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第二十七章 綺麗事の正体

領主が動いたのは、

商業ギルドの存在を

「面白い」と思ったからではなかった。


――気味が悪かったからだ。


報告書には、

数字が並んでいた。


失業者の減少。

納税額の増加。

治安の安定。


どれも、

歓迎すべき結果だ。


だが――

やり方が、妙だった。


「……儲かっていない」


領主は、

低く呟く。


商業ギルドは、

街の中心にある。


人の出入りは多い。

仕事も動いている。


だが、

私腹を肥やしている形跡がない。


「……綺麗すぎる」


それが、

一番の違和感だった。


「会おう」


領主は、

そう決めた。


褒美を与えるか。

釘を刺すか。


どちらにせよ、

本人の口から

 真意を聞く必要がある。


応接室。


豪奢ではないが、

整えられた部屋。


「……君が、

 レオンか」


「はい」


レオンは、

一礼した。


隣には、

エリザが立っている。


名を変えた少女。

だが、

立ち姿には育ちが残っていた。


「率直に聞こう」


領主は、

前置きをしなかった。


「何が目的だ」


「商業ギルド」


「儲からない」

「目立つ」

「敵を作る」


「なのに、

 やめない」


「……なぜだ」


レオンは、

少しだけ考えた。


そして、

静かに答える。


「学校を、

 作りたいからです」


部屋が、

静まり返った。


「……学校?」


「はい」


「この街には、

 ありません」


「文字を、

 読めない者が多い」


「契約を、

 理解できない」


「仕事を、

 選べない」


「だから」


「先に、

 仕事を作りました」


領主は、

目を細める。


「……なぜ、

 最初から学校を作らなかった」


「反発されます」


即答だった。


「空腹な者に、

 学びは届きません」


「仕事のない者に、

 未来は語れません」


「だから」


「順番を、

 守りました」


「……綺麗事だな」


領主は、

あえてそう言った。


試すためだ。


「はい」


レオンは、

否定しない。


「だから、

 嫌われました」


「商業ギルドも」


「代表を置かない仕組みも」


「全て」


「私が、

 嫌われるためです」


エリザが、

思わず息を呑む。


だが、

レオンは続ける。


「人は」


「希望を、

 誰かに任せると」


「必ず、

 裏切られたと感じます」


「だから」


「任せません」


「選ばせます」


長い沈黙。


領主は、

ゆっくりと息を吐いた。


「……なるほど」


「冷たい人間だと、

 聞いていた」


「はい」


「だが」


領主は、

小さく笑った。


「一番、

 人を見ている」


「褒美をやろう」


領主は、

そう告げた。


「学校用の土地を出す」


「認可も、

 こちらで整える」


「代わりに」


「責任は、

 重くなる」


「はい」


レオンは、

一礼する。


「引き受けます」


屋敷を出たあと。


エリザは、

堪えきれず言った。


「……よかったですね」


「はい」


「皆」


「分かってくれました」


レオンは、

少しだけ首を振る。


「いいえ」


「分からなくても、

 構いません」


「仕組みが、

 残れば」


「人は、

 いつか使います」


その夜。


街に、

新しい噂が流れた。


「学校ができるらしい」

「給食も出るって」

「あの冷たい奴が?」


だが、

最後にはこう続いた。


「……違ったな」

「街のこと、

 考えてたんだ」


エリザは、

それを聞いて

静かに笑った。


誇らしかった。


レオンは、

空を見上げる。


綺麗事は、

嫌われる。


だが――

綺麗事を、

 仕組みにできるなら


それは、

理想ではなくなる。


これは、

英雄の物語ではない。


世界を変える話でもない。


ただ――

世界が回り続ける余地を

 一つ、増やした男の物語だ。

第二部・完

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