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Dragon  作者: ユメミヅキ
4/9

#3

「お待たせ」

 老婆は扉を開けた。中で机を囲んで座っていた六人が、一斉に振り向く。

「遅い」

 警備頭のディノが不機嫌そうに言った。威圧的な筋肉と、シャツの襟から覗く白い傷跡が目立つ。

「まあまあ。ご老体なんだから無理を言うでねえ」

 そう取り成したのは、畑頭のケビン。長年よく日に焼けた肌には、深い皺が刻まれている。

「ほらお婆ちゃん、ここ空いてるよ」

 手招きして、並みの男より逞しい女頭のポーラが老婆を呼んだ。

「ありがとさん」

 老婆がポーラの隣の席に座り、杖を机に立て掛けた。それを見届けて、真っ白な髭を蓄えた村長が話を切り出す。

「今回集めたのは、ラウル・ランスの扱いについて皆の意見を訊こうと思っての。ぬし等、何か考えはあるか?」

「そんなの決まってんだろ」

 棘のある声音でディノが即答した。

「殺人鬼なんか村に置いておけるかよ。今すぐ追い出せ」

「医者として、私は賛成しかねます」

 穏やかな顔つきの、細身な壮年の男が反論する。

「少なくとも怪我が完治するまで、私には認められません」

 その主張に、ポーラがうんうんと頷いた。

「マシュー先生の言う通りだよ。殺人ったって戦時の話じゃないか。怪我人を追い出す方がよっぽど鬼だね」

「終戦はしてねえ、停戦しただけだ。戦争はまだ続いてるんだ」

 サンフィゼールの卑怯なやり口は聞いたことがあるだろう、と言って、ディノは全員を見回した。

「奴がこの国を攻め取る作戦の一部だとしたらどうする」

「それ……言い掛かりでねえか?」

 おずおずと発言したケビンを睨む。

「どういう意味だ」

 ディノの剣呑な視線に縮こまりながらもケビンは続けた。

「だ、だってよ、お前が珍しく話し合いに積極的で、しかもこんなちっちゃい村で何をするって言うんだ? ただあいつを追い出したいだけにしか思えねえ」

「そうさ。そもそも、ラウルの事はさっき村長から聞いただけじゃないの」

「だが、一理ある」

 それまで黙っていた小柄な男が、ぼそりと呟いた。

「ラウル・ランスが、サンフィゼールの要人であることは確かだ」

「カルロ、あんたまで……」

「すぐに追い出せとは言わない」

 ポーラの言葉を遮る様に、男は言った。

「様子見の時間があっても良いだろう」

「その間に事が起こったらどうする」

「お前さん、」

 老婆が口を開いた。その目は真っ直ぐにディノを見据えている。

「ラウルが自分より強いかもしれないのが怖いんだろう?」

「なんだと!?」

 ディノは机を叩いて立ち上がる。マシューとケビンは大きな音に身を竦めた。

「俺があんな奴に負けるわけねえだろうが! しばくぞクソババ!!」

「ほらね、虚勢を張る」

 見透す様な老婆の視線から逃れる様に、ディノは席を離れた。去り際、舌打ちしながら椅子を蹴飛ばす。

「どこへ行くのじゃ。話し合いはまだ終わっとらん」

「こんな無駄な会議やってられっかよ」

 村長にそう返し、ディノは乱暴に扉を閉めた。それを見ながら村長は、はぁと溜め息を吐く。

「全く近頃の若いもんは……」

「可愛いもんじゃないかい」

 お前さんも同じ事を言われてたよと、老婆は笑った。

「それで? どうするんだい?」

 村長はうむと頷く。

「カルロの言う通り、しばらくは様子を見よう。追放するしないはそれからじゃ」

 解散を村長が宣言し、四人は席を立って集会所を出た。

「ディノの言う通りだよ」

 ぽつりと呟いた老婆を、家に帰ろうとしていた村長は振り返る。

「無駄な会議って事さ」

 老婆は杖を突きながら、村長の脇を通り過ぎた。

「事が起こってラウルはこの村を出て行く。あたしの占いにゃ、そう出てるよ」

「事を何だと占ったのじゃ?」

 村長の問いに老婆は立ち止まった。首だけを少し振り返らせる。

「それは分からないけどね、被害は甚大。そして不可避さね。でも、それがあたしらを救うのさ」


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