表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dragon  作者: ユメミヅキ
5/9

#4

 数日が過ぎた。

「これならそろそろ歩けるでしょう。立てますか?」

 医者に促され、ラウルは渡された杖にすがってじわじわと立ち上がる。

「痛い……ですよね」

「大丈夫だ」

「無理しないでくださいよ?」

「怪我には慣れている」

 言いながら、その場でゆっくり足踏みした。

 ラウルは今、マシューの家で暮らしている。ジャンに運び込まれて治療を受け、そのまま患者として居候しているのだ。

「歩ける様でしたら、少し風に当たってはどうですか? 朝の空気は気持ちが良いですよ」

 そうだなと返し、ラウルは杖を突いてまだ仄暗い外に出た。冷たい風が、寝起きのぼんやりとした頭を目覚めさせる。空は、夜から朝へ階調を成していた。

 赤い方を見上げる。朝日は見えない。昇る陽を見るには村は余りに山に近すぎ、山は余りに高すぎた。その山の向こうにある筈の祖国を、ラウルは思い描く。

 帰らなければ。

 はっきりとした理由もなく、帰れるとも思わず、ただそう思った。

 村のどこかで飼われている鶏が、大きな鳴き声を上げる。ラウルは近くの斜面になった草地に座り、次第に明るくなって行く空を眺めた。

 人の気配に気付いて振り向いたのは、空が昼間の青さになった頃。

 少女が、片目でラウルをきつく睨んでいた。もう片方、右の目は眼帯だ。

「ご飯」

 口の動きと合わせてやっと分かる程度の声量で簡潔にそう言い、伝わったかどうかは確認せず走り去る。

 初めて会った時と同じ様に。

 声を掛けようとして、止めた。

 少女はマシューの家に住んでいて、治療や看護の手伝いをしている。父娘ではないが、マシューの言うことを良く聞く優秀な助手だ。勿論ラウルの事も看護している。

 とても嫌そうに。

 何をした覚えも無いのに、何故こうも嫌われたのか。

 ラウルは軽く溜め息を吐いて立ち上がり、家へと向かった。




「ごちそうさま」

「あれ? ティナ、もう良いんですか?」

 頷いて、眼帯の少女は立ち上がった。

「山へ行くんだったら、ついでに薬草を探して来てくれると嬉しいのですが」

 マシューはいくつか薬草の名前を挙げた。

「分かった。見付けたら採って来るね」

 そう返して、ティナは持ち手の付いた籠を片手に外へ出掛けて行く。

「いつもはもう少し食べるんですけどね」

 気を付けて、と声を掛けてティナを見送ってから、食器を片付け始めたマシューは呟いた。

「俺が気に食わないんだろうな」

 食べ終えたラウルは、マシューに椀を渡しながら言った。

「ティナにはひどく嫌われている様だ」

 何故だろう、とマシューを見上げる。マシューはその顔を静かに見つめた。

「……ティナは、無闇に他人を嫌う事はしない子です」

 穏やかに返して、食事の後片付けに戻る。

「直接、訊ねてみて下さい。教えても良いと思うなら、話してくれるでしょう」

「そうする」

 ラウルは頷いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ