第五話
第五話です。
ではどうぞ。
――――『普通』ってなんだろう。
ヘリオス様曰く『普通』は人間みんなそれぞれが違うと言っていた。
それが私と違うことがあの眩しく見える原因なのだろうか。
別に私の今までの生活が『普通』とは思ったことはない。
私にはこれしか生きる方法がなかったからこうしてただけ。
ふと気づいた。
私は今まで ”生きたい” って思ったことが一度でもあっただろうか。
「……シス、ネメシス!」
目の前で手が思いっきり振られたことで、ハッと我に返った。
「そんなにボーっとしてたら、自分の指切っちゃうよ?」
私の手には包丁と食材が握られていた。
ああ、そうか。今日の朝ごはんはヘリオス様と作る約束をしていたんだ。
「申し訳ありません。考え事をしていたので」
「そ、れ、よ、り! 私の話を聞いていたか?」
「え……と、なんのお話だったのでしょうか」
「朝食作りが終わって食べたら、また君の絵を描くから今日も絵のモデルになってって話」
「承知いたしました」
ヘリオス様がずっと絵を描いているのも、今日も私の絵を描くのも、私にはその気持ちがわからないが、それがヘリオス様にとっての『普通』なのだろう。
「卵が焦げてる!!」
なんとかして卵を救出しようとあたふたしているヘリオス様を見て思う。
たくさんの人たちの『普通』を知っていけばいい。
ヘリオス様は私にそう言った。
その言葉の真意とは。
しかし、それを理解するのに悠長にしている場合があるのだろうか
「うーん。何週間ぶりだろう。こんな美味しいご飯を食べたのは。あと誰かと食べるってのはやっぱりいいねえ」
ニコニコと満面の笑みでご飯を頬張る。
「それは嬉しい限りです」
私の場合、食べ物の好き嫌いというものがない上、美味しさもわからない。
けれど、何かを口にしないと空腹では任務に支障が出るというが長の教え。
任務が遅くなって組織に帰らないという場合は、そこら辺に落ちている食べ物であろうと口にした。
「ネメシスってさあ、褒められると『嬉しい』、悪いことしたら『申し訳ない』とかいうけど、正直そんなこと思ってないでしょ」
思わず、手が止まる。
「なぜ、そう思うのですか?」
「んー勘……なのかな。ネメシスが言葉を発するときほとんど無表情というか。私の気の所為だったら、ごめん、変なことを聞いたね。早く食べて、絵を描こうか」
「ヘリオス様はなぜ絵を描くのですか」
「え? 急にどうしたの」
私達は庭にでて、快晴の下私は木製の椅子に座らされ、ヘリオス様は私の絵を描いていた。
カリカリと鉛筆を走らせる音が、庭の草木や青空に溶けていく。
私の唐突な質問に戸惑っている様子だった。
しかし、知ることは聞くことが一番だと昔長に教えられた。
「んー、なんでだと思う?」
「わかりません」
「即答!? もう少し考えてよ……まあいっか」
諦めた様子。なんでもいいから、答えたほうが良かったのだろうか。
結局ヘリオス様はなぜ絵を描くのか教えてはくれなかった。
「私、ネメシスの笑った顔が描きたいなぁ」
「そうと言われましても。笑うとはどうやってするのですか」
「えー! どうやってって……そうか、困ったなぁ……」
何が困るのだろう。私の笑った顔には別になんの意味もない。
そもそも、なぜ私の絵を描くのかという疑問まであるのに。
少し考えるような仕草をしたあと、何かを思いついたのか、鉛筆を置いた。
「じゃあ、いつか私がネメシスを笑顔にしてみせる! 約束だよ」
「でも、私にはできませ……」
「そこは! 『はい、わかりました』っていうところなんだよ?」
「はい、わかりました」
「じゃあはい」
目の前にヘリオス様の小指が差し出される。
まだまだ時間はある。
いつかこの約束が果たされるときまで、私が笑えるその日まで、必ず知ってみせる。
人間のことを――――ヘリオス様のことを。
笑顔の意味も。
私はヘリオス様の小指に自身の指をそっと絡めた。
第五話どうでしたか。
改善点、高評価よろしくお願いします。




