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第二十六章 合法であるという強さ

変化が、

街の外に滲み出たのは――

建物を手に入れた時だった。


町の中心。


市場と役所を結ぶ通りに、

長く空いたままの建物があった。


理由は、単純だ。


古い。

中途半端な広さ。

使い道がない。


誰も、

欲しがらなかった。


「……ここ、ですか?」


エリザが、

建物を見上げる。


「はい」


レオンは、

迷わず頷いた。


「場所が、

 全てです」


目立つ。

隠れない。

逃げない。


それが、

条件だった。


交渉は、

短かった。


価格は、

安い。


理由は、

長く空いていたからだ。


「……即金で?」


売主は、

目を丸くした。


「はい」


「今日中に」


それだけで、

話は終わった。


数日後。


建物には、

札が掛かった。


商業ギルド。


それは、

宣言だった。


役割は、

倉庫でやっていたことと同じだ。


仕事の斡旋。

条件の整理。

契約の確認。


だが――

場所が違う。


誰でも、

見える。


誰でも、

入れる。


「……あそこ」


「前、

 空き家だったよな」


噂は、

一気に広がった。


エリザは、

帳面を見ながら言う。


「……中心に出したから」


「皆、

 気づきましたね」


「はい」


レオンは、

即答する。


「気づかせるために

 買いました」


隠せば、

疑われる。


出せば、

文句は来る。


だが――

後者の方が、

健全だった。


数日後。


役所に、

報告が上がる。


・町の中心部の不動産購入

・正体不明の組織名

・役所を通さない契約の増加


「……商業ギルド?」


所長は、

書類を睨んだ。


「誰の許可で……」


それが、

役所の限界だった。


呼び出しは、

即日だった。


役所の応接室。


「……君が、

 レオンか」


「はい」


向かいに座るのは、

この町の役所を預かる男。


所長だ。


「町の中心の建物を、

 購入したそうだな」


「はい」


「商業ギルドと名乗っている」


「はい」


「許可は?」


「不要です」


即答だった。


「……理由は?」


「合法だからです」


レオンは、

淡々と続ける。


「不動産購入は、

 私人間の契約です」


「商業ギルドは、

 行政組織ではありません」


「徴税権も、

 裁定権もありません」


「個人間契約の

 補助機関です」


「……税は」


「全て、

 期日通りに

 納めています」


帳面を、

机に置く。


「最低限だが……」


「法定額です」


「超過納税は、

 義務ではありません」


「むしろ」


「過剰徴収は、

 違法です」


所長は、

深く息を吐いた。


「……商業ギルドができてから」


「失業者が、

 減っている」


「はい」


「偶然か?」


「構造的な結果です」


「仕事の入口を

 整理しました」


「流通が

 止まらなくなりました」


「失敗した者が

 戻れる場所を

 作りました」


「つまり」


「今まで

 無秩序だった労働を

 可視化しただけです」


「……それは」


所長は、

低く言う。


「本来、

 役所の仕事だ」


「はい」


レオンは、

否定しない。


「ですが、

 行われていませんでした」


責める口調ではない。

事実だった。


「……権限を

 侵しているとは

 思わないのか」


「いいえ」


「行使されていない権限を

 埋めただけです」


「もし」


「役所が、

 同等以上の

 仕組みを整えるなら」


「私は、

 商業ギルドを

 解体します」


沈黙。


所長は、

言葉を失った。


それは、

挑発ではない。


完全な理屈だった。


「……結論を言おう」


「現時点で」


「商業ギルドの設立、

 建物購入、

 業務内容の全てに

 違法性はない」


敗北宣言だった。


役所を出る。


町の中心。


人の流れの中に、

商業ギルドの建物が見える。


「……本当に」


エリザが、

小さく言う。


「逃げませんでしたね」


「はい」


レオンは、

淡々と答える。


「逃げる理由が

 ありません」


合法であるという強さ。


それは、

剣でも魔法でもない。


だが――

この世界では、

最も壊しにくい力だった。

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