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追放令嬢が拾った伝説の魔獣は、食いしん坊な黒猫でした。 ~「不敬だぞ!」と怒る最強魔獣を、ご飯とブラッシングで完全攻略しました~  作者: 速水静香
第二章:黒猫の王

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第九話:小さな太陽

 石造りのシンクに並んだ鮮やかな赤色の肉塊を見下ろしながら、私は頭の中で調理工程の組み立てに入っていた。

 目の前にあるのは、ベルが仕留めてきた立派な野兎の肉だ。下処理を終え、不純物を水魔法で徹底的に取り除いたそれは、市場に並べても遜色のない、いや、鮮度だけで言えばそれらを遥かに凌駕する極上の食材だった。

 しかし、素材が良いからといって、適当に火を通せば美味しくなるというほど料理は甘くない。特に野生の獣肉は、筋肉が発達している分、そのまま焼いただけではゴムのように硬くなってしまう恐れがある。ましてや、今の私には肉を柔らかくするためのワインもなければ、臭みを消すための香辛料の瓶も並んでいないのだ。

 あるのは、塩漬けにされた干し肉と、森で手に入る水、そして私の知恵だけである。


「さて、どうしたものかしら」


 私は腕組みをして、調理場の棚に置かれた鉄鍋に視線を移した。

 錆びついていたそれを洗浄し、油を馴染ませる暇もなく使うことになるが、煮込み料理ならば問題ないだろう。

 そう、煮込みだ。スープにするのが一番合理的だ。

 硬い肉も長時間煮込めば繊維がほぐれるし、骨から出る出汁も余すことなく摂取できる。何より、冷え切ったこの石造りの空間において、温かい汁物は精神的な安定剤としても機能するはずだ。

 問題は、風味付けだ。

 そのままだと、どうしても獣臭さが鼻につくかもしれない。ベルはともかく、長年洗練された――悪く言えば加工され尽くした――宮廷料理に舌が慣れてしまっている私にとって、野性味溢れる直球の味は少々刺激が強すぎる懸念があった。


「ベル」


 私は調理台の端に飛び乗って、まだかまだかと尻尾を揺らしている黒猫に声をかけた。

 彼は私の呼びかけに、待ちきれないといった様子で耳を動かす。


「なんだ。献立が決まったのか? 我としては、肉汁が滴るようなレアステーキでも構わんぞ」


「残念ながら、ステーキを焼くには鉄板の温度管理が難しいですし、付け合わせもありません。今回はスープにします」


「スープだと? 汁物か。腹に溜まらんのではないか?」


「具沢山のシチューに近いものにしますから、満足感はあるはずです。それより、少し手伝ってください」


「王たる我に下働きをさせる気か?」


 不満げに鼻を鳴らすベルだったが、その瞳はどことなく楽しげだ。

 私が彼に頼みごとをするとき、それは彼が必要とされている証でもある。口では文句を言いながらも、彼は自分ができることを見せつける機会を逃さない性格であることを、私はこの短い共同生活ですでに看破していた。


「この教会の裏手、少し日当たりが良い場所がありましたよね。そこに、香草が生えていないか見てきてほしいんです。かつて修道士たちが住んでいたなら、薬草園の跡地があるかもしれません」


「草か。我は肉食だぞ」


「貴方に食べさせるわけではありません。肉の臭みを消して、美味しくするための魔法の草です。葉の形がギザギザしていて、爽やかな香りがするものや、丸くて少し苦味のある匂いがするもの……何でもいいので、鼻を頼りに探してきてもらえませんか?」


「ふん、人使いの荒い女だ。だがまあ、不味い飯を食わされるよりはマシか」


 ベルは軽く伸びをすると、軽やかに窓枠へと飛び移った。


「少し待っていろ。この森の植生など、我の庭も同然だ」


 言い残して、彼は森の緑の中へと姿を消した。

 頼もしい相棒だ。

 私は彼を見送ると、調理の準備に取り掛かるべく、かまどに向き合った。


 昨日拾い集めておいた枯れ枝を、かまどの中に組み上げる。

 空気の通り道を確保しつつ、小さな枝から太い薪へと火が移るように立体的に配置する。これは書物で読んだ知識の通りだ。

 王都の屋敷ならば、魔道コンロのスイッチを捻るだけで青白い炎が手に入ったが、ここでは原始的な方法に頼るしかない。

 さて、着火だ。

 私は意気揚々と鞄に手を伸ばし、底を探った。


 指先に触れるのは、冷たい銀食器の感触と、滑らかな石鹸の包み、そして裁縫箱の木の質感。

 ……あれ?

 私は眉をひそめ、鞄の中身を全て調理台の上に出した。

 ナイフ、フォーク、スプーン。

 水袋、裁縫箱、石鹸、タオル。

 干し肉の残り、ベリーの瓶。

 以上だ。


「……ない」


 私の口から、乾いた音が漏れた。

 ない。

 火打ち石が、ない。

 記憶を巻き戻す。あの嵐の夜、私は必死に必要なものを選別した。

 武器代わりのナイフ、衛生を守る石鹸、衣服を修繕する裁縫道具。どれも生存には不可欠なものだ。

 だが、火を起こすための道具を、私は完璧に見落としていた。

 いや、心のどこかで「魔法があればなんとかなる」という甘えがあったのかもしれない。あるいは、召使いが常に火を用意してくれていた生活の弊害か。

 水魔法使いである私は、火を生み出すことはできない。

 火打ち石も、マッチもない。

 目の前には、組み上げられた薪と新鮮な肉がある。

 しかし、熱源がない。


 私は呆然と立ち尽くした。

 これは、笑えない。

 公爵令嬢としての知識や教養があっても、火一つ起こせなければ、この森では死あるのみだ。

 生の肉を食べるわけにはいかない。お腹を壊して体力を消耗すれば、それは死に直結する。

 まさか、こんな初歩的なミスで詰むとは。


 自分の浅はかさに唇を噛み締めていると、窓の外から黒い影が戻ってきた。


「戻ったぞ。これか?」


 ベルが調理台の上に吐き出したのは、私の期待以上の収穫だった。

 ローズマリーに似た針葉樹のような葉を持つ香草。

 野生のタイムと思われる、小さな葉が密集した枝。

 そして、驚くべきことに、野生のニンニクとも呼ばれる行者大蒜のような球根植物まであった。

 素晴らしい食材だ。

 だが、今の私には、それを活かす術がない。


「……どうした、コレット。浮かない顔だな」


 ベルが不審げに私を見上げる。

 私は正直に白状することにした。変なプライドで誤魔化しても、お腹は膨れない。


「ベル、怒らないで聞いてくださいね」


「なんだ、肉を落としたか?」


「いいえ。……火をつける道具を、忘れました」


 一瞬の沈黙。

 ベルは大きな目をさらに丸くして、まじまじと私の顔を見た。


「は?」


「火打ち石を持ってくるのを忘れました。私には火魔法は使えません。つまり、このままでは料理ができません」


 ベルは呆れ果てたように、深々と溜息をついた。その長い髭が、大げさに揺れる。


「……貴様、それでも人間か? 道具を使うのが唯一の取り柄だろうに、肝心なものを忘れるとは」


「返す言葉もありません。生肉がお好きなら、このままどうぞ」


「断る。さっきの煮込みの話を聞いて、我の口はすっかりその気分になっているのだ」


 ベルは不機嫌そうに尻尾を振ると、かまどの前に飛び乗った。

 そして、組まれた薪をジロリと睨みつける。


「どけ。王の手を煩わせるとは、万死に値するぞ」


「え?」


 私が一歩下がると、ベルは小さく口を開けた。


「灯れ」


 短い言葉と共に、彼が息を吐き出す。


 ボッ!


 小さな火球が吐き出され、薪の中心に吸い込まれた。

 瞬間、爆発するように炎が燃え上がった。

 パチパチと音を立てて、薪が赤く輝き始める。

 私は目を見開いた。


「火魔法……?」


「当然だ。我を誰だと思っている。地水火風、森羅万象を統べる暴食の王だぞ。火を起こす程度、赤子の手をひねるより容易い」


 ベルは「ふん」と鼻を鳴らし、ドヤ顔で私を見上げた。

 初耳だ。

 封印されていたくらいだから彼が魔獣なのは当然だが、まさか火属性まで操れるとは。

 黒猫の姿に騙されていたが、やはり彼はすごい魔獣なのだ。


「……すごいです、ベル! 貴方は天才猫ですね!」


「猫と言うな! だがまあ、もっと崇めてもよいぞ」


 私は彼を抱き上げようとしたが、スッと避けられた。

 ともあれ、これで最大の問題は解決した。

 私は感謝の眼差しをかまどの炎に向け、すぐに調理に取り掛かった。


 まずは鍋を熱し、殺菌を兼ねて水分を飛ばす。

 そこへ、解体した兎肉の脂身の部分を放り込む。

 ジューッ、という景気の良い音が響いた。

 白い脂身が熱で溶け出し、透明な油となって鍋底に広がっていく。

 香ばしい匂いが立ち上った。

 動物性油脂特有の、濃厚で食欲をそそる香りだ。

 これだけでも、ご馳走の予感がする。


 私は手早く香草を水洗いした。

 もちろん、魔法の水で。

 土や虫を綺麗に洗い流し、野生のニンニクは皮をむいて包丁の腹で潰す。

 タイムとローズマリーは、香りが立ちやすいように軽く揉んでおく。


 鍋からは十分な油が出ている。

 そこへ、一口大に切った兎肉を投入した。

 ジャアアアッ!

 先ほどよりも激しい音が、静かな教会内に轟く。

 肉の表面が焼ける音。それは、生への渇望を刺激する原始的な音楽だ。

 私は木べらを使って、肉を転がしながら表面に焼き色をつけていく。

 ここでしっかりと焼いておくことで、肉汁を閉じ込め、煮崩れを防ぐことができる。これは煮込み料理の鉄則だ。

 肉の表面がこんがりと狐色になったところで、潰したニンニクと香草を投入する。

 途端に、香りの爆発が起きた。

 肉の脂ぎった匂いに、清涼感のあるハーブの香りと、食欲を直撃するニンニクの香りが混ざり合う。

 複雑で、奥行きのある香り。

 ただの焼肉が、「料理」へと昇華された瞬間だった。


「ぬ……? なんだ、この匂いは」


 火をつけた後、特等席でくつろいでいたベルが、鼻をヒクヒクさせて身を乗り出した。

 彼の知る「食事」の概念にはない香りなのだろう。

 血と生肉の匂いではなく、熱と手技によって生み出された化学反応の香り。


「いい匂いでしょう? これが料理の魔法です」


 私は微笑みながら、さらに炒め合わせる。

 香りが十分に油に移ったところで、水を加える。

 もちろん、私が生成した純度百パーセントの水だ。


 ジュウウウゥ……。


 鍋の温度が一気に下がり、大量の蒸気が立ち上る。

 かまどの火力を調整し、沸騰するのを待つ。

 灰汁が浮いてきたら、丁寧にすくい取る。

 澄んだスープを作るための、地味だが重要な作業だ。

 ここからは時間との勝負、いや、時間との共演だ。

 弱火でコトコトと煮込む。

 肉が柔らかくなり、ハーブの香りがスープ全体に染み渡るのを待つ。


 私はかまどの近くにある丸太の椅子に腰を下ろした。

 ベルも私の膝の上に飛び乗り、丸くなる。

 鍋から漏れる蒸気が、ゆらゆらと天井へ昇っていく。

 パチパチという薪の爆ぜる音と、コトコトというスープの煮える音だけが、この空間を満たしている。


 ここにあるのは、ベルが獲り、私が調理をしたスープだ。


「……なぁ、コレットよ」


 不意に、膝の上のベルが口を開いた。

 まどろむような、穏やかな声だ。


「なんですか、ベル」


「人間というのは、面倒な生き物だな。食うために、これほど手間をかけるとは」


「そうですね。でも、その手間が美味しいんです」


「味の話だけではない。貴様を見ていると、野蛮な儀式のようにも見える。火を崇め、水を操り、草と肉を混ぜ合わせる錬金術のようだ」


「錬金術、ですか。あながち間違っていないかもしれません。食材を、幸福という黄金に変える術ですから」


「ふん。だが、その香りは悪くない。我の空腹中枢を刺激してくる」


 ベルは喉をゴロゴロと鳴らしながら、鍋の方をじっと見つめている。

 魔獣である彼にとって、食事とは摂取であり、補給であったはずだ。

 獲物を狩り、その場で食らう。

 そこには「味わう」という工程よりも、「満たす」という目的が優先されていただろう。

 だが、今の彼は、完成を待つ時間を楽しんでいるように見えた。


 小一時間ほど煮込んだだろうか。

 鍋の蓋を開けてみる。

 ふわっ、と濃厚な湯気が顔にかかる。

 スープの水かさは減り、少しとろみがついている。

 肉をスプーンで押してみる。

 弾力は残っているが、すっとスプーンが入る程度には柔らかくなっているようだ。

 味見。

 スプーンの先ですくった熱い液体を、ふーふーと冷ましてから口に含む。


「……ん」


 思わず声が漏れた。

 美味しい。

 素朴だが、力強い味だ。

 兎肉の野性味溢れる出汁が濃厚に出ていて、それをハーブの香りが上品にまとめている。

 ニンニクの風味が食欲をそそり、薬味が全体の味をくっきりとさせている。

 調味料などなくても、素材の力がこれほどまでに雄弁だとは。


「お待たせしました、ベル。完成ですよ」


 私は深めの陶器の皿に、肉とスープをたっぷりとよそった。

 ベル用には、猫舌であることを考慮して少し冷ましてから、平たい皿に入れてやる。

 もっとも、火を吐ける彼に猫舌という概念が通用するのかは不明だが、念のためだ。


 私たちは、礼拝堂の中央、かつて私が磨き上げた床の上に腰を下ろした。

 テーブルはないが、清潔な床の上ならピクニック気分で悪くない。

 窓から差し込む陽光が、スープの湯気を黄金色に染めている。


「さあ、どうぞ」


 私が促すと、ベルは皿の前に歩み寄り、くんくんと匂いを嗅いだ。

 警戒しているようにも、期待に震えているようにも見える。

 そして、意を決したように、ピンク色の舌を伸ばしてスープを一口舐めた。


 ピタリ。

 ベルの動きが止まった。

 金と赤の瞳が、大きく見開かれる。

 長い髭が小刻みに震えている。


「……なんだ、これは」


 呆然としたような声。


「これは、本当にあのウサギか? 我知っている味とは違う。血の味がしない!代わりに、得体の知れない旨味が……口の中で爆発しているぞ!」


「気に入りましたか?」


「うまい!なんだこの柔らかさは!噛まずともほどけるではないか!」


 ベルは興奮したように言い募ると、今度はガツガツと皿に顔を突っ込んで食べ始めた。

 ハフハフと熱そうにしながらも、食べる勢いは止まらない。

 肉を噛み切り、スープを啜り、時折「うまい、うまい」と唸り声を上げる。

 その姿は、初めておやつをもらった子猫のような愛らしさしかない。


 私も自分の皿に向かった。

 スプーンで肉とスープをすくい、口へ運ぶ。

 じわり、と旨味が広がる。

 空っぽだった胃袋に、温かい液体が染み渡っていく。

 噛み締めると、肉の繊維からジュワリとスープが溢れ出す。

 ただの煮込み料理だが、今の私にとっては、王宮で食べたどんな料理よりも贅沢に感じられた。

 なぜなら、ここには「自由」の味がするからだ。

 誰に気兼ねすることもなく、好きなように作り、好きなように食べる。

 その事実が、最高のスパイスとなって味覚を刺激する。


 堅焼きパンをスープに浸して食べる。

 石のように硬かったパンが、スープを吸って柔らかくなり、もちもちとした食感に変わる。

 パンの小麦の香りと、肉のスープの相性は抜群だ。

 止まらない。

 無言でスプーンを動かし続ける。

 静かな教会に、二人が食事をする音だけが響く。

 カチカチと食器に当たるスプーンの音。

 ベルがスープを舐める音。

 それは、とても平和で、満ち足りた音色だった。


 やがて、私の皿は空になり、ベルの皿も綺麗に舐めとられたようにピカピカになっていた。

 ベルは満足げに腹をさすりながら(猫の姿でその仕草はなんとも滑稽だったが)、ごろりと横になった。


「……認めよう、コレットよ」


 彼は天井を見上げながら、重々しく言った。


「貴様は、ただの下僕ではない。我の胃袋を掴んだ、一等料理長として遇してやる」


「それは光栄ですこと。お給金は弾んでいただけますか?」


「ふん、我の加護があるだけで十分だろう。……だが、そうだな。明日はもっと美味そうな獲物を狩ってきてやろう。鳥などはどうだ? 羽をむしるのが面倒だが、焼けば美味いぞ」


「いいですね。ローストチキンにしましょうか。また香草を探しておかないといけませんね」


「任せておけ。我の鼻にかかれば、森の草一本たりとも見逃しはせん」


 他愛のない会話。


 明日の食事の話ができるということ。

 それが、これほどまでに心を軽くするとは知らなかった。


 未来への不安がないわけではない。

 追っ手が来るかもしれないし、冬の寒さは厳しいかもしれない。

 けれど、温かいスープでお腹が満たされた今、それらの懸念は遠のいた。

 とりあえず、今日の私たちは生き延びた。

 そして明日もまた、美味しい食事にありつけるだろう。


 それだけで、十分ではないか。


 私は空になった食器を重ね、立ち上がった。

 片付けの時間だ。

 面倒だとは微塵も思わない。

 この汚れた皿は、私たちが生きた証なのだから。

 水場へ向かう私の背中に、ベルの寝息が聞こえてくる。

 早すぎる昼寝だ。食べた直後に寝ると牛になる、なんて諺があるが、彼はすでに猫だから関係ないか。


 私は小さく笑い声を漏らし、調理場へと足を向けた。

 窓の外では、午後の陽射しが森の緑を鮮やかに照らし出していた。

 私の新しい生活は、まだ始まったばかりだ。

 けれど、この湯気の向こうに見える景色は、決して悪いものではないと確信していた。


 シンクに水を張り、魔法を行使する。


 水魔法を使って、油汚れがするりと落ちていく様を眺めながら、私は次の献立を考え始めていた。

 保存してあるベリーを使って、ジャムを作るのもいいかもしれない。

 そうすれば、あの硬いパンも、デザートのように楽しめるはずだ。

 ベルは甘いものを食べるだろうか。


 「王は甘味など好まぬ」とか言いながら、口の周りを赤く染めて舐める姿が容易に想像できる。


 ふふっ、と笑みがこぼれる。

 退屈する暇などなさそうだ。

 私は洗った皿を布で拭き上げ、棚に戻した。


 カチン、と陶器が触れ合う澄んだ音が、午後の静寂に心地よく響いた。


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