29-Write Right-
「東先輩強いねー」
「今日元さんによれば、東先輩は1人で10人くらいの武装チンピラを相手に出来るらしいぞ」
「おい、こら。今日元はそんなこと言ったのか?舐めんなよ、俺は1人で24人と1匹を相手にしたんだよ」
1匹って何だ。
東先輩には後で能力を説明したが「俺には分からない」と言い放つので、もう無視に近い方針を採った。それから更級を縛り、後からやってきた東先輩の部下の方に預けた。下に居る久留巳も同様だった。
「で、これからどうするんだ?」
「僕らが教えられた情報は嘘だったから、どうすることも出来ないよね」
隼人はそう言って思考を始める。
「そういえば、どうして東先輩はココに?」
「昨日の夜から捜し続けてたんだ。俺達全員で。そしたら丁度さっき、急に現れた建物があると聞いてな。後は直感だ。ココだと思った、それだけだ」
「ああ。そうか、久留巳が気絶したから能力が消えてしまったわけだ」
ていうことは警察が来るのも時間の問題だな。
「・・・・・・俺は良く分からないけどさ」
隼人に向かって言う。
「アイツ・・・・・・更級がいきなり現れて小難しい事を言っていたのは、自分の存在を見てもらうためだったんじゃないかな?」
「・・・・・・」
「忘れられたり、気付かれなかったりって・・・・・・やっぱり傷つくんだよ」
「経験があるような物言いだね――あ、そうか。経験があるのか」
隼人は言って、少し苦笑する。
「皆に見て欲しくて・・・・・・アイツは難しいことをわざと言っていた。そうだと俺は思う」
「例えそうであろうとなかろうと、僕には関係ないよ」
「冷たいな。冷血って言うより、冷酷だ」
「観測者は常に新たな気持ちでなくてはならない。彼に関する僕の調査は終わった。だから、もう考えない」
そう言って隼人は顔を上げた。
「・・・・・・よし、行こう」
隼人は言って、俺達が通った、カウンター裏の扉を進む。
「この廊下が坂道になっているけれど、エレベーターに乗らなければ、ちょっと傾いているだけの廊下だ。恐らく傾かせた事に意味があるはず・・・・・・」
そう言って隼人はポケットをあさる。
「・・・・・・何やってんだ?」
「誰か、丸い物体持ってない?ボールとか」
「任せろ」
そう言って東先輩は手のひらからタイヤを出した。そんなに大きくない。サイズも調整できるのだろうか。
「これでいいか?」
「ありがとうございます」
隼人はそう言ってタイヤを廊下に静かに置いた。
すると廊下を静かに転がっていく。
「行こう」
隼人はタイヤについていく。
タイヤは廊下の突き当たりで1度止まった。
「どうすんだ?」
「こうする」
隼人は言ってから、タイヤの向きを修正した。
前方に向かって進んでいたタイヤを横向きにする。
すると今度はタイヤは右に向かって進んだ。
「こっちだね。僕が思うにこの坂道は、恐らく3階に行くためのルートを教えているのさ」
「教えているって?誰に・・・・・・?」
「僕たちに。この家はアイツが作ったんだから、僕たちのために内装を変えることくらい容易だろう」
隼人はタイヤを追いかけながら言った。
タイヤはその後、隼人の修正を借りながら俺達を導いていく。
そして最終的に1つの扉の前で止まった。
「・・・・・・ここだな」
東先輩がタイヤを戻す。
「じゃあ、行こうか。ラスボスを倒しに」
隼人は言ってドアノブに手を掛けた。