44-Heat White-
「来たか」
その声が聞こえたかと思うと、目を覚めた俺は白い世界に立っていた。
これは・・・・・・そうだ。
今日元――クレイジー・シーンと戦った場所とそっくりだった。
「・・・・・・どうなってるんですか?」
「ああ、ちょっとまて。二度手間は嫌だから」
「・・・・・・・二度手間?」
ということは、まだ何か待たなくてはならないのだろうか・・・・・・。
と思って見ると、今日元さんと東先輩は居るが隼人は居なかった。
「遅いな、アイツ」
「何かあったのか?」
東先輩に続いて今日元さんも尋ねてくる。
うーん、何かあったとすれば・・・・・・。
「躊躇しているんだろうな、多分。鍵を飲み込むのに」
「あんな自信満々な奴がこの程度のことに躊躇したりしないだろ」
東先輩はそう言って笑った。
「で?何があったんだ?」
今日元さんは尚もそう聞いてくる。
「何もありません」
そう言って隼人は現れた。
「お、来たか」
「クレイジー・シーンの世界ですね。きっと、今日元の頭の中に居たからこの世界も知っていたんでしょう」
「まぁな。でも少し違うぜ」
そう言って、今日元さんは何も無い空間に腰を下ろした。
するとそこにシックな木材の椅子が出現して、そこに座った。
「これは・・・・・・」
「この世界はお前らの部屋のパソコンなどの電子機械類から発生された電波に俺の意識を伝え、それを脳波と上手い事会わせる事で、『夢の世界』に形成された空間だ。そのまま『White Room』と呼ぶことにしたよ。そしてそれをまるで否定するかのようにこんな事も出来る」
そう言って今日元さんは指を鳴らした。
すると、今日元さんの立っていた位置から少しずつ空間の色が変わっていく。
床や壁や新たな家具なども増えて、気付けば、木材を基調としたシックな喫茶店に変化していた。
「おぉぉおお!!」
何かテンション上がる俺と隼人。
東先輩も静かに驚いている。
「どうよ?」
「・・・・・・んー」
そう言って隼人は少し考えていた。
そして口を開いた。
「凄いのは分かったんですけど・・・・・・これが何なんですか?」
そうだ。
この空間が凄いのも分かったし、楽しそうだとは思う。
けど、だから何なんだ?という話だ。
「おお。それは東との話し合いで、決まったことがあるんだよ」
そう言って今日元さんは笑った。
「東はできるだけ多くの人々を助けたいと思った。俺は東の考え方を尊重してやりたいと思っている。それで決めた」
「はぁ・・・・・・」
「俺達にお前らの協力をさせてくれ」
今日元さんは隼人を見た。
「・・・・・・」
「良いか、悪いか。答えてくれ」
隼人はその質問に少し考えるように黙った。
そして
「・・・・・・一応、理解しておいてもらうとして」
と口を開いた。
「僕はヘタレです」
隼人は宣言した。
「・・・・・・は?」
「僕は怯えますし、嫌な事はしたくないですし、嫌いな食べ物は食べません。食べ物じゃなくても・・・・・・僕は鍵を飲み込むことでさえ、簡単に躊躇してしまうような男です」
自虐のように言っているわりに、堂々とした風貌だ。
「死にたくはありませんし、自分が死ぬなら相手を殺すくらいの非平和主義です。とどめをさすことにも躊躇はありません」
「・・・・・・」
「僕だけでは皆さんの期待にこたえられるようなことが絶対できる保障もありません」
隼人は勢いよく、堂々と続けた。
そして言った。
「だから、僕に巻き込まれてください」
・・・・・・。
俺は黙る。
隼人もそれで口を噤む。
「・・・・・・面白いな!」
口火を切ったのは今日元さんだった。
「そんくらいの気持ちで無いと、俺もやりがいがねーよ!」
「・・・・・・だな」
東先輩は静かに言った。
が。
「断る」
俺は言う。
「え・・・・・・」
3人は驚いている――いや、隼人は驚いていなかった。
予測していたのかもしれない。
「正直、俺は本当はあなたたちと関わりたくありません・・・・・・が、隼人は巻き込んできますし、俺は隼人と契約しています。それに俺が巻き込むことだってあるでしょう。だから・・・・・・」
・・・・・・何て言えばいいんだろうか。
上手い言葉が見つからない。
・・・・・・。
「お互い、利用し合うか」
言ったのは今日元さんだった。
「お前が仲間が嫌だってんなら仕方ないな」
「あ、いや・・・・・・」
「お前には俺達が必要だろ?俺達もお前が必要だ」
そう言ったのは東先輩だった。
「だから、俺はお前を利用するし、お前も俺を使っていい」
「・・・・・・」
「後は、まぁ・・・・・・俺も暇だし、友達として仲良くしてくれよ」
今日元さんはそう言って、またも笑った。
「・・・・・・ありがとうございます」
俺はそう言って、頭を下げる。
「じゃあ、嘉島は帰りな。目を閉じて意識を外すんだ。じゃあね」
そう言って今日元さんは笑った。
言われたとおりに意識を外そうと目を閉じた。
「後、お礼を言うのはこっちもだぜ。嘉島」
最後、今日元さんのそういう声が聞こえた。