4.3歳の時
◆4.3歳の時
へい! 俺三歳の誕生日だぜ!
と喜ぶような雰囲気じゃない。
ミリシアが、少し高めの熱を出した。
これは大変だと、俺はパーティなんてそっちのけで走ったよ。しゃべれるドッキリのことも忘れて。
部屋に入ると、ミリシアがベットで苦しそうに寝ていた。
いや、苦しそうにと言うのは、俺の見方だな。薬を飲んだからもう安心だとミリシアのお母さん――ミラエナから聞いたときは深く息を吐いた。
もしかして重病じゃないか、と思ってひやひやしたが、ただの風邪らしい。
「エヴィ君はパーティ会場に戻っても大丈夫よ? 私が見てるから」
「――わかりました。そうします」
よく考えれば、分かったはずなのだ。昨日まで話さなかった人が、いきなりしゃべるなんて、どんな一大事か。
まあ俺はミリシアに気を取られてて、そんなこと気にしていなかったんだけど。
「ミリィ、早く良くなってね」
俺はとりあえず、額に乗ったぬるいタオルを、少しだけ冷やしておいた。
◆
そのあとは大変だった。
俺が話せるようになったことに皆が驚き、感激し。誕生日パーティーは、そのままエヴィの初めて話した日のパーティも兼ねることになった。
「誕生日に突然話せるなんて、とても珍しいな!」
「ああ、おれもいままで一度も見たことねえよ!」
と、父さんとアカツキさんが話しているのを聞くと、少し罪悪感があった。
まあそれでも俺の頭の中は、熱でうなされるミリィが半分を占めてたからな。いつの間にか忘れるような、そんなことだった。
◆
誕生日の翌日、ようやく氷の魔術を完全に支配下に置いた。
フェア○ーテイルのグ○イにも負けず劣らずだな。氷の造形魔法《静》。
少しわかったが、氷の魔術の方が、炎よりもMP=魔力を消費した。
たぶん、二つは温度を変える過程の違いで、魔力の総量が決まるんだと思う。
炎は温度を上げる。もうひたすらあげる。すると自然発火する。それを魔力で持たせる。
氷は逆に温度を下げる。下げまくる。すると固まってくる。それを魔力で維持。
どうやら、この魔力とやらは上げることより下げることに力を使うらしい。人間がその気になれば炎を起こせるのに対して、氷は……と言うより温度を下げることはできないからだろうか。
詳しく調べる必要がある。
だが今は別に関係ない。
これで、たぶんしようと思えば相手も氷漬けに出来るし、雲と合わせて雷も発生させられる。
雲は地表近くで発生させれば霧になって身を隠すのにも使える。魔力は便利、ですね!
それは置いといて。
しかし魔術と言う物は、こうもポンポン使えるのだろうか。なんか違う気がする。
それに、この雲、難易度は分からないとしても、範囲はその気になれば町一つ覆える。実際にはしてみたことが無いので分からないが。
それを三歳でしちゃうって、しかも教えられずに自分で作っちゃうって、俺天才?
――いや、自分で言ってばかばかしくなった。
前世の記憶なんて、なんの自慢にもならないよ。
今。大切なのは今。
恩返し。それをテーマに生きると決めたんだから。
……少し重いな。恩返しは人生の一部と言い直そう。
◆
そういえば、三歳の誕生日プレゼントの本を読んでいなかった。
母さんに聞いたところ、五歳までは本を送るのが慣例らしい。
そのあとも本で良いのだが、まあそれは追々。
さて、それよりも、今回の本はどんな本でしょうか。
なんと! 今年は二冊もあるのです! 知ってるけどさ。
一冊は去年送ろうとしたけど在庫切れだったらしい。別に良いけどね。氷の魔術。暇だったから思いついたんだから。
その本の題名は《魔術師パイサレテウスの冒険日誌》だった。
「おお! 魔術師か!」
俺は声を潜めて喜んだ。魔術を使ってどうするのか。俺はそれを前から知りたかった。
しかもこの人、実際にいたらしいしね。結構人気の本らしい。送ってくれた母に感謝。
もう一冊のタイトルを見てみると……《種族全集》。ほう。この世界の種族が載っていると。
なかなかワクワクしますね。うむうむ。
なんかキャラがおかしくなった。まあそれはそれとして。
どっちから読もうか迷うが……いや、別に良いか。もう三歳だし、早熟の子は本くらい読むだろ。
人の目を気にしなくて済む分、前よりは読むペースが速くなると思う。
それと筋トレも増やそうと思う。
魔術師だって、筋力は大切だもの。
今のところの将来の第一希望、魔術師。
ちなみに二番は魔王かな。
◆
ホントに早く読み終わった。お手伝いさんとかが部屋に入ってきても、普通に本を読んでいられる。
「エヴィは本を読めるなんて。とても賢いのですね。まだ三歳なのに」
母さんもべた褒め。
「いえ。僕はまだまだです。まだ知らないことはたくさんありますから」
「本当にえらいですね。この年で、より上を目指そうとするなんて。さすが、私の息子と言ったところでしょうか」
こんなにほめられるなら、もっと早くから本を人前で読んでも良かったんじゃないだろうか。
でもミリシアはまだ読んでないからな……。今度読み聞かせでもしてあげよう。きっと喜ぶ。
しかし、俺は魔術は誰にも見せていなかった。だって、どの程度が普通か、なんて分かんないじゃん。
出る杭は打たれるって言うし、出来るだけ普通に、平凡に居たいものだ。
身体と魔術。それは知られないように鍛えよう。
そのほうがいいと思うんだよ。なんとなく。
◆
さて、もう三歳になって半年が過ぎた。
魔術はがんばって風の玉だけ作れるようになった。魔力は絶賛拡大中。もうどこまで増えるのやら。
身体は順調に鍛えられている。無理をしない程度にだが、それでもかなり体力はついた。それと集中力も。この集中力は、魔術にも活かせているのでラッキーだ。なんでついたかはわからない。
最近のミリシアは少しおませさんだ。どことなく大人ぶろうとする。そんなところが可愛くてたまらない。
ちなみに、俺にだけは普通に甘えてくれる。きっと、ずっと大人っぽくしているのは疲れるのだろう。
ミリシアに嫌われないように努力しよう。
いや、ほんと。まじで。
◆
まもなく四歳になる。時間としては、あと二十三時間だろうか。それにしても早い。あっという間だ。
その気になれば、魔術はいくらでも覚えられることが判明。
風はコツをつかんだので、ここ半年でずいぶんと上達した。
なぜか、土の玉を作るとすぐに植物が生えてくる。きっと俺の中では、土=草とかの方程式が入ってるんだろう。十分あり得るな。
つまり、俺は無意識に《草》と言う魔術を作ったのか。まあこの程度なら前例はいくらでもあるだろう。
どんな効果があるのか。とても気になるところだが、そうも言っていられない。
明日の誕生日パーティには、いけ好かない王子ども……もとい、寄生虫の、じゃなくて、帰省中の兄王子八人も参加するらしい。まったく、酸化してほしいよ。
頑張って精神を落ち着かせなければ、たぶん俺はパーティ会場に嵐を巻き起こして氷らせるだろう。それはなんとしても避けなければならない。
だって愛しいミリシアがいるんだもの。
そのくらい、我慢して見せるさ。