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紡がれ行くあの過去  作者: 榊屋
第二章 突然が当然のこの世界
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38-Crap Rap-


「嘉島・・・・・・奏明・・・・・・」

「おう。俺のことは奏明で頼む」

「やだよ。友達か。僕はお前のことは・・・・・・嘉島って呼ぶ」

「天邪鬼は嫌いじゃないけど・・・・・・その呼び方は嫌いだぜ」

 嘉島はそう言って笑った。その笑顔は苦笑と呼ぶに等しいような、先ほどまでとは違う笑みだった。


「じゃあ、また会おうぜ」

 嘉島はそう言った。

「って、え?」

「姉の検査が終わる頃だから・・・・・・会話しに行かないと」

「・・・・・・僕も行っていい?」

「・・・・・・いいけど・・・・・・」

 嘉島はそう言った後、少し考えるような素振り見せた。

 それから顔を上げた。

「・・・・・・大変言いにくいのですが」

「・・・・・・なんだよ」

「名前をお教えしていただけないでしょうか?」

「ああ。言ってなかった」

 俺は今度は右手を出した。

 嘉島はその手を取った。

君長柄きみながら たけるだ」

「ああ、よろしく」

 嘉島はそう言った。

「君長柄って変な名前だな」

 僕は嘉島に向かって言う。

「は!?」

「お前の心を読んだ」

「・・・・・・何?読心術?」

「まぁ・・・・・・そんな感じ」

 僕は階段を静かに下る。

「・・・・・・ふーん」

 そんな僕を追いかけて嘉島も階段を降りてくる。



 病室の札には『嘉島 響』と書かれてあった。

 静かに扉を開けると――

「・・・・・・え・・・・・・」 

 そこには幾つものパイプに繋がれた女性の姿が有った。

 植物状態。

 まさしくそれだった。

「・・・・・・」

「君にはこれが絶望と希望・・・・・・どちらに見えた?」

「え・・・・・・・?」

「治療法の見つかっていない病気。医者も匙を投げるような絶望」

 それは――。

 それは僕と一緒じゃないか・・・・・・。

「でも、姉はこうして生きている。生きている事が奇跡だそうだ」

「・・・・・・」

「さぁ。ここに希望と絶望が置かれている。どちらが正しいんだと思う?」

「正しいって・・・・・・そこに正しさは無いだろ」

「そうか?正しさはどこにでも置かれている。俺達が気付くかどうかだぜ?」

 そう言って嘉島は姉の横の椅子に座った。

 そして左手で姉の手を握る。

「・・・・・・姉さん。友達が来たよ」

 姉と思しき女性は、返事をしない。

「・・・・・・どうしたんだ?」

「姉さんに俺の声を送っている」

「・・・・・・送れてるのか?」

「分からない。でも、通じていると信じたい」

「・・・・・・」

 植物状態の人間でも、僕の右手なら深層心理に働くはずだ。

 だったら、僕は――。


 僕は右手で嘉島の姉の手を握った。

『・・・・・・なんだ?君・・・・・・』

 声が聞こえた。

「嘉島。僕のことを紹介してくれ」

「・・・・・・コイツは、健。さっき会った友達だ」

『あれ?お前と会話が成立してるぞ、奏明。珍しいな』

「会話が成立してて珍しいってさ」

「・・・・・・お前・・・・・・何なんだよ」

「お前が左手で『送れる』んだとすれば、僕は右手で『受けれる』のさ」

 僕はそう言って笑った。

「・・・・・・大概おかしいな、俺達!」

 嘉島も笑った。


 僕らは友達になりましたとさ。


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