10-Wish Wash-
警察署に入って、ロビーへと向かう。
「・・・・・・」
少し空気がおかしいのが分かる。俺にしか感じられない感覚だろう。
「何かあったのか?」
「・・・・・・まさか、本当に警察に手を回したのか・・・・・・?」
隼人は独り言のようにそう言って、ロビーの方に駆け出した。俺もその隼人を追っていく。
「すみません、各務原龍兵衛さんをお呼びいただけないでしょうか?」
「龍兵衛さんは、今、ちょっと立て込んでおりまして・・・・・・」
「何とかなりませんか?」
「申し訳ございません、今は――」
「探偵!」
ロビーの女性の声を遮った主は、話の中心である龍兵衛さんだった。
「丁度良かった。こっちに来い」
龍兵衛さんはそう言って、俺と隼人を手招きした。
俺達は龍兵衛さんの元へと向かう。
「何かあったんですか?ロビーの人でさえ、貴方が立て込んでいるのを知っていたようですが・・・・・・」
「お前ら、あの殺人鬼の事件かぎまわってるんだろ?」
突然龍兵衛さんはそう言って、こちらを見る。
「ええ、まぁ・・・・・・」
「突然、今捕まっている奴が犯人じゃないと、警視総監が言ってきやがった」
「警視総監・・・・・・!?」
それって・・・・・・!
じゃあ、あの男は・・・・・・!?
「そして、その証明として新たにもう1つ事件が起きた」
「新たな事件というのは・・・・・・?」
「人が1人殺されたよ。例によって例の如く、犯罪者だ」
お前らもそのくらいは調べてんだろ?
と、龍兵衛さんはこちらを見下ろす。
「・・・・・・」
「でだ。お前らが居るって事は、よ」
龍権兵衛さんは少し身をかがめた。
「そういうことなのか?」
「・・・・・・少なくとも、多少以上の関わりはあるでしょう」
「・・・・・・そうかよ」
はぁ・・・・・・。と、龍兵衛さんは溜め息をついた。
「まぁいい。それより、お前ら俺に用があるんだろ?」
「ええ、今、大体済みましたけど、1つお願いがあるんです」
「何だ?」
「その容疑者さんに会わせてください」
「・・・・・・いいだろう。面会ってことだな?」
ついて来い。と龍兵衛さんは言って、廊下を進む。
「ここだ」
龍兵衛さんは、その扉の横にもたれかかった。
「俺はここで待っている。好きに話せ」
「ありがとうございます」
隼人はお礼を言って、部屋に入る。俺も頭を下げてから部屋に入った。
「・・・・・・こんにちわ」
「・・・・・・」
隼人の挨拶にどうでもよさそうな顔をして、こちらを見る。
「貴方が容疑者さんですね?」
「・・・・・・」
「貴方が殺人を犯していないことは分かっています」
「・・・・・・」
「ですが、警察は貴方を拘留した状態から話すことはしないでしょう」
「・・・・・・」
その容疑者さんは、俯いたまま返事をせず沈黙を守り続けている。
顔が見えない。
「・・・・・・あの、返事してもらえます?」
「・・・・・・」
「僕ら、人に頼まれてきたんです」
「!」
ようやく、容疑者の人が静かに顔を上げた。ロングヘアーで顔が隠れて表情が見えない。
「・・・・・・」
「東諒という人です」
「・・・・・・へぇ。東に頼まれてきたんだ。ってことはお前ら相当優しい奴なんだな」
先ほどまでの沈黙とは裏腹に、とても気さくに話し始めた。
「ああ、最近あんまり口開かなかったから、だるくてしょうがないや。まぁ、それもある意味楽しみではあるか。それにしてもこんな事件に首を突っ込んでくるなんて珍しいね」
「・・・・・・」
唖然としてしまった。
先ほどまでの沈黙が嘘のような饒舌だ。
「ああ、失敬。申し遅れたね」
そう言って、その人は長い髪を後ろに回す。
「え・・・・・・」
その顔は、綺麗に整っていて、格好いいという印象だった。
しかし、どうみても・・・・・・。
「女・・・・・・!?」
「ん?東から何も聞いていないのか?まぁいいや。アッハッハッハッハ」
女性は、そう言って快活に笑ってから言った。
「俺の名前は今日元 終。君の言ったとおり、冤罪を掛けられているかわいそうな女性だよ」
『女性』のところで俺を見て、にやりと笑った。