表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

0.プロローグ

 ◆プロローグ


 我ながら短い人生だったと思う。


 十五年で幕切れなんて、とも思った。しかしそのことについては考えないことにしよう。命が散りゆく中で、そんなこと考えるなんて無粋じゃないか。

 死ぬ間際には走馬灯と言う物が見えると本で読んだのだが、残念なことに俺には見えなかった。きっとこの死について知っていたからだろう。


 生まれながら体が弱く、小学生の間は入退院の繰り返しだった。中学に上がってからの二年間は、それまでの病弱体質が嘘のように元気だったが……。今思うと、それは俺の命のろうそくの炎を、大きくしていたのだろう。自分の、寿命と引き換えに。


 余命宣告を受けた去年の春。正確には医者から聞いた母から聞いた日から早一年。宣告通り、俺の体はだんだん動かなくなり、ここ一か月はベットからも動いていない。

 だが、この一年と言う時間が、俺を落ち着かせてくれた。今までとはくらべものにならないくらい本を読んだ。友達が持っていた参考書の問題をためしに解いてみて、そのあとなんやかんやで、得意の理科・数学の二教科は一通り終えてしまった。やることがなかったのだから仕方がない。それがたとえ高校レベルまでだったとしてもな。


 そう、だから走馬灯なんてないんだろう。これまでのことを、何回も何回も振り返ってきたから。


 それでも心残りはある。……そもそも心残りなく逝ける人っているのか? 俺は分からない。


 それは置いといて。


 その心残りとは、もちろん両親の事だ。二番目に兄。そして友人たち。

 両親には何も恩返しが出来なかった。兄も忙しいのに、自分の時間を削ってまで俺に会いに来てくれた。しかし俺は、やっぱり何もできていない。


 両親には「ヒロがいてくれるだけで、私たちは幸せだよ」と言ってくれているし、兄は「お前はそんなこと気にしなくていいんだよ!」と笑い飛ばしてくれた。

 これ以上考えたって仕方がない。そんなことは分かっている。でも理屈では分かっても、俺は納得できていない。納得なんて、出来るわけがない。


 せめて、自分の気持ちを、もっと伝えればよかった。今になって、そう思う。


 だがもう手遅れだ。

 もう目はぼやけ、耳は遠くなり、肌の感触は無くなっている。味覚と嗅覚は、一週間前から無い。


 ああ、さようなら、父さん、母さん。兄さんもごめん。小さいころ兄さんのお気に入りのCD割った犯人は俺なんだ……。そのことも伝えそびれてしまった。

 たっくんもみかも、何回もお見舞いに来てくれてありがとう。だから泣かないでくれ。俺は笑っている二人が好きだから――



 ある年の3月下旬、一人の少年が命を落とした。


  ◆


 空気ににおいがある。まずはそのことに驚いた。匂いは全く感じなくなっていたはずなのに。

 理由は違うが、きっとソード○ートオンラインから帰還したキ○トも、こんな感じだったのだろう。たぶん。


 で、俺は気が付いた。匂いを感じると言うことは、生きていると言うことなのではないか、とな。

 だが俺はあの時命を落としたはずだったんだが……。


 別に死にたかったわけでもないが、走馬灯がどうのこうのとか思っといて、結果回復しましたとか恥ずかしすぎる。


 ――なんてことを考えていたら、どうも頭が働かなくなってきた。しょうがない。この感情に逆らえたことは、人生十五年の中で一度もない。

 だから――寝よう。


  ◆


 次に目を覚ました時は、きちんと目を開けられた。いや、そもそも前回は目を開けられなかったことに今気が付いたのだが。


 そして俺の顔を覗き込んでいる男女がいた。最初は両親かと思ったのだが、どうやら違うようだ。


 女性の方は黒髪黒目の純和風のようだったが、母さんよりも若くて、美人だった。


 男性の方は、見間違える要素が存在しなかった。なぜかって? さすがに俺の父さんは、髪を燃えるような赤にする人じゃない。ちなみにその人の目は、薄い緑色だった。


 そのときに俺は気が付いた! なんと俺は赤ん坊になっていたのだ!


 ……我ながらどうかしてる。完全なアホだ。

 なので――寝よう。


  ◆


 俺が赤ん坊だと言うことは、完全な事実のようだ。

 そのことを受け入れるまでに、約一週間必要とした。


 まあ受け入れてしまえばなんと言うことは無い。小説家になろうで読んだ作品の中でも、お気に入りの二割は転生ものだった。


 しかしそうなると、これから考えるべきことはたくさんある。この世界の常識を持たないといけない。魔法は……できればあってほしい。面白そうだ。


 ああ、それ以前に言葉を覚えねば。もっとも今は何もしゃべろうとしても「あー」とか「うー」とかになるだけなので、基本ヒヤリングだろう。これでも中二の時のヒヤリングのテストは、八割とっていた。もちろんノー勉で。

 よって俺は耳に結構な自信がある。この身体でも大丈夫なのかは知らないが、今はそれしかすることが無いのだから、いいだろう。暇つぶしにでもなるはずだ。


 それに、俺にはもう一つ、目的を見いだせた。前世ではできなかったこと。

 そう、両親への親孝行だ。


 こんなに人のよさそうな両親のもとに生まれ、俺はなんて幸せ者なのかと、改めて実感した。どんな親馬鹿でも、生まれてすぐの子供に本を読み聞かせるなんてしないだろう。


 前世でも、きっと――生まれてすぐではないにせよ、こういう読み聞かせもしてくれたのだろう。ああ、本当に涙が出てきそうになる。

 よって俺は決めた。前世でできなかった分を、今の両親に対して孝行しよう。きっとそれが、俺が記憶を持ったまま生まれてきた、意味なんだと思う。


 だからひとまず――寝ることにしよう。

 赤ちゃんの睡眠は大切だって、おむつのパン○ースのCMでもやってたからね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ