を告げたのは若狭武田四天王の一人、武藤上野介友益。

おそらく家中随一の朝倉派だろうと目星をつけていた人物。

それ以外にも反対や賛成の意見が出るかと思いきや二人以外に発言をするものはいなかった。

どうやら二人以外は中立もしくは日和見なのだろう。


「上野介、なぜ反対する。

我が家は将軍家に深く信用され代々若狭守護を任されてきた。

であるからこそ家督相続の折にはあいさつに参るのが筋であろう。如何に思う?」


元々さして理由を考えず感情的になって発言したのだろうから、友益は言葉を詰まらせてしまう。


苦虫を噛み潰したような顔をしている友益に他に意見がないことを確認して、

今回の評定を御開きとした。


評定後、粟屋 勝久・山県 盛信・内藤 勝行の三名を私室に呼び出した。


「上野介の奴はやはり朝倉寄りか・・・、

して孫八郎殿はどうなされる御積もりかな?」

白髪混じりの顎鬚を撫でつつ山県 盛信が俺に問いかけてくる。

山県 盛信は俺の曽祖父、武田 元光の末弟で、家臣の山県氏に養子に入った。

我が家の長老であるが、まだ壮健だ。


「居城である後瀬山城に在番させようと思っています。」

大阪冬の陣・夏の陣の時、家康は寝返りの可能性のある旧豊臣恩顧の大名をあえて自らの居城である江戸城に在番させた。

実質的に在番の武将は人質になるので、下手な手が打てない。

つまりそれと同じことをして友益を殺さずして抑えられる。


「ほう、敵に通じているのが明らかであるのならば誅殺も手の一つだぞ?」

我が父の従兄弟に当たる内藤 勝行が誅殺はどうかと提案してくる。


「・・・求心力がない今現在、下手に家臣を斬ろうものなら六角の二の舞になりかねません。」

正直に言えば、現在の若狭武田家は、主君を亡ぼせるほど勢力を持つ者がおらず、

重臣たちの利害関係などによる迂闊なマネができない状態により、

家中が安定しているのだ。

毛利 元就の言う通り、「家臣を切るのは自分の手足を切るような悪い事」で済まず、自ら滅亡しに行くようなものだ。

だから誅殺は本当に最後の手段なのだ。


「そういう訳で、彦五郎叔父上(武田 信方)と上野介に後瀬山城代を命じますので、御二方には監視をお願いしたい。それと越中は朝倉の監視を頼む。」


三人に命を下した後、粟屋 勝久に残るよう命じる。

残された理由を訝しむような顔をしながら、俺になぜ残したかを問いかける。


「・・・越中よ、織田につなぎを取ってくれ。」


「・・・さて、何故それをわしに命じるのですかな。」


「・・・ふっ、上野の奴が朝倉に繋がっているように

弱小な我が家では、いずれも主家を頼みに思っていない。

越中、おぬしはどうだ?」


奇妙な緊張感が張り詰め、互いに探りを入れる視線を交わす。

結局、この状況を終わらせたのは粟屋 勝久の方だった。


「織田家重臣、丹羽長秀殿とならば・・・繋ぎは取れまする。」


やはりか、後に若狭を信長から長秀に預けられたのは、

若狭衆に対して調略を行ったからか。


なるほど、冷静に考えてみれば、浅井攻めを担当し、多くの武将を寝返らせた

秀吉は浅井長政の旧領を与えられたのだ。

これが長秀の若狭統治の理由か。


「ならば、頼む。丹羽殿には、上洛の折、弾正大弼(信長)様に拝謁したいから

御取次ぎくださりたい、と連絡してくれ。」


やれやれ、こんなことでは肩が凝りそうだ。

都のある方を眺めそう思った。

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