26-Know No Now-
「どうなっているんだ?」
「居なくなってしまったね」
そう言って隼人は、先ほどまで男が居た場所を散策する。
俺はその間暇だったので、図書館のようになっている本を雑に取り出す。
「本は好きか?」
男が横に立っていた。
「な――」
「本とは一般教養を超える何かを与えてくれる」
「お前、どこから!?」
「俺はどこにでも居る。が、どこにも居ない。その理解でいいぞ」
「くっそ!」
俺はその男に向かって拳を振るう。
「先ほどから、貴様は俺のことを『男』と呼んでいる。言わなかったか?俺は更級だ」
「うるせぇ!」
「どうかしたのかい?」
そう言って隼人は俺の後ろに現れた。
「隼人!更級が――」
「更級・・・・・・?どこに居るんだ」
隼人はそう言って俺の方を見る。
「いや、ここに――」
「諦めろ」
更級はそう言って、隼人の前に立つ。
「こいつにはもう俺は見えない。声も聞こえない。触れもしないし、触られたところで感覚も無い」
更級はそう言った。
「何で・・・・・・!?」
「俺の能力は『愚者見聞』。俺の能力はただ1つ」
更級は隼人と肩を組む。
「『無知の知』を痛感した時、のみ俺と出会うことが出来る」
無知の知。
自分が何も知らないと痛感した時・・・・・・。
「もちろん、人間が全ての事を知れるはずがない。しかし、逆にこれは――」
話の途中で更級は消えた。
「!?」
「おいおい、ソウメイ君?どうかしたのか?」
「更級が・・・・・・消えた・・・・・・」
「・・・・・・さっきからここには居ないよ」
そう言って隼人は別の場所へと歩いていく。
いや。
そういうことじゃない。
さっきまで居なくて、現れたと思ったらまた消えた・・・・・・。
「話の途中で見えなくなったのか?」
更級がまたも突然現れた。
「・・・・・・もう驚かない・・・・・・」
「そうか。まぁ、いい。この現象はさっきの話の続きだ」
更級はそう言って説明を続ける。
「さっき言ったとおり、自分が『知らない事』知った時、俺の姿を見ることができる」
「だったな・・・・・・」
「しかし逆に自分が『何かを知った』という優越感を得た時、俺の姿を見えなくなる」
「な・・・・・・!?」
「気をつけろ。知った気になれば、俺が見えなくなる」
「・・・・・・」
言われた途端、また消えた。
「が、すぐに現れるわけだ」
「驚くわ!」
「ギャグじゃないんだから、重く置こうぜ」
更級は言う。
「さて・・・・・・こうしてお前は知ってしまったわけだ。そろそろ見えなくなるかもしれないが、気をつけろよ」
更級はそう言って笑う。
「俺は見えずに戦うぜ」
更級はそう言って消えた。
そして、俺は何も無いところから殴られる。
「が・・・・・・」
消えられると、触られた感覚も触った感覚も無い。
だが、殴られたら痛い。
痛み・・・・・・衝撃は通じるという事か・・・・・・!
また見えない敵かよ・・・・・・!!