40-Limit Meet-
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
「奏明・・・・・・!」
本来なら駆けていくべきなのだろう。
しかし、心とは違って行動は異常に冷静だった。
僕はゆっくりとその体に近づいていく。
「・・・・・・よぉ・・・・・・」
「何やってんだよ・・・・・・長生きするんじゃ・・・・・・なかったのかよ・・・・・・!!」
僕はその体に手を伸ばそうとして右手を出した。
ピキッと。
体中の筋肉が固まった気がした。
それも束の間、今度は胸に痛みが走る。
ズキリ、と。強い痛みだった。
「あ・・・・・・」
僕の体は奏明の横に倒れる。奏明が仰向けなのに対して僕はうつ伏せだ。
「・・・・・・どうしたんだよ・・・・・・健・・・・・・」
「・・・・・・多分・・・・・・発症だ・・・・・・」
僕はそう言って、態勢を仰向けに変える。
呼吸のたびに痛みが走る。
野次馬が集まっている。どこかで救急車に連絡する声が聞こえた。
「・・・・・・お前だって・・・・・・長生きするって言ってたじゃないか・・・・・・」
苦しそうに奏明が言う。
「それは・・・・・・それだ・・・・・・。僕は・・・・・・発症してもおかしくはなかったから・・・・・・」
「そうかよ・・・・・・」
死に掛けている。いや――。
間違いなく僕達は死ぬ。
「お前・・・・・・良かったな・・・・・・。最期に誰かを・・・・・・守れたんだから・・・・・・」
僕はそう言って空を見る。
「・・・・・・まぁ・・・・・・人生に満足はしてる・・・・・・後悔はしてない・・・・・・」
「僕は後悔だけだ・・・・・・」
そう言う僕に奏明は首だけ曲げてこちらを見た。
「・・・・・・僕もお前みたいに・・・・・・誰かを守って生きていられたら・・・・・・良かったのかもしれない」
「・・・・・・まるで死ぬみたいな言い方だな・・・・・・」
「死ぬだろ・・・・・・間違いなく」
「諦めるなよ、健・・・・・・」
奏明はそう言って僕の右手を彼の左手で握った。
「まだお前は生きられる」
奏明は先ほどまでとは違い、しっかりした声で言った。
「俺の人生をお前にやる。お前は生きろ」
「・・・・・・人生って・・・・・・お前だって死にかけじゃないか・・・・・・」
「人一人くらい、まだ助けられる」
握っていた手に強さが増す。
「約束しろ。誰かを助けて、誰かのために生きれるような過ごし方をしろ。面白そうな事には進んで首を突っ込め。後、俺の家族の事は頼む。姉と妹と母が心配だ。兄はまぁ・・・・・・どうにでもなるだろう」
「・・・・・・お前、まさか――」
僕は再度、握られている手を見る。
僕の『受け取る右手』に『送る左手』が重なっていた。
「俺とお前、どちらかがどちらかになる」
「奏明か・・・・・・僕か・・・・・・」
「でも、意志は全てお前だ。だから、お前の人生を助けるために俺は消える」
「・・・・・・何でもかんでも勝手に決めやがって・・・・・・」
僕は空を見上げる。
別に絵になるからとかじゃない。
「でも、嫌いじゃない・・・・・・」
瞳から零れ落ちる涙を隠すためだ。
「・・・・・・じゃあ、俺は先にあっちに逝ってるよ」
奏明はそう言って空を見上げた。
「天国があると思ってんのか・・・・・・?」
「あると思わないと報われないしな。大丈夫。多分、お前の中に俺は居る」
「・・・・・・気障な意味ではなく・・・・・・か・・・・・・」
「そうだ。じゃあ、また後で」
「ああ・・・・・・」
救急車の来る音が聴こえた。
僕の耳に聞こえたのだろうか?
それは分からないけれど、僕に分かるのは。
このとき、僕は俺になった。
次話、回想終了。