63話目:リストラ寸前からの神頼み
夏休み明け……クラスの女子と二人きり……何も起きないはずもなく……。
出てきた触手型モンスターに……≪ドルイド≫のエメトが……一方的な虐殺を繰り広げてる……。
いやまぁ触手は別に好きってほどでもないからいいんだけどさ。
それでもちょっとくらいは粘ってほしかった。
あぁ、粘り気がほしいならスライム系の敵がいいか。
そう思ってたら本当に液状みたいな敵が出てきてガッツポーズ!
一秒後に爆発して弾けた。
無常にもほどがある。
というか俺、何もしてない。
出てくる敵は≪ドルイド≫のエメトが一人で殲滅してるし。
俺? 俺は透視できる曲で罠みつけたりバフかけてるだけ。
ぶっちゃけ要らない子です。
あとダンジョンに潜ってるのに一言も喋ってない。
すっごく気まずい。
もうちょっとコミュニケーション取ろうぜ?
あ、一番ヒマそうな俺から話しかけろってことっすか、そうっすか。
じゃあどんな話題になっても知らねぇからな!
「あ~……天気、いいっすねぇ~……」
「……そうですね」
「ツッコめよ! ここダンジョンだよ!? 外見えるダンジョンもあるけど、ここ砂の迷路よ!?」
「私の読んだ本では、相手の言うことを最初に否定してはいけないと……」
「そんなん時と場合によるわ! 上っ面だけの会話でいいならそれでいいけどさぁ!!」
アカン、こいつ相手だとボケが機能しない。
会話デッキ見せてもらったら、天気と好きな食べ物と株価の話しかないんじゃねぇか?
「うん、もうちょいそっちに寄せることにする。そういえばイェルカってどんな意味なん?」
瞬間、ものすごい目で見られた。
「その名前をどこで?」
「ウチの世界で! なんかダンジョンに巻き込まれて! 流れで攻略するパーティーに無理やり入れられました!」
「……大変でしたね」
「ねぎらいの言葉、もうちょい良いのなかったん?」
コイツに期待しすぎてもイカンか、これで良しとしとこう。
「イェルカというのは緑を示します。我ら≪ドルイド≫において色を冠する家名は五つあり、その名前一つでも全ての≪ドルイド≫が従うほど強力なものです」
「それ、内部で対立したらどうなんの?」
「分かりません。そういったことは今まで一度もなかったので」
なにそれめっちゃ怖い。
対立したけど粛清してナイナイしたとかありそうなんだけど。
「イェルカで<探索者>候補となれば、テクマでしょうか。努力家で成績も良く、一人で分校に留学するほど優秀な方です」
「そういやリーダーっぽいことやってたし、ツッコミのキレもあったから本当に優秀なのか」
今からでもトレードできないかしら。
というか本当に≪ドルイド≫なのだろうか?
実は他の血が混ざってるとかない?
たぶん地雷とかタブーっぽいから聞かないけど。
「あっちはコミュ力高そうなんだよな。それに比べてこっちは……もしかして、黙ってても周囲が勝手にやってくれてたから喋らなくなった? もしくは、小さい頃に余計なこと言って叱られたから黙ってる方が楽とか思ってたり?」
「……表層心理を読む術を持っていましたか?」
図星かよコイツ!
だから一人で完結してたり意見交換みたいのがないんだよ!
「人とのコミュニケーションなんて失敗してなんぼなんだよ! そうやって学ぶんだよ! 俺を見てみろ、失敗どころか爆発炎上で大変なことになってんぞ!」
「あれを見ていては、真似をしたくないと思いますが」
「それは……そう」
どうしよう、俺自身が反証の証拠になっちまってる。
でも謝らない、謝ったら負けだから。
というわけで全力で話を逸らす!
「あっ、そういえばさぁ! そっちの家名ってなんなの!?」
「言えません」
「いや、別にね? 悪用しようってわけじゃなくてね? ちょっとした雑談としてね?」
「……言えないのです」
その口調と、表情……どうやら踏んじまったみてぇだな……地雷をよォ……!
だが! この俺が! 何度こんな失敗してきたと思う!?
これを回避する方法も学習済みヨォォオオオオ!!
「秘儀、自死!」
「えっ――――――」
何か止められる前に、ナイフで自分を突き刺す。
回復される前に死亡してダンジョン脱出!
超エキサイティング!
ふぅ……俺の突然の自殺でさっきの話題は忘れてるはずだ。
二度と虎の尾というかティガー戦車の尻尾を踏まないようにしよう。
「ヒビキ……お前、帰ってくるのが早すぎんか?」
「ちょっと地雷があったもんで」
しかも透視してても見えねぇのよ。
マジで対人関係は複雑怪奇。
「ちなみにエトルリア先生、エメトの家名について知ってる?」
「残念だが秘密だ。というか、≪ドルイド≫の五色も知らんであろう?」
「白が256色あることは知ってます」
「なんじゃ、知っとるではないか。エメトの奴も大変でなぁ、もう少しフォローしてやってくれ」
「……ん? どゆこと?」
「じゃから、エメトは特別な白の家名である―――――待て、その反応……知らんかったのか!?」
俺は一生懸命に首を横に振る。
脊椎反射で喋ってたことの弊害がここに来てギロチンもってやってきた。
「すみません、戻りました。ヒビキ様、どうして急に自殺を……二人とも、どうされました?」
とかやってたら話題の張本人もやってきやがった!
「僕ちゃん何もしらにゃい!!」
「うむ! ワエ様も何も言っとらんからな!」
必死に誤魔化そうとしたけど、あっちは首を傾げて不審がってる!
こういう時はラブコメ主人公みたいに察しが悪くなるとか難聴になってて聞こえなかったとかしてくれよ!
えぇい、こうなりゃヤケだ!
正面衝突でゴリ押すしかねぇ!!
「おめーの家名が何だろうと! 俺には何も関係ねえ、ただのエメトだ! 特別扱いしねぇからな!」
「はい、よろしくお願い致します」
そう言って、深々と頭を下げられた。
……意味が分からん!
適当に煽って殴り合い……もといレベル差で一方的にボコられてガス抜きしようと思ったのに、予想と全然違う反応が返ってきたんだけど!?
怖い! 怖いよぉ! 何も分からないのが怖いのよぉ!!
そして翌日……信じられない出来事が起きてしまった。
それはダンジョンに潜ろうとしていた朝の出来事だった……。
「ヒビキ~! エメトも一緒に来るってさ~!」
「ダメです! 元居たところに帰してきなさい!」
トゥラちゃま含め、いつものパーティーにしれっとエメトが入ってきた。
「なんでダメなの? 強いしいいじゃん」
「アタイ四人パーティーじゃないとダメなの! アレルギーなの!」
「じゃあヒビキ外すかぁ」
「どうしてそんなヒドイこと言うの!?」
なんだよ俺が役立たずだってのか!?
女の人っていつもそう!
正論で反論を封じられた人のことなんだと思ってるんですか!?
……お荷物か、そりゃ仕方ないな。
って、諦めてたまるかぁ!
「そもそも! なんで! コイツがいるんだよ!」
「かつて同胞のムグを助けて頂きましたので、お役に立とうかと」
「そのせいで役立たずの俺がパーティーから追放されそうなんだけど!?」
ここからラノベの導入部分が始まって長文タイトルになったりするんか!?
そこからアニメ化したり映画化したりアプリゲーになったりしちゃって!?
……あるわけないか、正気に戻ろう。
「というかホルンとヨグさんはそれでいいの!? 知らない子がいきなりきたら怖くない!?」
「えっとぉ……夏休み前に一緒にダンジョンを潜ったわけですし、知らない仲というわけでは……」
いかん、ホルンどころかヨグさんも頷いてて肯定してる。
このままじゃ俺の最後の居場所まで奪われてしまう!
「ヒビキ様はレベルも十分ありますし、寮で休まれていても構いませんが。戦利品などはあとでお届けいたします」
「俺にニートになれってかぁ!?」
そいつは……そいつぁなんて素晴らしいんだ!
何もしなくても金が入ってくる不労所得って言葉、響だいすき!
問題は、ここで頷いたら女子三人からめっちゃ軽蔑の目で見られるってところか。
なんなら今も三人が固まって小声で「ヒモ……?」とか言ってるの聞こえてるし。
いいかい、ヒモは女の子を幸せにしてその対価として養ってもらうんだ。
俺はその幸せすらプライスレスだからヒモにもなれないんだ。
「もういい! 分かった! 五人パーティーでいい! 儲けは少なくなるけどそこは我慢しろよ!」
それを聞いた女子組がハイタッチをする。
なんなら戸惑ってるエメト相手にもハイタッチしてる。
俺にもしてくれるかもって思って構えてたら、トゥラちゃまが手を上げた止まっていた。
時間停止モノの撮影でも始まった?
「失礼。ヒビキくん、少しいいかな?」
「あっ、学園長。俺まだ犯罪になるようなことはバレてないですよ!?」
「そこはやってないって言ってほしかったかな……」
面接の時にいじりまわしてた人である。
あのあと学園長だと知って、もっと爆発しとけばよかったと後悔したりしなかったり。
「それにしても珍しいですね。どうしたんですか? ヒビキならもうダンジョンに行きましたけど」
「それだとここにいるキミが何なのかな……?」
「質量と存在感と心優しさが溢れる残像です」
「残像で形容する言葉じゃないね……。なんにせよ、ちょっと話いいかな」
「別にいいっすけど、何かあったんすか?」
「……ヒビキくん。神様って、信じてるかい?」
俺は全力で逃げた!
しかし、圧倒的なフィジカルで追いつかれて捕まった。
「イヤー! カルト宗教のお誘いはヤメテー! 教育委員会に報告するわよー!?」
「いやいや、そういうのじゃないよ。ちょっとしたクエストを頼もうとね?」
「そうやって最初は簡単なことをやらせて、どんどんズブズブに沈めていくんでしょ!? ニュースでいっぱい見た!」
クソッ、この人はわりと常識人だからいくらでもイジっていいって思ってたのに!
人の内面ってどうしてこんなに複雑怪奇の奇々怪々なの!?
アタイもう何も信じられない!
少年漫画の勝率1%くらい信じられない!
「いやね、最近よく報告があるんだよ。存在するはずのない……無名の神様を見たっていう報告がね」




