大木、大木、何を思う
ある所に大きな木がありました。
何年生きているのでしょう。
他の木に比べてとても大きく太く立派です。
そんな大木ですから人目につきます。
そんな大木ですから人々は喜びます。
「この木にしよう」
そう言って通りかかった男は目的を果たしました。
大木は木ですから何も言いません。
当たり前の話ですけれど、うんともすんとも言いません。
代わりに鳥がやってきて賑やかにぎゃあぎゃあ騒いで過ごしては去っていきました。
時が経ち、今度はお母さんと小さな子供がやってきました。
「この木にしましょう」
「何をするの?」
「じっとしていてね」
親子のやりとりを見ても大木は物を言いません。
繰り返しになりますが当たり前の話です。
木は喋れませんから。
代わりに虫がやってきてじっと二人を見つめた後に集まり飛び去りました。
時が経ち、老人が。
また時が経ち、少女が。
そして時が経ち、少年が。
時とともに数え切れないほどの人間がやってきては目的を果たしました。
けれど、大木は一度だって何かを口にしたことはありませんでした。
木は喋れませんから。
しかし、木も生き物。
もしかしたら、何かを思うことくらいあったかもしれません。
そして、随分と時が経ち。
一人の偉い巫女さんがやって来て言いました。
「妖木だ」
巫女さんはそう言って腕の良い大工を幾人も呼びました。
「この木は人の血を啜っている。数え切れないほど。だから、こんなにも大きいのだ」
そう言って巫女さんは木の言い分を聞きもせず、何やら滑稽な呪いをしたかと思えば、やがてもう脅威はないと言い大工達に大木を切ることを命じました。
大工たちは知っておりました。
この木は妖木でも何でもないことを。
大工たちは知っておりました。
この木はむしろ被害者であるということを。
けれど、偉い巫女さんに逆らうわけにはいきません。
だから、こうして歌を歌いながら大木を少しずつ切っております。
「大木、大木、何思う」
ぎーこ、ぎーこ。
「首吊り大木、何思う」
ぎーこ、ぎーこ。
あぁ。
大木は立派でした。
人の体重なんてものともしないほどに。
あぁ。
だから、人々はここで首を吊ったのです。
ここならば確実に死ぬことができる。
そう安堵して。
「大木、大木、何思う。首吊り大木、何思う」
物言わぬ大木は何も言うことなく消えてしまいました。
大工たちは大木を憐れみました。
しかし、憐れんだだけでした。
あぁ。
恐ろしい。恐ろしい。
人間というものが恐ろしい。
――首吊り大木、何思う?




