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 1-他視点  メイドさんの“メリラ”の話

 ◆メイドさんの“メリラ”の話


 私は現魔王、エオノーラ様に使えております。

 そして最近、エオノーラ様の七番目の奥様、アオハナ様にお仕えすることが決まりました。


 アオハナ様は、人間族の象徴“勇者”であるアカツキ様の妹さんだそうです。ご自身も魔法の才があり、治癒魔法は大半の賢者すら退けるとか……。


 さて、そんなある時期に、王宮に王子と王女が一人ずつお生まれになられました。

 第九王子であるエヴィローラ様は、アオハナ様の息子。


 王女であるミリシア様は、アオハナ様と仲のよろしい、五番目の奥様、ミラエナ様のもとにお生まれになりました。(奥様方の番号は、魔王様と結婚した順番です)


 私はアオハナ様専属のため、エヴィローラ様にも使えることとなりました。

 エヴィ様が七歳になり、ご自身の専属メイドを持つまでの短い時間です。私に出来ることは少ないですので、精一杯頑張る所存です。


 そうアオハナ様に伝えると、「そんなに気合を入れなくても大丈夫よ。エヴィは良い子だから」と伝えられました。


 確かにエヴィ様はとても静かな方です。

 生まれた瞬間以外、私は泣いている姿を見ていません。


 ミリシア様はかなりの頻度で泣きじゃくっているそうなので――おそらくそれが普通でしょう――、私は少し心配しています。


 しかしアオハナ様もエオノーラ様もともに嬉しそうにエヴィ様と触れ合っており、その時はエヴィ様も楽しそうにしておられるので、おそらく大丈夫でしょう。


 私の心配は、杞憂に終わりそうです。


  ◆


 アオハナ様は、エヴィ様に良く本を読んでいらっしゃいます。


 エヴィ様はまだ理解できているとは思えないのですが……、しかし生後一か月くらいになると、まるで本の内容を理解しているような気配がいたしました。


 ――きっと気のせいでしょう。まだ一歳にも満たないうちに、言葉を理解できるはずがありません。


 天才と言われた第一王子、エルガイヤ様ですら、話し理解するまでには一年と半分、かかったのですから。


 だからと言って、アオハナ様の邪魔になるようなことはいたしません。


 親が子供に、愛情を持って接するのは当たり前ですから。


  ◆


 エヴィ様は、魔王様の角に興味があるらしく、来るたび来るたび頭の方を見ています。


 祭日は忙しいため、角を着けたまま来るからですね。なんとも不思議そうな顔で見ておりました。


 最近、エヴィ様の部屋に入ると、ベットのシーツがとても乱れ、エヴィ様がぐったりしているのが多くなりました。


 最初は何かの病気かと思いましたが、特に何は悪そうなことは無く、少し眠るとケロッと直っているので、大事ではないのだと思います。

 しかし少し気になってしまいます。やはり何かしているのだとは思うのですが……。


 しかし考えても仕方がないため、出来る限り考えないことにしております。

 シーツが乱れたら、治せばよいだけですから。


  ◆


 生後三か月が過ぎました。最近エヴィ様の部屋から、声が聞こえます。


 と言ってもあまり大きい声ではなく。ドアの前に立つと、たまに小さく聞こえることがある程度です。

 声を出す遊びでも見つけたのでしょうか? しかし誰かが部屋に入ると、ピタッとやめてしまうので、確かめる術はありません。


 エヴィ様が大きくなられて覚えていらっしゃったら、何をしておられたのか聞きたいですね。でもきっと、そんなときにはもう忘れてしまっているのでしょうね。


 大人になっても、私のことを忘れないでいていただけると嬉しいのです。


  ◆


 エヴィローラ様がお生まれになってから、もう早くも半年が過ぎました。


 最近魔王様は、人間族や妖精種、好戦的な魔物族などとの対話が忙しく、ミリシア様にもエヴィローラ様にもお会いになれておりません。


 魔王様の側付きメイドは、とても魔王様が悲しまれているの言っていました。

 きっと、今すぐにでも会いに行きたいのでしょう。

 時間さえあれば、すぐに顔を見に来られていましたから。


 その分、アオハナ様がエヴィ様とご一緒になられる時間が増えました。


 しかし、その親のお二人がエヴィ様にお会いになれる時間はあまり多くはありません。一日の内、多くとも二時間。それが決まりです。


 お二人とも忙しい、と言う理由もあるのですが、他にエヴィ様の特殊な境遇も関係しています。


 アオハナ様は勇者・アカツキ様の妹君。アオハナ様が魔物族の本拠であるこの王宮にまで引っ越し、魔王様と結婚したのは、人間族と魔物族の友好のしるし、と言う意味合いが強く、そしてその二人の息子であるエヴィローラ様は、まさしくその考えの象徴と考えられています。


 魔物族の好戦的な一派が憤慨し、王都を攻めてくることも、場合によってはエヴィ様を暗殺することも、十分にあり得ます。


 もしくは、治癒魔術の圧倒的な才を持つアオハナ様と、近接戦闘では魔界に敵なしと言われるエオノーラ様の血を継ぐエヴィ様を誘拐し、自らの手駒にしようと考えるかもしれません。


 我々側付きも、護衛術は学んでおりますが、もしもの場合に守り切れるとは言い難いのが現状です。今は魔王様に従っている者たちが、いつ手の平をひっくり返すかわかりません。


 ――いえ、味方を疑っていては、何も利益は生みません。先日、アオハナ様にそう諭されたばかりです。


 ひとまず、私は今できることをしなければなりませんね。


  ◆


 生後十か月程度。


 このごろエヴィ様はハイハイが出来る様になりました。その姿を見たアオハナ様は感激し、エオノーラ様は驚きのあまりぎっくり腰になってしまったとか。


 そこまでではないものの、私もとても驚いてしまいました。

 シーツがしわだらけになっていたのは、身体を動かしていた――つまりこの練習をしていたということです。


 どうやって理解したのでしょうか。シーツにしわが付き始めたのは、お生まれになってから一か月程度なのですが……。

 ――いえ、私が考えても仕方がないですね。おそらく感覚的に理解していたのでしょう。


 そう、あと最近で言えば、エヴィ様は初めてミリシア様とお会いになりました。

 奥様方は二人でお話しをしていて、その間お二人はずっと向かいあっていたのですが……。


 たまにミリシア様がニコッと笑うだけで、他には特にありませんでした。

 きっとエヴィ様も緊張していらっしゃったのでしょう。


 そろそろお二人の誕生日の準備も始めなくてはいけません。

 お二人に喜んでいただけるかどうか。それだけが私の心配です。


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