モノローグ
「ご無事ですか?」
差し出した手はゆっくりと降りた。
救ったはずの姫の目はいっぱいに開き、恐怖で満ちていた。
姫は自分の横を怯えながら走り抜け、従者の後ろに隠れた。
状況が掴めないまま立ち竦んだ。
二人の従者に剣を突き付けられた。
「お前は何者だ」
何を、今更。
「俺は、──」
切っ先に映る物に気付いた。
「──!?」
顔に浴びた返り血の中の、緑の虹彩の中の、少し膨らんだ、真っ黒な、確かに縦長の瞳。
少し前に倒した、化け物と同じ瞳。
「答えろっ!」
「俺はラウルだ」
「その目をさらして何を言うっ」
「だが、」
「あの方を騙るな魔物!!」
周りを見た。緊張、嫌悪、恐怖。あれ程強く濃厚な負の感情を受けたのは初めてだった。
姫と目が合った。
「ヒッ」
「貴様っ!!」
従者の一人が一歩踏み出した。
考える前に体が動いた。
いつも通りに。
気付くと従者の右手は剣を握ったまま地面に落ちていた。
鮮やかな赤い血と、残った手で血を止めようとする従者を呆然と見つめた。
そこに隙を見たのか、もう一人の従者が斬り付けてきた。
反応が遅れ、急所からは辛うじてそらしたが脇腹を裂かれた。
液体が飛んだ。
暗く沈んだ、橙色の血が。
思わず固まった所へ突き出してきたのを危うくかわし、今度は相手を傷付けない様に剣を弾き飛ばした。
衝撃だった。
仲間が自分を敵と見なしている事が。
自分が躊躇無く仲間の命を奪える事が。
目の前で、剣を失った従者は手の無い同僚と姫を後ろに庇って自分を睨んでいた。
自分が今までいた場所はどこにも無かった。
どうしていいか分からなくて、そこに背を向けた。
橙色の液体と共に力が抜けるのを感じたが、それに構っている余裕は無かった。
ただひたすらに暗い方へ歩いた。