19-反逆思想-
龍兵衛さんの姿が遠くなってから
「ごめんな。先輩、よく分からないけど、この事件に対して殺気立ってるんだよ」
と、先ほどまで隼人の正面に居た双葉さんがそう言って弁明する。そんな双葉さんに、
「今回の警察の配置はどうなっているんですか?」
と隼人が訊いた。双葉さんは一瞬たじろいだような反応をしてから言った。
「あ・・・・・・いや、やっぱり機密事項だから、言えないね」
「ですよね・・・・・・。ありがとうございました」
「役に立てずに申し訳無いな」
そう言って苦笑すると、
「じゃあ、俺も配置につかないといけないから、また会おうね」
といって、走り去っていった。
その後はまた座って時間が経つのを待った。
「・・・・・・どうかしたのかい?」
突然隼人が言った。
「・・・・・・どうしたって・・・・・・何が?」
「何か言いたい事があるんじゃないか?」
「・・・・・・」
俺は自分のティーカップを置いてから、その紅茶に映る自分の顔を見ながら
「俺達は誰も助けられないんじゃなかったのか?」
言った。
「・・・・・・」
「さっき言っただろ?『貴方を助ける』って」
「・・・・・・ああ」
「俺達は出来ない事を今からするのかよ。俺達は助ける事は出来ないんだろ?」
「・・・・・・そうだよ」
「じゃあ、アレはなんだったんだ?適当な事言っていいのか?」
「違うよ」
隼人は少し暗そうに言った。
「僕が何で事件を追うと思う?」
「・・・・・・興味本位」
「無いとも言えない。でも、違う。一般人ならその人と親しいどっかの誰かや、江戸川コナンや金田一にでも任せておけばいい。でも、僕らみたいなのを知った人間に、一般人が関わろうとする事はない」
気持ち悪いからね。
隼人はそう言って続ける。
「そんな彼らを助けられる人なんて限られているのさ。助けようと思える人自体少ない。だから、僕は色々な人の前に現れて、その人に現実を突きつける。そして、自分が正しくない事を思い知らす」
・・・・・・だからか。
そうか、分かった。
コイツが俺の前に現れたのもそういうことだったんだ。
俺に厳しい現実を突きつけ、そして自分という存在を知らせて、孤独感を感じさせずに助ける。
恐らく、同じような事をとても多くの人々にしてきたのだろう。
「助けることはできないし、助けられることもない。それでも」
そう言ってようやく隼人は顔を上げた。
「助けたい」
「・・・・・・」
「無理でも無茶でも無駄でも無意味でも無価値でも何でも、僕は彼を助けたいんだ」
そう言って強い視線を向けた。
「・・・・・・そうか。よく分かったよ」
「時間だ」
そう言って隼人は立ち上がった。
「1つだけいいか?」
俺は隼人に訊いた。
「どうしてそこまでしようと思う?いくら俺達と同じ『アクター』だって言っても、犯罪者だぞ?」
「・・・・・・だって」
隼人は言った。
「決まりきった未来なんてつまらないだろ?たまには神に逆らおうぜ?」
神様には抗えないなんて言わせない。
それすらも神の決めたこと。
全ては神のみぞ知るってね。