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終末魔女の終末キャンプ

終末魔女の終末キャンプ

作者: SA/くっきぃ
掲載日:2026/06/25

素人短編2作目です。今回は日常系っぽい何かを書いてみました。

1作目は王道ファンタジーです。よろしければそちらもぜひ。

面白さは保証できませんが、ぜひ最後までお読みください!


「んむぅ・・・」


朝か昼かも分からないが、部屋の明るさに目を細める。

ふと、窓の外を見やる。

随分と長く眠ってしまっていたようだ。

外はどれくらい時間が経っているのだろうか。


「…?」


やけに外が静かな気がする。

元々この魔女、リーシュが住んでいる世界樹の麓の丘は、住んでいる人こそいないが毎日誰かしらがそこからの美しい景色を眺めにやって来る。

しかし、今日は人の声どころか気配すらしない。

何かおかしいと思った。


(思い切って、外出てみるかな)

「んー、でもなぁ・・・」


リーシュは極度のインドア派だ。一言で言えば、面倒なことが大嫌いな究極のダメ人間。

生活の全ては家で完結するのに、どうしてわざわざ外に出るのかとずっと疑問に思っていた。


「んむむむぅ・・・」


(なんか今日外に人いないみたいだし、思い切って出ちゃいなヨ!)

(え〜。何もしたくないし、面倒だからやめとけば〜?)


外出賛成派と反対派、2つの勢力が頭の中で戦っている。


(どうしようかなぁ…)


短い脳内会議を経て結局、リーシュは外に出るのをやめた。


(け、決して面倒くさがったとかじゃないから!)


自らにそう言い聞かせながら体を起こし、寝室を出る。

そして、とてつもない量の本が雑に積まれた部屋に入る。


「うわぁ…そろそろ片付けなきゃだね」


何せこの部屋には足場がほとんどない。

むしろ今まで躓いていないのが不思議なくらいだ。

そーっと、部屋奥の机に向けて慎重に足を伸ばす。


急に、視界が反転した。


「っうわああああ!!!??」


やってしまった。

派手にコケた振動で、今までギリギリの均衡を保っていた本の山が凄まじい音を立てて雪崩を起こした。


「いってて…」


目をぱちくりさせて、ぐちゃぐちゃになってしまった部屋中を見渡す。


「うわァ…」


想定以上の大惨事に言葉が出なかった。


(ま、まぁ、落ち込んでも仕方ないよ、ね)


リーシュは隠しきれないショックをなんとか落ち着けて、部屋の隅に本を寄せていく。

この状況を「あとでやろーっと」で済ますあたり、流石のズボラ魔女である。もちろん、本人は罪悪感など1ミリも感じていない。


「ん、これは…?」


崩れた本の山から1冊の本がひょっこり顔を覗かした。


「この本は確か・・・」


リーシュはこの本に多少の見覚えがあった。


「きゃんぷ、かぁ」


リーシュは読書をこよなく愛している。

いつだったかは忘れたが、人間がわざわざ家から離れて、不便な自然の中でのんびりする「きゃんぷ」という奇妙な文化について書かれた本を読んで以来、密かに憧れと興味を持っていた。


超インドアの引きこもり魔女が、アウトドアに惹かれる。

まさに天変地異が起きるレベルのとんでもない矛盾だ。


「やってみたいなぁ・・・」


ぽつり、と本心から出た一言。この独り言が、リーシュの好奇心に火をつけた。


「…よしっ!!!」


次の瞬間にはもう、彼女は本を小脇に抱えて玄関へダッシュしていた。

紛れもなく、歴史的な出来事である。


──まぁ、「世界にとって」ではなく、「彼女にとって」でしかないが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ひぃ…めちゃさむい…」


随分と久しぶりに外に出た。

外は一面銀世界。

気持ちが良いほどの快晴。

日光が雪で反射して、眩しかった。


「…なんで誰もいないんだろう?」


外から音がせず気になったために仕方なく外に出たリーシュ。

結局、人は誰もいなかった。


「ふぅ・・・・・・。」


久しぶりの外の澄んだ空気を大きく吸い込み、吐き出す。

リーシュにとって周りに人がいるいないはどうでも良い。

そもそも自分は何のために外にわざわざ出たのか。

──きゃんぷをするためだ。


(きゃんぷ、するぞーっ!)


心の中でそう意気込んで、大きく一歩を踏み出す。

この時リーシュはキャンプ道具が手元に1つも無いことに、なぜか気が付いていなかった。

これはもう、ズボラ魔女ではなくただのバカ魔女である。



(ついに憧れのキャンプをしに外に出た、までは良かったのに…)


「うわあああああん!!そういえば道具ないじゃ〜ん!!!」


どうして気付かなかったのか。リーシュは詰めが甘い自分を酷く呪う。

思えば、この外出は思いつきの突発的なものだった。


(きゃんぷには道具がいるって分かってたのに。興味を持ち始めた時にひと通り集めておけば良かった…)

(どうしよう・・・。と、とりあえず近くの街で買えないかな…?)



─道具がないなら、どこかで調達するしかない。

そう思うのは当然だ。

リーシュはとりあえず丘を降りて少し行ったところの街に行くことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



「あれ・・・?」


整備されていない街道を通り、街に着いたリーシュが違和感を口にする。

家がある世界樹の丘に人間がいなかったのも謎だったが、その原因はおそらくこの街にあるのだろうとリーシュは推理した。


この街、フジミには、リーシュを除いて誰一人いなかった。


「見た感じ大分時間経ってるような…」


荒廃したフジミの街を歩きながら、事前にマークしておいた用品店へ向かう。


「この感じだとやってる訳ないよね…」


せめて用品が無事であってくれ、と半分諦めを滲ませて奥に進んでいく。



◇ ◇ ◇ ◇


かなり奥まで来たが、目的の店が見当たらない。

そして相変わらず、街は静寂に包まれている。

魔女が、ふと、足を止めた。


「…あ…どうして…?」


リーシュは魔女だ。

これまで数え切れない年月を生きてきたが、思い出に関してはどうでも良かった。

「数年なんて些細で取るに足らないもの」というのが彼女の価値観で、それくらいの事はすぐに忘れてしまう。

だから数少ない外出でこの街に来たことがあったはずの彼女は、その時のことを全く覚えていない。

そして見ての通り街は大きく姿を変えていた。この街を覚えていないから、感情なんて湧くはずもない。

なのに、どうしてだろうか。

なぜか懐かしさと寂しさを感じて涙が流れた。


孤独は慣れている。

いつも一人で暮らしてきたからだ。

それでも、当たり前にあった日常が無くなった時の喪失感は、とてもじゃないが耐えられなかった。


「なんだかんだ人間が好きだったんだな、わたし」



◇ ◇ ◇ ◇


結局、用具屋の物品は全滅だった。


「うぅ寒ぅ…疲れたなぁ…帰りたぃ…」


完全に徒労だった、と街の出口へふらふらした足取りで向かう。


(あとで焚き火しようかな…)


彼女の炎は、まだ消えていなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


家に戻ってきたリーシュは、気持ちを切り替えてせっせと薪を用意する。

家で発掘した本をチラチラ見ながら、薪を組んでいく。


「よしっ、あとは、『よく燃える素材に火種を』…って火種?」


普段からリーシュは魔術の根付いた生活を送っている。

いつも直接手から出して着火しているため火種という概念を知らない。


(よく分からないけど…火なんて燃えればなんでもいいよね…?)


人差しを立てて、そこから火を出して着火する。



ジュッ。



「あ、れ・・・?」


リーシュは青ざめた顔をした。

せっかくの薪は一瞬で灰になり、崩れ落ちた。


「…いいや、まだまだあ!」


リーシュは面倒を嫌うが、今回ばかりは例外。

意地でも火を付けてやる。

そこからリーシュの長い戦いが始まった。



◇◇◇◇


魔女は生まれた時から魔術が使える。大抵の魔女は自身の魔術に自信を持っている。

だから、火の魔術の火力の調整くらい全然楽勝…ではなかった。

結局、家にストックしていた薪は全て灰にしてしまった。


「うわああああん!お湯すら沸かせなぃぃぃ!!」

「…何もうまくいかないぃぃ…。もうやめようかな・・・」


薪すら上手く着火できなかったことがかなりショックだったが、とりあえず気を落ち着ける。

深呼吸をしてフジミの街を見下ろす。


ふと、視界の端に空へ昇る白煙が映った。


「あれ…?誰かいる・・・?」


リーシュは珍しく今日は人間を誰一人として見ていない。

よし、決めた。

積み上げた灰の山のことは一旦忘れて、歩き出した。


──もちろん、()()、である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


世界樹の丘は『フジの山』とも呼ばれている。

これはリーシュが読書で得た知識だ。

自分の住んでいるところの名前なんて、彼女にはどうでも良い。

そんなことを考えながら、山を下っていく。

しばらく歩いて、麓の湖の近く、煙の上がっていた地点に着いた。


誰かいる。

リーシュは木の影に隠れて様子を窺う。


(あれ・・・?見失っちゃった・・・?)


辺りをキョロキョロと見回す。


「…そこで何してるの?」


背後だった。


「うびゃあああああああっ!!!!!!」

「うわっ、びっくりしたぁ…急にそんな大声ださないでよ」

「…っ」


リーシュは驚きのあまり声が出せなかった。


「まさか私以外に生き残りがいるとは思わなかったな」

「生き残り…?」

「あれ、知らない感じ?なら教えてあげる」

「人類は滅んだんだよ。なんでかは私も詳しく知らないけど、ね」

「…え?」

「まぁ、そう簡単に信じられる話じゃないよね」


人類が滅んだ。理解が追いつかない。


(え!?ええ!?フジミの街に人間がいなかったのはそういうことなの…?)


困惑するリーシュを見かねてか、「…まぁ、難しい話はやめようか」と彼女は言った。

一瞬馬鹿にされてるのかと思ったがもちろんそうではなかった。


「それじゃ、見るからに怪しい生き残り2号ちゃんのことを聞かせてもらおうかな」

「あ、怪しくなんてないからっ!!…ぁ」


つい力が入ってしまった。リーシュはすぐに口を閉じて反省する。

目の前の少女はそれを見逃すまいとニヤニヤしながら続ける。


「ふ〜ん?じゃあその服はなにかな?」

「え・・・?」


服…?何をこの人は言ってるんだろう。

別におかしなところは………あ。


(え!?ちょっと待って!?恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!)


リーシュはズボラだ。面倒が嫌いだ。

だから今日も、それをしなかった。



リーシュは、起きてから今までずっとパジャマのままだった。


赤面したまま硬直するリーシュに、少女は目を丸くしている。


「…ホントにパジャマだったの…?もう昼の2時だよ?」

「うぅ…着替えがなかっただけだもん…」


縮こまって半泣きの状態のリーシュは言い訳をした。


「ほんとかなぁ…まぁいいや」


少女は「しょうがないなぁ」と言わんばかりの表情で話題を変えた。


「ん〜、あなた、名前は? あ、聞くなら私も名乗らないとね。私はリコ。そっちは?」

「…リーシュ、です」

「ふんふん、リーシュ、ね。…それで、リーシュはお昼はもう食べた?」

「…まだ、でしゅ」

(噛んだっ!?笑わないで…!!)

「ふふっ…。そう、ならちょうど良かった。今からちょっと時間かかるけど、一緒にどう?」

(笑わないでって言ったのにぃぃ!!恥ずかs…え、今なんて言った?)

「…キャンプ飯ってことですか…?」


しゅん、とした顔がみるみる期待の色に染まっていく。


「ん〜、まぁそうとも言うかも?」

「ぜひ!お願いしますっ!」


その肯定にリーシュは異常な速度で食いついた。


「ちょっ、チョロくない…?」

(ホントにこれが魔女…?)


リコは魔女という存在を知っている。

おとぎ話でしか聞かない架空の存在。

それが魔女のはず、なのに。


どこにでもいるごく普通の人間が、おとぎ話でしか聞いたことのない魔女を手懐けてしまった。

─ただ、リーシュはそんなことどうでも良い。今はただキャンプ飯の事だけしか眼中になかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふんふん〜♪」


今日はツイてる。

せっかく外に出たのは良いが危うく徒労に終わるところだった。

たまたま見つけた人間の生き残りがお昼を作ってくれること、そしてそのロケーションが抜群ということ。

これは鼻歌を歌わずにはいられない。ついでにスキップもしてみたり。


「そういえば」


見るからに機嫌が良さそうなリーシュに、リコが切り出す。


「食材なんだけど、まだ用意してないから」


「…え?」


『今からちょっと時間かかるけど、一緒にどう?』


先ほどの言葉が思い出される。

面倒を嫌うリーシュには大打撃を与えたかのように思えた。

──が、リーシュはめげない。


「そこの湖にでかい魚がいるから取ってきます!」

「あぁ…うん。わかった、じゃあお願い」

「よぉぉし!行ってきます!」


今日のリーシュは一味も二味も違う。

いつもは絶対にしない駆け足で、湖に向かった。


◇◇◇◇


「ふぇ〜、疲れたぁぁ」


肩を大きく上下させて息をする。

駆け足で向かい出した手前、途中で歩きに切り替えるのはどこか嫌だった。


結局、湖まで走って移動した。

魔術を使えば飛んで行くこともできた。

でも、それはしなかった。


(苦労して食べるキャンプ飯は絶対に美味しいに決まってる…!!!)


食べることで頭がいっぱいのリーシュは湖のほとりに立つと、手を掲げて魔術を使う。


「よいしょっ!!」


重低音を響かせて湖が爆ぜ、水柱が上がる。

そして水面から大きな魚が姿を現した。

おまけに数匹の小魚も漁れた。

リーシュは満足そうに頷き、パッパッ、と手を払う。

明らかに湖の水かさが大きく減っているような気もするが、リーシュは気にしない。


「ふぃ〜、大漁、大漁」


果たしてあの子がどんな風に調理してくれるのだろうか。

期待に胸が躍る。


「…処理はあの子に任せて、とりあえず持って帰ろうかな…げっ」



青ざめた顔をしたリコがそこに立っていた。


◇◇◇◇


「…」


本当に任せて大丈夫だっただろうか。

リコに不安感を抱く。

リーシュは魔女だ。

根拠はないが、何かとんでもないことをやらかす気がする。


「仕方ない、か。ちょっと見に行ってみるかな」


作業の手を止めて、彼女を追って湖へ向かった。



「…いたいた」


遠くに湖のほとりに立つリーシュを見つける。


(釣竿もないし手掴みなわけないし…まさか、魔術…!?)


リーシュが手を掲げる。


次の瞬間、体感した事のない程の衝撃と爆音がリコの体に走った。


「…!?」


(これが魔女…。規格外すぎるでしょ…)


あまりの衝撃に声が出ない。

そして、衝撃はまだ続く。


「ふぃ〜、大漁、大漁」


明らかに少し水かさが減った湖、見た事のない大きな魚と数匹の小魚。

リコは絶句する。


(えぇ…)


リコは考えるのをやめた。


「…処理はリコに任せて、とりあえず持って帰ろうかな…げっ…バレちゃった?」

「バレるも何も、最初から知ってたよ。流石にちょっと疑ってたけど」

「えー、なんで言ってくれないの!?敬語キツかったんだけど!?」


どうやら彼女は人間であるリコを怖がらせないように、気を遣ってくれていたようだ。

もちろん、『彼女なりに』、であるため、リコは気付けなかった。


「…でも、本当に魔女が実在したなんてちょっと…ううん、かなりびっくりしちゃったかな」

「え?魔女ってもしかして架空とか想像上のものって思われたってコト…? ちょっとショック…」


リーシュがしゅんとして肩をすくめる。

そんな彼女を見かねて、リコが思いを打ち明ける。


「まぁ別になんて言われてようが、私の目の前にいるリーシュは本物だから関係ないよ」

「…! ええと…名前なんだっけ?」

「リコ。覚えてね」

「はい、すみませんでしたっ!!リコ様ばんざーい!!」

「ふふっ…。」

(なんだろう、この感じ。懐かしいな)


リコはずっと一人でこうして生き延びてきた。

周りの人類がみんないなくなって、終わりのない孤独を感じていた。

最後に誰かと話したのは一体いつだっただろう。

この賑やかさ、嫌いじゃない。

むしろ、これからもこの幸せを感じたい。

そんな思いを噛みしめて笑みを浮かべた。


◇◇◇◇


リーシュが捕まえた(爆破した)魚を運び、テントまで戻った。

運搬は彼女が魔術で浮かしてくれたので全く苦ではなかった。


「それで、これをどう処理しようかなんだけど」


大きい魚を前にして呟く。


「もう思い切ってぶつ切りにしちゃおうよ!」


リーシュが手を掲げようとする。


「いや、待て待て! 食材を泣かすなって!」

「いやぁ、わたしナイフとか使えなくてぇ… (さば)いてぇ?」


あざといポーズ、キラキラした目でこちらを見ている。

悔しいことに、リーシュの可愛さに、リコは逆らえなかった。


「あぁ…!もう分かったよ!やるから!」

「やったー!キャンプ飯♪」


いつぞやの機嫌の良いリーシュを横目に、驚異的な手際で大きな魚…魔黒(マグロ)といったか、を捌いていく。

おまけの小さな魚は塩焼きに、魔黒は刺身とフライにしていく。

いつの間にかリーシュが横でよだれを垂らして眺めていた。


パチパチと焚き火が音を立てている。


気付けば夕方になっていた。

空には一番星。それと、遠くに雷雲。

(今夜は荒れそうだな)


「うまっ!うま〜い!」

「…そんなに?」

「最高だよコレ!流石リコだよ!わたしのいつもの食事と格が違うよ!」

「逆にいつもどんな食事してんだよ…」


夢中で頬張るリーシュに、ボソッとリコがツッコミをいれる。


「んぅ…、何書いてるの?…んぐ」

「ちゃんと飲み込んでから喋りなよ、もう…ええとこれはね、見れば分かるけど、日記だよ」


リコがどこか遠い目をして言う。


「その日の出来事とか思い出を書いてるの。私、記憶力ないし」


リコが自嘲げに笑って言う。


「わざわざ覚えておく必要ってあるの?別に忘れちゃっても問題ないと思うんだけどなぁ」


リーシュが思った事を真っ直ぐに言葉にする。


「記憶力がないってのもあるけど…一番はね、覚えてたいし、残しておきたいんだよ」

「残しておく…」

「そう。これまであった事を出来れば全部、いつまでも覚えていたい。けどそうはいかない。だから、こうやって形に残して、いつでも思い出せるようにしてるんだ」

「へぇ…わたしもやろうかな」


そう言ってリーシュはどこからか手帳を取り出す。


「私、今日リーシュに出会えてすごく嬉しかったんだ。これだけは日記に書かなくても、絶対に忘れない」

「えへへぇ、わたしも!わたしも!絶対に忘れない!」


─そうして、和やかな夜が更けていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕飯を終えて、焚き火で温まりながら、空を眺める。

(降ってきたな)


「おーい、リコ? どうしたの?」

「この雨、結構強くなるから一旦テントに避難しようか」

「えぇーっ、雨かぁ」

「いいから、片付け手伝って」

「…はーい」


◇◇◇◇


片付けを終えて、テントに逃げ込んだ直後、雷を伴った激しい雨が降ってきた。

ぴかり、と空に稲妻が走る度、リーシュが縮こまって「ひえぇっ」と弱々しい声を上げる。


「そんなに怖がる事ないのに」

「そんな事ないよぉ〜っ!!もうお家に帰りたいぃ…」

「えぇ…とりあえずこれ飲んで落ち着きなって」


リコが温かいスープを手渡す。


「ふぇぇ、温まるぅ…」

「落ち着いた?」

「…うん。ありがと」

「やっぱチョロいな」

「え!?リコ、わたしの事チョロいって思ってたの!?」

「ふふっ…。さぁ、どうだろ?」

「えー、リコが意地悪するー」


雷に怯えてビクビクしていたリーシュだったが、いつの間にか自然と笑顔になっていた。


「あ、そうだ!」


リーシュが急に立ち上がった。


「いい事思い付いちゃった!」

「…今度は何やらかすつもり?」

「やらかすって…。まぁ良いから見てて!」


若干不満を滲ませたが、表情を変えずに外へ飛び出す。


「え、ちょっと!?」


リコはリーシュの奇行に驚きつつ、リーシュに続いて外に出る。


「よぉぉし、いっくよ〜!」


リーシュが力を込めて手を体の前に突き出す。



──その瞬間、世界から音が消えた。

これまでテントを叩いていた雨粒が空中で動きを止める。

今まで唸っていた風が、雷が、嘘みたいに凪いでいる。

急に訪れた静寂に、リコは思わず息を呑む。

そして、リーシュは手をゆっくり高く掲げた。


──大気が動くのを感じる。

雨粒が天高く昇っていく。

風が、黒い雲を切り裂き、霧散させる。

雲間から青白い月光が差し込む。

漆黒の塊だった雲が全て消え去って現れたのは──


吸い込まれるような、どこまでも広がる果てのない美しい銀河だった。


夜空には、宝石をばら撒いたような銀河。

そして星々が、自らの命を燃やさんとばかりにまばゆい光を放っている。


「……すごい」

「えへへぇ。でしょ?」


ただただ夜空を見上げ言葉を失うリコ。

子供のように笑い、同じように空を見上げるリーシュ。

その横顔は、降り注ぐ星々の明かりに照らされていた。


「…これなら、日記に残さなくても良いでしょ?」

「……もちろん!」


人類がいなくなり、静寂に呑まれた街。

街の灯りは全て途絶え、暗闇が広がっていたはずだった。


「この光景を見れるのも、私たちだけなんだね」


リコが寂しそうに呟く。


「この景色、忘れられないなぁ…いや、忘れてやらない!」

「ふふっ…。なにそれ」


リーシュの少しおかしな発言に、今日一の笑顔が溢れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。

それにしても昨日の景色は絶景だった。

月並みな表現だが、間違いなくリコにとって記憶に焼き付くものだった。


「んぁ…あれ、リコ…おはよう…」


眠気混じりの声ですぐ横でこちらを見つめていたリコに呼びかける。


「ん、リーシュ。おはよう。今日も寒いね」

「そうだね。…なーんにもしたくないんだけどなぁ」


いつまでもこうしていたい気持ちは山々だが、そうはいかない。

とりあえず起きて、顔を洗う事にした。


◇◇◇◇


顔を洗った。

次はテントの撤収だ。

リーシュに教えてもらいながら片付けを手伝う事にした。

魔術も駆使して作業を進めていく。



「意外とあっさり片付いちゃった」

「もともとそんなに大きいテントじゃなかったしね」


テントなどの設備が片付いたと言うことは、次の展開はもう決まっている。

それを感じ取ったのか、お互いに気まずい空気が流れている。


「…あの!」


リーシュが切り出す。


「…どうしたの?」

「わ、わたしね、リコと出会えて、本当に嬉しい!…幸せ?ってやつ! …ほら、魔女ってバレたくなかったし、ずっと一人で生きてきたから」

「それは、私も…って暗い話はやめようよ」

「うん、ごめんね……えっとぉ、そのぉ…」

「次、どこ行こうか」

「…え?」

「だから、次、どこ、行きたい?」


言い淀むリーシュにリコが当たり前のように言った。

もちろん、リーシュはその意図がよく分からない。

混乱するリーシュに、リコが本音を打ち明ける。


「ほんの短い間しか一緒にいなかったけど、『一緒にいたらめっちゃ楽しい!』、『もっと一緒にいたい!』って思ったんだ。私も…幸せだった。だから…これからも一緒にいてくれますか…?」


リコの告白。リーシュは驚きを隠せない。


「そ、その…わたしは魔女だしぃ…」

「言ったでしょ。そんな事は関係ない。リーシュはリーシュだよ」

「…!! あ、あ、あの!わたしも一緒にいたい!」


リーシュが自分を卑下するような事を言う。

思いもよらないリコの温かい言葉に思わず涙が(あふ)れる。

リコも、涙ながらに本音を打ち明けるリーシュを見て、涙していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そういえば、リーシュは荷物家に取りに戻らなくて大丈夫なの?てかずっとパジャマなの?」

「うっ…流石に着替えくらい持って来てますぅー荷物も多分大丈夫ですぅー」


雑に部屋の隅に追いやったまま片付けていない無数の本。

灰になったまま放置した薪の山。

およそ半日もの間パジャマのまま出歩いていた事。

嫌な事を思い出してしまった。


「そうなの?なら良いんだけど…。まぁ準備も出来たし、出発しようか」

「うん!…て言うか結局どこ行くの?」

「まだ決めてないよ」

「へぇ…ってうそぉ!?行き当たりばったりなの!?」

「ふふ、そうだね。どこか行きたい所とかある?」

「そうだなぁ…湖とか川は見た事あるけど、うみ?はまだないんだよね」

「海かぁ…良いね。…それなら、こことかどう?」


手元の地図を指差す。

フジミの街からかなり南に進んだ、ズイという街。


「良いねぇ〜!すっごくワクワクしてきたぁ!!」


電動バイクに乗るリコの後ろに、リーシュが跨がる。


─目指すは、リーシュが一度も見たことのない青い海。


「それじゃ、今度こそ出発だね」

「れっつごー!」

「しっかり、捕まっててよ!」

「もぅ、分かってるって!」


他愛もない会話すら愛おしく感じる。

これからどんな旅が待っているのだろうか。

きっと、ここからの人生は、忘れられないものになる。

そんな期待を胸に抱いて、バイクを加速させる。


この世界を、二人だけで、生きていく。

そう思うだけで、どこまでも行ける気がした。

最後までお読みいただき本当にありがとうございました!

コメントを残していっていただけると嬉しいです。

僕の生きがいその他諸々の維持向上に繋がりますので。

また気が向いたら何か投稿するかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。

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