64話目:神域汚染
学園長からの頼みは簡単だ。
とにかくその神様の情報を集めるというだけ。
ぶっ殺せとか生け捕りにしろとかじゃないので、俺でもできるというやつだ。
取りあえず同学年から調べて、それから上級生の目撃情報などをノートにとる。
レベルが高いほど遭遇率が高い気がするが、誤差な気もする。
他にも姿を見てない、覚えてないらしい。
思わず膝をついてしまった人もいれば、目を奪われてしまっていつの間にかダンジョンの外に出てた人とか。
あと一部の人がすっげぇキマってて怖い。
真実に目覚めたとか、足りない何かが埋まったとか。
なんかおかしな精神汚染でも広まってるんじゃないかと疑ったくらいだ。
俺の予想だと、なんかスゲー<遭難者>だと思う。
夏休みの時に出やがった<時間簒奪者>とか神様に直接追放されたらしいから、なんか不思議パワー持ってるんだろうなって。
あ、ちなみに学園長からの頼みは断った。
おかしな宗教とか神様からは距離を取る様にって小学校で言われてた気がするし。
じゃあなんで調べてたかって?
怖いからだよ!
ある日、森の中で、神様に出会ったら、困るだろう!
まぁ一週間かけて調べた情報は渡したし、義理は果たしたと思う。
というか神様がどうとか俺の学園生活に関係ねえ!
俺は俺の青春を謳歌するぞー!
というわけで、今日はトゥラちゃまと他メンバーと一緒にダンジョンに潜る約束をしていた。
「やっほー、ヒビキー! 元気だったー? ボクはねー、なんか神様にあってから、すっごい調子がいいんだー!」
俺は頭を抱えた。
ちょっと目を離した隙にコレだよ!!
「トゥラちゃま? お薬キメてるの? それとも徹夜? テンションおかしいよ?」
「いや、何もおかしくないってば! むしろ今までがおかしかったんだよ! どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろうなー?」
ダメだ、おかしな宗教とか陰謀論に染まった感じになってる。
マジで強制洗脳とか催眠アプリの線が強くなってきたぞ。
「トゥラちゃま、今日のダンジョンは無し! 部屋でゆっくり休むこと!」
「え~! こんなにいい気分なのに、勿体ないよ?」
そう言ってこちらに身体をスリスリしてきた!?
アカン、完全に理性とかがトんじまってる状態だ!
「えぇい、名残惜しいがホルン! あとは頼んだ!」
「え? ええっ!? た、頼まれても、ワタシはどうしたら!?」
「適当にベッドに放り込んでふんじばっておいて! 俺ぁ学園長のところ行ってくる!」
返事も聞かず、そのまま学園長室へと飛び込み直訴する。
「学園長! あれヤバイ! ヤバイっす! ウチのトゥラちゃまもおかしくなっちゃった!」
「あぁ、やはり……被害が徐々に拡大しているようですね。思ったよりも深刻な状態のようです」
そう言って学園長が指さした先には、エトルリア先生がいた。
俺が乱入してきたというに、一切の反応がない。
「エトルリア先生にも調査をお願いしたのですが、いつの間にかこうなってまして……正直、どうしたものかと」
「ええええぇぇぇ!? 無敵の耐性でなんとかしてくださいよォ!!」
必死にエトルリア先生の肩を揺するも、全く反応がない。
たぶん今ならスカートをめくっても無反応のはずだが、学園長が見てるし止めておく。
「いや、ほんとに困りました。分校の方は無事なようですが、いつあちらにも被害が出てもおかしくなりません。とにかく、本国の方へと早急に連絡をとらねば。もしかしたら無名の神との戦争になる可能性もあります、ヒビキくんも注意してください」
「注意と言われましてもねぇ……そうだ。あれから分かった情報とかあったら教えてもらえませんか?」
「構いませんよ。こちらにまとめたノートの写しがありますので、どうぞ」
そうして学園長からノートを貰い、食堂で読み込む。
予兆:ダンジョンに入った時点で何か大きな存在がいることを感じる
症状:無症状の者もいれば、性格が豹変する者、無気力になる者などバラバラである
予測1:神という莫大な存在を直視したことで、心や器が耐え切れずヒビが入ってしまった可能性
予測2:神という膨大存在から発せられる色か力による汚染の可能性
そして原因となる神についての情報は一切不明。
基本、神は現存して崇められているか、世界に浸透したか、旅立ったとされている。
しかしそれならば、姿を見た者はその神の名前が分かるはず。
だが誰も分からないということは無名ということ。
誰からも観測されていなかった新たな神か、別世界の神が迷い込んだ可能性があるということ。
対策としては現存する神を頼ること。
もしくは原因となった神を排除すること。
しかし、後者は確実に解決するとは限らない為、最後の手段とする。
ノートを閉じて、大きく息を吐く。
うん、俺にやれることねぇや!
文字通り、あとは神頼みというやつだ。
そうと決まったら休もう。
ダンジョンに入るのはまた今度にして、今度の試験の勉強でもしてよう。
それがいい。
そうと決まればホルンにも教えておかないとな。
「あ、ヒビキ! ワタシ、ようやくわかったんです! 生きるが大変なんじゃなくて、ワタシが大変な生き方をしてるだけでした! 自分というものが不安定なら、もっと大きなモノに寄り添えばよかったんですよ!」
お前もか、ブルータス……!
俺は再び頭を抱えた。
やばいこれもう無関係なフリとかしてる場合じゃない。
どげんかせんといかん!
とにかく少しでも新しい情報が必要だ。
確かノートには予兆として、ダンジョンに入った時点で何かを感じるとあった。
普通ならその当たりを引くまで何度もダンジョンに入っては出口を探すという作業が必要だが、俺だけは例外である。
そう! ダンジョンに入った時点でハズレだったら自害して戻ればスグにダンジョンに入れる!
無限ガチャ編の始まりだァ!
ということで早速ダンジョンに入って、何もなかったら自害する。
何度もやって飽きたら別ダンジョンに入って自害する。
それでもダメなら乱数調整の為に入る前にスクワットしたり道具の順番を並び替えてから入って自害する。
そうして数時間が経過し……あることを思い出した。
俺がクソ鈍感だってことをエトルリア先生が言ってたわ。
それこそ目の前で殺気を放たれても気付かないレベルで。
つまり先ほどまでの自害と時間は全て無駄だったというわけだ!
アッハッハッハ!
「くたばれゴミクズがよぉ!!」
取りあえず八つ当たりで<ダンジョンの挿枝>を叩きつける。
もちろん何も起こらなかった。
こうなるとパーティーで攻略しないといけないけど、トゥラちゃまもホルンもイカレちまってる。
ヨグさんを誘う手もあるけど、あの子、足遅いのよね。
というか後衛二人じゃどうにもならん。
一人だけ……一人だけこういう時にピッタリな奴がいることを思い出した。
レベルが高くて、少数でも頼りになって、俺の言う事ならなんでも聞きそうで、俺が死ぬほど苦手な奴。
俺は恥を忍んで、全裸土下座も視野に入れてエメトの元へと向かった。




