12-右手は『想像』を-
嘉島君の右手は人の『想像』や『思想』を見ることの出来る能力です。
人々を見下ろす視線。そこから見た世界を見て、笑う。
鞄を突き出した。その中にはスタンガンが幾つも入っている。
そしてそのスタンガンを投げた。
瞬間だった。一つ一つが光・・・・・・雷を帯びた矢となり、人々に降り注いだ。
「・・・・・・そうか」
俺が見た情報をそのまま隼人に伝えると、隼人はそう言って冷静に空を見上げた。
「だとすれば『青天の霹靂』では無かったね。それは『落下所為だ』」
「流星の間違いじゃないのか?」
「いいや、物事の責任を落として、自分の責任を捨てる。『落下』の『所為』にするのさ」
隼人はそう言って続けた。
「つまり、自分のミスやしたくないことを、何かに押し付けたい。そう思ったときに選んだ方法が投身自殺だった。でも、自身を失くして、それを願ったことが形になった・・・・・・とか、そんなところじゃないのかな」
「投身自殺・・・・・・!?」
「君も知っているだろう?自分だってそうだったはずだ。傷から新たな自分を作り上げる。それが僕らのスタイルだろ?」
「・・・・・・でも、ということはその人は、そのタイミングで能力を得たってことなのか?」
俺の質問に
「・・・・・・恐らく、能力の内容は落下させることだということだ」
と答えた。
「しかし、それは能力の断片・・・・・・つまり、初めの能力として、自分の持っているものを狙ったところに落下させる能力なのだろうと思う。でも、それを雷の矢に変えて落とすなんて、そんな一朝一夕で身につくような能力じゃない」
「つまり?」
俺の質問に隼人は頷く。
「つまり、長い間時間を掛けて、自分の能力を研究して発展させて現在を作っている・・・・・・そういうことじゃないだろうかと思うんだ」
「なるほど・・・・・・。つまりは向こうは初めから、この事件を起こすつもりだったってわけだな?」
「当然だろうね。それに投身自殺しようとしている人間が、スタンガンを大量に持っているなんていうこともありえないだ。更に言えば、犯行声明文も渡してはこないだろう」
「ああ、そうだな」
俺は動いて、屋上から下を見下ろそうとした。
ヒュ・・・・・・。
「!」
と、小さな音で、風を切り裂くのが聞こえた。
俺は咄嗟に横に飛ぶ。
ガ!という音を立てて、ナイフが刺さった。
「・・・・・・なんだ!?」
「どうした?ソウメ――!」
俺と隼人は自分が入ってきた入り口を見た。
ナイフが、所狭しと浮かんでいる。
「は・・・・・・はぁ!?」
「落下・・・・・・その進化系・・・・・・というよりは原型に近いところまでいったんだろう・・・・・・。サイコキネシスの類だよ」
ナイフが真夏日の太陽の光を反射して、殺意に磨きをかけている印象を受ける。
「切れ味はやばそうだな」
「あと・・・・・・」
そう言って、隼人は指を差す。入り口だ。
「あそこに犯人が居る」
黒い影が見える。
「らしいな。けど・・・・・・」
「僕らに打開策は無い」
「だな・・・・・・」
ナイフは一斉に矛先を俺達に向けた。
「隼人、何とかできるか?」
「出来なくもないけれど、それをしても、最終的には痛みを伴う。後、最初は痛みは無くても、量が量なら、僕の集中力もきれる」
「・・・・・・よく分からないけれど、打開策は無いってことだな?」
「That's right」
ナイフがこちらに飛んできた。
フム。だとすれば全て受けるしかないな。
僕はそう思った。
そして全てのナイフを受けた。
「・・・・・・くく・・・・・・」
男の笑い声が聞こえる。
「・・・・・・な!」
男の驚愕の声が聞こえる。
そりゃあそうだろう。誰でも、自分の目の前に突如、巨大な壁が現れたら驚く。
「くっそが!」
俺はそう叫んでから、男のほうに突っ込んだ。
「って、あれ?」
居なかった。壁が巨大すぎて、こちらから相手の位置を見れないというのもあったが、どうも、壁を見た瞬間に逃げ出したらしい。
「・・・・・・逃げられた」
「恐らく、自らの靴にでもサイコキネシスを使ったんだろう。飛んで逃げた可能性がある。或いは、まだ近くに居るかもしれないけど」
「いや、俺の右手が感じ取っていないから、多分それはない」
「そうかい。ところで」
隼人はそう言って、俺の左手を掴んだ。
「この左手は何だ?」
「ああ、それは」
ふむ。これは、俺の冗談のセンスが問われるところでは!?
「鋼の錬金術師」
「死ね」
対して、左手は・・・・・・?