23-Thinking King-
隼人の能力名をそのまま流用。
1階には何もなかった。
絨毯と壁紙以外、何一つ無い。
「何も無いな」
「・・・・・・・・・・・・」
「じゃあさっさと行こうぜ」
「何も無いはず無いだろ?」
隼人はそう言った。
どうも、先ほどから怒った口調が変わらない。
「いや、どう見ても――」
・・・・・・。
ああ、そうか。
「聖域指定・・・・・・」
「引っ掛かったばかりなのに、成長しないな君は」
「うるせえ」
俺はそう言って隼人を見る。
当の本人である隼人は、まるで気にしていないかのように歩いていく。
時には何も無い空間を避けるようにしている。
「おい、隼人――」
「ソウメイ君!右だ!」
言われた瞬間、何のことかも分からず、俺は右に向かって手を出した。
「!?」
何かが手に当った。
そしてその衝撃が俺の体を吹き飛ばした。
「っと・・・・・・」
衝撃を受け流そうと、そのまま流れに沿って吹き飛ばされ――。
「っで・・・・・・!?」
何も無い空間に躓いた。
「と、あ、わ、ああ!!」
こけた。
しかも、何も無い空間に頭をぶつけた。
「痛ぇ・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫かい?」
そう言って隼人は俺の横に立った。
「どういうことだ・・・・・・?」
何も無い空間から声がした。
聖域指定の男の声だった。
「・・・・・・」
「どうして、お前には分かるんだ?この場所にきたはずの無いお前に」
そう言って男は姿を現した。
「貴方が、例の聖域指定の・・・・・・」
「久留巳仁志だ。質問に答えろ」
「・・・・・・この部屋のおかしい点が1つだけある」
「・・・・・・」
「階段まで消したのは間違いでしたね」
隼人はそう言って、何も無い空間を指差す。
「・・・・・・そうか」
「僕の脳なら、この空間に何があるか分かるんですよ」
「見えているのか・・・・・・?」
「ええ。だから、この世界で僕に勝つのは難しいかと」
そう言って、隼人は拳を突き出した。
「そして、これで終わりにしましょう」
隼人は笑った。
「キングダム」
世界が真黒に変わった。
目を閉じて、開けたときには既に、だ。
この感覚は慣れそうも無い。
「これは・・・・・」
「貴方より格上です。物を見ないようにして騙す能力とは違い、これは物の介入を完全に拒みます」
「・・・・・・」
「しかもこの世界では貴方は能力を使えない」
「チェックメイトだと言いたいんだろうな」
「ええ」
「舐めるなよ」
男は走り出した。
それから隼人を蹴る。
隼人は微動だにしない。
「この能力は把握している。この力の最中はダメージを受けない。そして蓄積されたダメージを全て後で衝撃として受ける事になる」
「・・・・・・」
「なら、今この間にダメージを与え続ければいいだけの話!」
「解除」
そう言って隼人は笑った。
「な――」
「任せた」
「あいよ」
俺はそう言って左手で久留巳の頭を殴った。
「結局、殴り合いは出来なかったな!!」
そう叫びながら。
当然ながら。
あらかじめ作戦を立てていた。
聖域指定の男と出会ったとき、隼人の脳ならば対処できる事を聞いていた。
「嫌だ」
「は?」
「俺は悪い意味でアイツに借りがある」
「・・・・・・そうか。まぁいいよ。君のプライドを守ることも君を守ることと同義だ」
そして立てられた作戦は、単純だった。
隠れた状態や物体を隠した状態で現れれば、俺に対処は出来ない。
が。
1度キングダムを使えば、それらは全て解除になる。
後は相手が油断した瞬間――そして能力を復活させれていない間にけりをつける。
「大丈夫。君の左手なら脳だって破壊できる」
「いや、そこまでするつもりはない」
「そうか?でも、右手で殴るのはやめたほうがいい。頭を殴った時に膨大な量の情報が君の中に入り込む。言っても『頭』だから」
「・・・・・・分かった」
作戦は見事成功した。
無駄に人を殺すこともなく、男は倒れ伏した。
「コイツどうする?」
「警察に突き出そう」
「で?それまで倒れてくれている保証は無いわけだけど・・・・・・」
「そうだね。でも心配ないよ」
そう言って隼人は家具を指差した。
「これらをコイツの上においておこう。いくら消えても、透明人間みたいなものになるだけで、逃げれるわけじゃないし」
「・・・・・・そうだな」
何だろう。
隼人は怒ると異常なストイックさを出す。
コイツは怒らせないほうがいいなと、思うこと頻りだった。