第十話
休日、私はヘリオス様と一緒に彼に振る舞うためのシチューの材料の買い出しにでかけ、家に帰ってきた。
「あ、新しい画材を買うの忘れてた!」
突然大きな声を出すものだから、何事かと思った。
あーあーと床に突っ伏してうなだれている。まるで地面を這うイモムシのよう。
「しかし、今日買わなくてもよろしいのでは……」
「でも、今日買おうって決めてたから絶対買いたいんだよ。もうない絵の具とかもあってさぁ。新しい筆も買いたいし……」
床でブツブツ呟いているヘリオス様と会話をしてみると、案外頑固な人なのかなと思う。
「すぐ買ってくるから、待ってて! 夕飯までには帰るから!」
「え、あ、あの……!」
素早い動きで財布を手に取り、部屋を出ていく。そして、玄関についているドアベルが鳴ったことで、ヘリオス様が出ていったことがわかった。
この間、約一分程度。
嵐のように過ぎ去った彼を見送り、一人屋敷に残された私はじっとしているわけにもいかず、台所へと向かう。
「ヘリオス様が出かけている間、シチューでも作りましょうか」
それから1時間半ほどたち、ヘリオス様に振る舞うと約束していたシチューを作り終えた私は、ヘリオス様がまだ帰っていないことに気づく。
ここから麓の街に降りるのに、歩いてでも15分でつく。つまり往復で30分。買い物をするにしてももうとっくに帰っても良い時間だ。
何かがおかしいと思ったその瞬間だった。
ガンっと玄関の扉に何かがぶつかる音がした。
ぶつかると言うより……何かが刺さったような音だろうか。
鍋の火をとめ、階段を降り、扉の前に立つ。
深く深呼吸し、扉を開く。
扉の外側に、ナイフと一緒に紙切れが刺さっていた。
紙切れには、地図の絵とバツ印だけが書かれている。
それがどういう意味なのかはすぐ理解した。
あまり時間がすぎると手遅れになるかもしれない。
そんな予感が頭をよぎった。
扉からナイフを抜き、それらを持って屋敷に戻り、準備をする。
「厄介事がまだまだ続きますね」
夕暮れ時。
まるでこれから起こることを暗示するかのような赤い夕日の中、私はルミナ家をあとにした。
正直相手が何人いるかもわからないこの状況で勝機があるのか。
一般的にはそう考えるのだろう。
しかし、彼女の任務成功率は100%。
彼女の倍の体格がある人も、どんなに格闘術がある人も、彼女の前では歯が立たない。
彼女にそんな圧倒的な力を見せつけられるほどの殺戮能力があるのは、なぜなのか。
彼女の過去には何があったのか。
それは本人にもわからないだろう。
いつかわかる日が来れば、その時はきっと――――。
地図にバツ印が付いていた場所は、おそらく誰も住んでいないだろう廃墟だった。
森の中にそびえ立つそれは、禍々しい雰囲気を醸し出していた。
廃墟に一歩、また一歩と足を踏み入れた。




