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1 異端審問 2 裁きの形 3 集まり始めた人々 4 見てしまった少女 5 辺境領主の判断 6 夜の牢

第一部 知識は神より速い

第五章 裁きと、集まりすぎた人々

1 異端審問


牢は、石造りだった。


元は倉庫だった建物を、

教会がそのまま使っている。


窓は高く、外は見えない。

だが、音は届く。


レオンは、座っていた。


鎖はある。

だが、

暴れる理由がなかった。


扉が開く。


黒い外套の男が、一人で入ってきた。

異端審問官だ。


「レオン・アーヴェル」


名を呼ぶ声に、感情はない。


「あなたは、

 神の秩序を乱しました」


定型文だ。


「祈りを無力化し」

「治癒を私物化し」

「人々の信仰を逸らした」


レオンは、黙って聞いていた。


「弁明はありますか」


少し考えてから、答える。


「……間に合っただけです」


審問官の眉が、わずかに動く。


「それは、

 神の御心を否定する言葉だ」


「否定していません」


レオンは淡々と続ける。


「ただ、

 遅れれば死ぬことを知っているだけです」


沈黙。


「その知識は、どこから来た?」


「分かりません」


正直だった。


「だが、

 再現できます」


その一言で、

審問官の中の判断が固まった。


「……危険だ」


それが、結論だった。


2 裁きの形


「裁きは、

 日の出と共に下されます」


処刑ではない。


「思想の隔離です」


生涯、

外に出られない。


それが意味するところを、

レオンは理解していた。


「質問は?」


「一つだけ」


レオンは言った。


「……病は、どうなりますか」


審問官は、即答した。


「祈りは続きます」


それで、十分だった。


審問官は立ち上がり、

扉へ向かう。


閉まる直前、

こう言った。


「あなたは、

 神ではない」


「だが――

 神より信じられてしまった」


それが、

最も重い罪だった。


3 集まり始めた人々


外が、騒がしい。


最初は、足音だった。

次に、声。


怒号ではない。

祈りでもない。


ただ、人が集まっている。


「……あの人は、神さまじゃない」


誰かが言う。


「でも、助けてくれた」


別の声。


「裁くなら、理由を聞け」


誰も、扉を叩かない。

誰も、暴れない。


それでも、

離れない。


その沈黙が、

教会にとって一番厄介だった。


レオンは、壁に背を預ける。


人々が、

自分のために集まっている。


その事実が、

少しだけ、重かった。


4 見てしまった少女


城の高い窓から、

エリザベートは見ていた。


牢の前に、

灯りが増えていく。


叫びはない。

だが、消えない。


「……どうしようもない」


そう呟いた。


祈りでは止まらない。

命令でも、散らない。


彼らは、

見てしまったのだ。


祈りが間に合わなかった現実を。

レオンが間に合わせた現実を。


エリザベートは、

父のもとへ向かった。


5 辺境領主の判断


執務室で、

領主は黙って話を聞いた。


最後まで、遮らなかった。


「……私にできることは少ない」


辺境の領主だ。

教会には逆らえない。


だが――

考えることはできた。


「レオンは、神ではない」


領主は、静かに言った。


「だが、

 この時代の人間では、

 思いつかない発想をする」


「そんな人間を、

 ここで失うのは……」


言葉を切る。


「……損だ」


エリザベートは、息を呑んだ。


「父上……」


「情ではない」


領主は言い切った。


「領地のためだ」

「この世界のためでもある」


机の引き出しから、

古い地図を取り出す。


廃水路。

倉庫跡。

抜け道。


「裁きには、手続きがいる」


「時間が要る」


「その間に――

 動かす」


エリザベートは、

ゆっくり頷いた。


「……私も行きます」


「目立つな」


「はい」


6 夜の牢


夜。


牢の前に、

さらに人が集まった。


灯りが揺れる。


レオンは、

その気配を感じていた。


「……集まりすぎたな」


小さく呟く。


教会側も、気づいている。

このまま裁けば、

何が起きるか分からない。


その時、

壁の奥で、石がずれる音がした。


レオンは、顔を上げる。


まだ、

裁きは下っていない。


だが――

動き始めている。

第五章 了

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