65話目:失われた王と浄化魔法(ごり押し)
「お願いします助けてください!」
かつて俺がやられた時と同じ言葉で、しかしあの時と違って二倍の速度!
さらに三倍の回転を加えた土下座でエメトを上回る土下座を披露した。
問題は勢いがつきすぎて足の間にフィットしてしまったことだろう。
まだワンアウトだ、まだ二回までアウトは許されるはずだ。
いやスリーアウトでチェンジだからあと一回しかアウトは許されない。
そしてこのまま頭を上げたらダブルプレーになることだけは確かだ!
「分かりました」
「ああ、突然こんなこと言っても意味が分からないと思う! でも、ひとまず俺の話を聞いてほしいんだ!」
「問題ありません」
「問題あるに決まってんだろ! 聞けっつってんだよ!」
俺がこいつのこと苦手な理由が分かったかもしれん!
唯々諾々と人の言う事に追従する人形っぽいんだ!
俺ぁ人とコミュニケーションとりてぇんだ!
人形相手のお喋りごっこじゃねぇんだよ!
「人の話を聞け! 自我と自意識を持って考えてくれ! 頼むから!」
ちなみに俺は全力で土下座中なので、まわりから見たら土下座されてるエメトが、土下座してる俺に叱られてるという意味不明な構図になってる。
「分かりました。では、話を聞きます」
これはこれで命令を聞いてる感じがするが、そこまで考えてたらキリがないので無視して説明した。
まぁ簡単に神様関連を調べる為にダンジョンのRTAしようぜという話だ。
「はい、分かりました。協力いたします」
「ほんとに分かってる!? 下手すると人格改変の催眠洗脳でアヘアヘモード突入よ!?」
「それはよく分かりませんが、手伝います」
話した意味あんのかなぁと思いながらも、これ以上ここでグダグダ話してても埒が明かない。
さっさとダンジョンに潜る為に行くべや!
「それと、一つ訂正を」
急に背中から声をかけられ、足を止める。
「ヒビキ様が必死に頭を下げた時点で、それが誰かの為だということくらいは、私でも考えられます」
…………
……………………
………………………………
そうして突如として<ドキッ!神様と出会えるまで耐久ダンジョンアタックRTA!>が始まった。
とにかく入ってエメトが何も感じなければ脱出してもらうという流れだ。
俺?
足手まといだからその場で自害して先に戻って消耗品の補充よ。
とにかく数をこなすことが目的なので、俺にかまって疲労させるわけにはいかん。
本当にいいのかって聞かれたけど、全然大丈夫。
ってか無駄死にしまくってた時に比べれば全然楽だし。
マジで自害と時間の無駄だったしね!
フゥーッハッハッハァー!
笑えねぇのよチクショウめ!
「っ! 感じます……恐らく、ここに目的となるものがいるかと」
そんなこんなで二十回くらいのガチャでようやく当たりを引けた。
問題は当てたモノの厄レアリティがどれくらいか分からないことか。
今だけはSSRを引かないことを祈りながら、ダンジョンを探索していく。
そしてあまりにも無造作に、そして突然に見つけてしまった―――――徘徊老人を!
強そうオーラとか感じない!
ここがダンジョンじゃなかったら本当に浮浪者とかそういうのじゃないかって思うくらい不自然なお爺ちゃん!
こちらが見つけたのと同時にあちらも見つけたようで、目が合った。
「……ぷっ」
「あん?」
「ハハハハハ! ワァーッハハハハハ! ガッハッハッハッハァ!」
よく分からんけど指さされて笑われてる。
無性に腹が立つのでミラーリングで反撃だ!
「ゲヒャヒャヒャ! ウーッヒッヒッヒ! イヒヒヒヒ!」
「ヒョホホホホ! ハヒーッヒッヒッヒッ! ゲラゲラゲラ!」
お互いがお互いを指さして爆笑する。
顔を取り繕うどころか変顔になるくらいに笑い転げて、互いが互いを笑い合う。
傍から見たらイカレてるとしか思えないな!
「ウホホホホ! ウホッホッホッホ! ウホウホー!」
「いや待て、それはゴリラじゃろ?」
「はい先にツッコんだー! 俺の勝ち」
しばしの沈黙、そして―――――
「で、おっちゃん誰さ」
「……ワシにも分からん」
「ほんとに徘徊ボケ老人かよ!」
ヤベー<遭難者>かと思ったら、頭がヤベー<遭難者>だったというオチだ。
まぁでも普通に事故って<遭難者>になる人もいるだろうし、皆が皆ヤベーわけじゃないか。
まぁこのおっちゃんは記憶トンじゃってるみたいだけど。
取りあえず安全そうなので後ろを向く。
エメトが跪いていた。
必死に抗おうと身体を震わせているが、まったく動かないようであった。
「おぉ、スマンな幼子。<楽にしていいぞ>」
その言葉で解放されたかのように、エメトが地面に手をつきうなだれる。
「えっ、ちょっ……大丈夫なんか!? あれかやっぱ催眠とかそういう系のやつなんか!?」
「分かりません。ただ……あの御方を見た瞬間、平伏しなければという意識に支配されてしまい……」
なにそれ俺全然効かなかったんだけど。
あれか、異世界人には効かないとかそういうやつか?
「おっちゃん、ほんとに何者なのさ」
「うむ……名前は思い出せんが、立場ならまだ覚えとる。<消失時代>最後の王であり、神になり損ねた愚か者だ」
おっちゃんのボロボロの記憶からの推察になるが、どうやら相当偉い人だったらしい。
偉いというか存在の質量?というものが桁違いで、それこそ神に匹敵するモノだったとか。
そのせいで、見た者はそれに圧倒……というか押しつぶされそうになって、結果的に跪くそうな。
「なんで俺は平気だったん?」
「ゴリラだからじゃろう」
「マジかよ、ゴリラってやっぱスゲーな」
もしかしたらウチの両親のどっちかにゴリラが混ざってたのかもしれない。
もしくは天然のゴリラ成分が配合されてた可能性も否定できない。
真実はいつも暗闇の中なので、考えないようにしよう。
「……で、ウチのクラスメイトとか学園の皆がヤベーんだけど、責任とってくれる?」
「ん~、責任と言われてもな。ワシ関係ない気がするぞ」
「…………は?」
「先ほども言ったが、ワシを見てしまった者は跪いてしまう。そのせいでワシのことが見えない。結果、無名の神だと勘違いされたわけだが……それだけだ。他の現象には関与しとらん」
じゃあアレは何なんだよ!?
意味が分からんぞ!
というか手がかりを求めてわざわざここまで死んだのに、何の成果も得られませんでしたは流石にキレそう!
「まぁ落ち着け。乱雑に組み立てられた数式から求める解を得られなかった。だが、いま手に入れた解を求める数式を抜けば、そこから本当の解が導けるはずだ」
意味が分からん!
分からんが、考えないことには先には進めない。
確か思わず膝をつく人もいれば、目を奪われてしまっていつの間にかダンジョンの外に出てた人もいたとか。
そんで膝をつくのはこのおっちゃんのせいで、何の影響もないから無症状の人はこっち。
そんで、この勝手にダンジョンに出てた人にだけおかしな症状が出ていた……って、コト!?
「不可思議な状況が連鎖したせいで同じモノだと考えてたけど、実は別モノだったってことかよ!」
「他にも何か違和感があったりせんか?」
「あ~……そういえばホルンとエトルリア先生も同じ症状に……待てよ? 二人ともダンジョン潜ってねぇぞ!?」
なのになんで同じ症状出てんだよ!
これじゃあまるで――――――。
「ウィルスじゃん! どんどん感染するじゃん! ダンジョン潜らなくても広がるじゃん!」
アカン!
学園閉鎖しないと全滅するぅ!
みんな頭がハッピーになって埋め尽くしてどっか行くことになる!
「ダンジョンにはワシのように神に成り損なった者、追放された神もいる。そして必死に戻ろうとする。しかし可能性の海から出るには、確実性が必要になる」
「あぁ、なんか<時間簒奪者>のアレコレで聞いた気がするかも」
「今回の手口、一つ心当たりがある。要は外の人間に大いなる存在……己がいることを信じさせ、依存させ、祈らせ……<ソコにいる>と大勢に確信させることで、顕現しようとする神だ」
「はた迷惑にもほどがある! やってること完全に邪神召還の儀式のソレじゃん!」
「うむ。だから追放されたわけだな」
しかしなるほど、つまりそいつをどうにかすればいいってことか!
「……で、どうしたらいいっすかね? そいつ倒すとか? 倒せそう?」
「無理だな。そもそも会えるかどうかも怪しい」
詰みじゃねぇかよ!
というか学園最強戦力が骨抜き状態でどうしようもねぇよ!
この異世界はもう終わりです。
別の世界でまたお会いしましょう。
「って諦められるか! ウィルスなら特効薬とかそういうので何とかなんない!?」
「厳密にウィルスというわけではない。小さな不純物のような洗脳装置が魂の隙間に入り込み、寄生しているようなものだ。しかも空気感染もする」
「クソの邪神がよォ!」
頼むから過去の中でじっとしててくれよ!
こっちを巻き込まないでくれ!
「別の神……輝けるノスフェルならば不純物ごと灼けるかもしれんが、恐らく心が灼かれた者はノスフェルに心酔するであろうな」
「神様ってそんなパワープレイしかできないの!? 俺よりゴリラじゃん!」
そこでふと、思いついたことがあった。
神様よりも遥かに無慈悲なゴリ押し解決法。
成功したらヨシ!
失敗したら……特になにもない、振出しに戻るだけ。
ただし、成否を問わず約一名の胃を犠牲にすることになる。
でも、たった一人の犠牲で大勢が助かるならやってみる価値がありますぜ!
「ヨシ、なんとかしてくる! ありがとオッチャン!」
「ん? おぉ、またな」
そうして過去の王様と別れ、すぐさまダンジョン外へと脱出。
そして学園長室に突撃敢行!
「詳しい説明は省くがアレは病気だ! <消失時代>よりも前の王様の助言から、なんとかする方法を聞いてきた!」
「―――――はい?」
というわけで学園長を拉致しつつ思い付きの作戦を説明し、無理やり同意してもらった。
学園長が準備している間、実験台になってもらうトゥラちゃまとホルンを確保。
ダンジョンの広間に連れてきて着替え……を俺がさせるとアウトどころか一発で流血のレッドカードが叩きつけられるので、エメトに任せておく。
そして全ての準備を整え、俺は実験台となる二人を突き出した――――――異世界への扉、つまり俺の世界へと。
王様が言うにはウィルスというよりも洗脳装置。
つまり無機物……ならこれで無理やり除去できるよな、という次第である。
というわけで結果を見に元の世界へ帰還!
案の定、自衛隊の人達が困惑してる。
そして俺の顔を見てまたかって顔をしてる。
うん、またなんだ、すまない。
仏の顔も三度までって言うけど、謝って許してもらおうとは思わない。
でも俺の顔を見た時、きっと山谷さんは言葉では言い表せないストレスを感じてくれると思う。
殺伐とした世界の中で、そういうこともあるんだってことを忘れないでほしいんだ。
じゃあ、自衛隊さんは無視してポカンとしてる二人に問診しよう。
「二人とも大丈夫? まだキマってたりする? 世界の真実に気が付いて、大きな存在に依存するのが正解だって感じてる?」
しばらく無言だったが、すぐに二人ともうずくまってしまった。
「うわあああ! 恥ずかしい~! ボク、なんであんなことしてたの!? ワケが分からないよ!」
「わわわ、忘れてください! あの時はなんだか変な気分で、おかしなことを考えてしまってただけでして……!」
治療完了、ヨシ!
予後観察もあるけど、ひとまずこれで解決できそう!
というわけで、ゲートの向こう側にいる学園長に言って患者をこっちに連れてくることになった。
まだ平気な人も、もしかしたら発症するかもってことで文字通り全員の大移動である。
ちなみにヨーゼフパイセンは異世界に興味津々なのか、外に出ようとして、レヴィ先輩と自衛隊の人に止められてる。
あの人、マジで好奇心に足どころか翼が生えたような人だな。
ざっと見まわった感じ、おかしい人はいなさそうだ。
むしろ俺がおかしな奴みたいな目で見られてる。
まったく、照れるじゃねぇかよ。
とかやってたら、遠くから山谷さんがやってきた。
「音無 響くん? ちょっとこれについて説明してもらいたいんだが、いいかな?」
「ええ、任せてください! 完璧な回答を用意しておきました!」
そう言って俺は山谷さんの手をひき、学園長のところへやってきた。
「あぁ、ヒビキくん。あなたのおかげでなんとかなったようです。それで、事の詳細についてお聞きしたいのですが……そちらの方は、ヤマタニさん?」
どうやら顔見知りらしい。
それもそうか、留学先の代表者なんだからこっちの窓口と顔合わせくらいするか。
俺はそっと二人の手を握り……二人で握手をさせた。
「じゃあ……あとは若い二人に任せて、ごゆっくりと」
「――――――へ?」
俺は演奏バフ込みで全力でその場から逃げ出した!
「いや、逃がしませんからね!」
しかし学園長に捕まった!
チクショウ、この人やっぱりツエーよ!
「とにかく事の経緯やらなにやらを説明して頂かないと困ります」
「うむ。こちらもいきなり大勢の学園生が来て、どう対応すべきか分からない。キミも話し合いに参加してもらおうか」
そうして初めて発見された宇宙人のように、ズルズルと引っ張られてしまった。
「いやだー! いやだー! だれか、たすけてー!」
必死に助けを呼んだ。
しかし誰も来てくれなかった。
しかし、エメトだけは来てくれた!
俺はお前を信じてたぞ!
「足、お持ちしますね」
「この! 裏切者めがぁ!!」




