37-Happy Baby-
僕は不治の病だそうだ。そんなものがまだこの世に存在していた事に僕は驚きだけれど。
父と母は生まれた時には居なかった。母方の祖父母が僕を育てていてくれた。
そんな祖父母は僕が治らないと知って、泣いた。医者も匙を投げた。
諦めたのだ。僕に見切りをつけた。
世界は僕を見捨てた。
「・・・・・・」
祖父母は死んだ。その他の親族の場所も分からない。
THE天涯孤独。
「僕は何かしただろうか?」
呟く。誰も居ない屋上で。
呻く。誰も知らない場所で。
僕の右手は誰の考えている事でも分かる。だから僕は皆の声を聞いている。
「かわいそうに」
だってさ。
『かわいそうに』?
誰がだ?
僕は僕をかわいそうだなんて言ってない。それどころか、僕は今まで生きてきた道に後悔はしていない。
皆が匙を投げたところで僕が諦める理由にはならない。
僕の余命はあと1ヵ月。
さて。あと1ヵ月をどう楽しく過ごそうか。
僕は屋上から去る。
階段を降りる。
集中治療室のランプが光っている。
「・・・・・・」
1人の少女と少年が居る。
「・・・・・・何やってんの」
僕は訊いた。
「・・・・・・お母様とお父様が・・・・・・交通事故で・・・・・・」
「僕はただの付き添いだよ」
横の少年はそう言って僕を睨む。
金髪で綺麗な髪の毛だった。隣の少女は泣いている。
「・・・・・・その程度の絶望感・・・・・・僕はどうでもないね」
僕は言い放った。
そして廊下を歩く。
そのとき、少年とすれ違う。
その少年は僕と同様に、彼らの前に立った。
「何やってんの?君ら」
「・・・・・・」
少女も少年も黙っている。
「あ、そう。まぁいいや。その心意気、嫌いじゃないぜ」
少年はそう言って笑う。
「お前ら、どんな絶望があっても諦めんなよ。その心に俺が元気を送ってやる。だから俺のこと覚えとけ!」
少年はそう言って2人を指差す。
「・・・・・・何言ってるんですか・・・・・・」
少女は泣き腫らした目で少年を睨む。
「邪魔だ。何処かへ行け」
隣に居た少年も言った。
「飽く迄、人を信じない気持ち・・・・・・嫌いじゃないぜ」
少年はそう言った。
「・・・・・・君の事は覚えてやる」
金髪の少年はそう言って立ち上がる。
「おう。また会おうぜ」
少年は笑って手を振った。
意味が分からない。
そんなに幸せを覚えたいなら、僕の絶望を消してみろ。
少年は屋上へと上がる。
僕はその少年を追って屋上へと戻った。
「・・・・・・何、お前」
僕はいきなり言い放つ。
「・・・・・・いきなりの敵意を見せるその視線、嫌いじゃないぜ!」
少年は言って、指を指す。
心を読んでみる。
・・・・・・本当に、『嫌いじゃないぜ』って思ってるらしい。
「お前何なんだよ」
「俺は世界中に幸せを運ぶ男だ」
「・・・・・・意味わかんねー」
俺は思わず笑った。
「何だよ。お前、その絶望の顔。幸せになりたいのか?お前」
そう言って少年は俺の手を握った。
「俺の幸せ分けてやる!」
そう言った瞬間。
体に何か流れた気がした。
「・・・・・・うぉ!?」
「ほら、元気になったろ?えーっと・・・・・・誰だっけ?」
「名前は先に名乗れ」
「おう、そっか。その礼儀のよさ嫌いじゃないぜってな!」
少年は手を離して、親指で自分を指す。
「俺は嘉島 奏明。幸せの左手を持つ男だ!」
はい、まさかの展開!