#1
パァーン……
薄暗い森の中、突然の音に驚いた鳥達が一斉に飛び立った。
「よしっ行け!」
猟銃を肩に掛けながら男は犬の尻を叩く。犬は吠えながら駆け出した。
「あっおい待て、そっちじゃない!」
獲物とは全く別の方向へ向かった犬を追う。慣れてはいても、やはり木の根が這ったりと足場の悪い場所は走りにくい。ようやく犬が止まり追い付いた頃、息はすっかり上がっていた。
「ハァッハァッ……勝手な所行くなって、何度も、言ってるだろ……」
男は膝に手を付いて呼吸を整える。いくらか落ち着き、顔を上げた。
「ん?」
犬が鼻先でつついている物に気付いた。茶髪の青年が右側を下にして俯せ気味に倒れている。辺りには、血の臭い。
「どうした? 怪我してんのか?」
言いながら、青年を揺すった。しかし反応は無い。
「死んでんのかな?」
男は青年を仰向けに転がした。
まず目に入ったのは、顔の緑色の鱗。それから、橙色がこびりついた腹の傷口。
「竜人……!?」
男は大きく後退った。その時、青年が微かに身動ぎする。男は慌てて青年に駆け寄り、脈を取った。
「生きてる……」
少しためらった後、男は銃を体の前に回して青年を肩に担ぐ。
「帰るぞ」
犬に声を掛けて歩き出した。