17-戦は食事と睡眠で成り立つ-
平和は戦争と戦争の間の騙しあいに過ぎない。
by どっかのなんかのだれか
深夜過ぎとは言え、それでも人々の流れはホテル内に多くあった。
流れ作業のようにスムーズな人ごみを尻目に、VIP専用のエレベーターを使って、スイートルームへ向かう。
エレベーターは静かに稼動し、他の場所に止まる事も無く目的の場所に着いた。
「・・・・・・」
エレベーターから降りて、そのまま部屋に向かう。
廊下の絨毯を踏みしめる。音を床が吸収する。もしも、後ろから追いかけられていたら、洒落にならない。
「隼人、開けろ」
「はいはい」
隼人はふたつ返事で扉を開けて、
「仕事はしてきたのか?」
と、突然聞いてきた。
「それなりに」
「OK、いいだろう」
何様だ。
と思ったけれど、言わずに部屋に入り込んだ。
「どうだった?」
「思ったような感じだ。お前の推理どおりだと思うよ」
「そうか。ということはそろそろ、アレだね」
そう言ってから、隼人はルームサービスで何かを頼んだ。
「腹が減っては戦は出来ぬ・・・・・・か?」
「・・・・・・知っているかな?」
隼人はそう言って脚を組んで、ソファに座った。
「コナン・ドイルのシャーロックホームズは、お腹がすいている時のほうが推理力が増すと言っている」
「じゃあ、何を頼んだんだ?」
「君の夕飯。食べてないだろ?仕事を頼んでいたから」
「ああ・・・・・・そういやそうか」
体質柄あまり空腹感を感じる事が無いために、いつも食べるのを忘れている。特に、朝食は抜く事が多い。
ルームサービスが届いてから、俺は食事を取り始めた。
名前もよく分からないものがあったが、取り敢えずマナー等は無視して口の中へと運んでいく。
「お前の推理だと、この後どうなるんだ?」
「僕の予想が正しければ、今夜から明日の昼までには新たな犯行予告が来るはずだ。僕はそれを狙う」
「狙う・・・・・・ってことは、そこで犯人を捕まえるってことか」
「そういうこと。協力してくれよ」
「分かってるよ」
でも俺にはそれより先にしなくてはならない事があるのだ。
「俺、実質的にはあんまり寝てないんだよな」
気絶で寝たような気分ではあるけど。
「知っている。僕は長い事寝ていたから、夜は大丈夫だ。後は犯人がどう動くかを全パターン考える」
「すげーことしますね」
「王の宿命だ」
隼人はそう言ってから、同時に頼んでいたであろう、紅茶を口に運んでいく。
俺は隼人のご好意に是非とも甘える方針で、ベッドに潜り込んだ。
僕は夢を見た。
その夢の中にはいつもどおり、2つの人影。同じ夢ばかりを見ている。
影はいつもどおり会話する。
僕は何も知らない。
お前は何一つ知らない。
でも強い。
だから弱い。
勝てる。
負ける。
覆される。
流れる。
対極の言葉が飛び交う。1つの『知らない』という情報を肯定するために。
次の日の朝。
「ソウメイ君」
俺はその声に起こされた。
「何・・・・・・?」
「テレビ。見てごらん」
言われたとおり、寝ぼけ眼でその画面を見つめる。
「予想通り。次の事件だ」
だから、どうしてお前は笑っているんだ。