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四、不撓不屈、其の二

俺は二年ぶりに若狭へと帰国している。

人質の俺が何故帰国しているのかと言うと長くなるが言おう。


原因は金ヶ崎の退き口だ。

ご存知の通り朝倉氏はその名門意識の強さから信長の上洛命令を拒否。

それを理由に信長の侵攻を受けてしまう。


信長は、琵琶湖の西岸を北上し若狭国に入り、

さらに越前国の妙顕寺に兵を進めた信長は、4月25日、26日の2日間で、

越前の入り口にある中務様が守備する手筒山城と金ヶ崎城を攻略した。

緒戦の快勝を受け、木の芽峠を越えて越前へ乱入する、という手はずを整えた信長の元に同盟者である近江の浅井長政が突如反旗を翻したという急報が入る。

最初は信じなかった信長だが続々と入ってくる知らせを聞き撤退を開始する。


また、一説には、 夫、長政の裏切りを知ったお市の方が、兄信長に小豆入りの袋の両端をしばったものを陣中見舞いと称して送り、「袋の鼠」になることを気づかせたと言われているが俺もその場にいなかったのでこの話の真偽は分からない。


浅井から後方をつかれては、信長軍の大敗は目に見えていることから、信長は、少数で退却を開始し近江の朽木谷を越え無事京都に入洛。


一方、残された諸将は木下藤吉郎、後の豊臣秀吉以下の諸将が殿を買って出て見事にその役目を果たし、撤退を成功させた。



一方のこちらの朝倉側は最悪な状態だ。

中務様は越前金ヶ崎城に篭城するも4月26日に織田軍の猛攻を受け、兵力差もあったが奮戦し、その後信長の降伏勧告を受け入れ開城したのだが

その性で他の一門衆から「不甲斐無し」「朝倉名字の恥辱なり」

「天下のあざけりを塞ぐによんどころなし」と批判され、

永平寺に遁世してしまったのだ。


俺と伊冊の爺さんや他の数名の重臣たちが、後詰としての任を果たさなかった

朝倉景鏡こそ批判されるべきだと主張し、その結果今回の浅井援軍の大将の職を外され、朝倉 景健が大将になった。


だが批判した俺に対する当て付けとして、今回の戦を俺の初陣として

先陣にするよう上申しやがった。


そのため今回特別に若狭に帰国し兵を集めることになったのだ。


若狭武田四家老からは粟屋越中守勝久・武藤上野介友益、

親族衆からは我が祖父信豊の従兄弟に当たる山県下野守盛信と、

我が父義統の従兄弟、内藤筑前守勝行

我が叔父の武田 信方が、

他に熊谷大膳亮直之・白井民部丞光胤・本郷左衛門佐信当などの旧臣衆が

国境にまで出迎えに来た。


「皆の者ごくろうである。」


迎えに来た者たちに労いの声をかける。

普通なら朝倉家へ仕える道があるのにわざわざ俺をたった二年とはいえ待ち続けていたのだ。

たったそれだけのことでも胸がいっぱいだ。


しかし城までの道すがら見えた田畑は荒れ寂れていた。


「爺、現在の若狭は・・・貧しいか?」

守役であった粟屋越中に問いかけると

『・・・長い戦乱田畑が荒れているのにも関わらず

朝倉に置かれた代官が民たちに重税を課し、

我々も若が人質に取られているので強く抵抗出来ず・・・

このような状況に。』


すまない。


俺の性で苦しい生活を強いられている百姓たちがいるとは・・・

俺が治めるなら絶対に民衆を苦しめるような国造りをしない。

そのためにこの村の風景を心に刻み付ける。

絶対にこの光景を忘れたりはしない。


俺はある強い決意を胸に刻みつけた。

絶対に・・・絶対に独立する。


若狭の民をこれ以上苦しませるものか・・・!


今ならかの家康の気持ちが分かる。

長男信康を自害させても、秀吉に頭を下げる屈辱を甘んじて受け入れたのも

俺と同じような光景を見て、自分の非力を、理不尽を、不甲斐なさを

悔い憎んだから・・・


天下を取ったんだ・・・

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