62話目:トップギア二学期
夏休みが終わり、遂に二学期を迎えた。
おかしいな……一学期で死ぬほど疲れて、夏休みでも死ぬほど疲れて休めてない気がするんだけど?
いや、ゴージャスなホテルに泊まったり飯食ったりはしたよ?
でもあれ休まらねぇのよ心が。
他にも何処にでも連れてってくれるとかいってたけど、あの誘いに乗ってたら絶対にロクでもないところに連れてかれたよアレ。
なんなら今も俺を連れてこうと画策してんじゃねぇのかな。
おとーさん! おとーさん! 政治家が僕を連れて行こうとする!
アカン、この歌だと俺死ぬやん。
でもあれって息子を連れていく歌だよな?
じゃあ女の子になれば大丈夫だ!
ダンジョンで女の子になれるアイテムとかないかな?
そしたら適当なクラスの男子に使ってメス堕ちさせてやるのに。
「というわけでエトルリア先生! 俺の夏休みだけヘヴィーだったんでロスタイムほしいんですけど!」
「どういうワケかは知らんが、そんなものはない」
ダメだった、残念。
まぁ俺だけ夏休みセカンドシーズンとか来ても、それはそれで授業とかレベルに遅れが出るから仕方ないか。
そんなこんなで、先ずは夏休みに錆取りとしてレベルの低いダンジョンに向かうことになったのだが―――――
「エトルリア先生! イジメです!」
「いや、お前相手にイジメをできるほど狂ったやつはおらんだろう」
「でも! 誰もパーティーに入れてくれないんです!」
夏休みに巻き込まれた<忌み枝>のダンジョンを攻略したせいか、俺のレベルだけ異様に高くなっていた。
それにより<レベル制限>が引っかかり、クラスメイト達が肩慣らしに向かうダンジョンに入れなくなったのだ。
まぁ本格攻略するなら? むしろ俺のみたいに? レベル高い方が誘われるけどねぇ!!
……いや、いくらレベル高くても吟遊詩人は要らんか。
なんか悲しくなってきたゾ。
「別に他のパーティーに入れずとも一人で入ればよかろう」
「やだやだやだ! 寂しいのやだ! 誰かと一緒じゃないとやだ!」
実際は一人だとクソ雑魚ナメクジだからである。
せめて文明の利器、銃があればなぁ……あっちで手に入れたやつ没収されちゃったしなぁ……。
というか<探索者>の装備品を没収するってどういう了見だよ!
そういう法律でもあるのかよ!?
あったわ、銃刀法違反。
今から銃の方だけ脱法させてくれ、刀は使わないから。
美術品の刀の方がまだ脱法できそうなんだよな。
待てよ?
銃の方も美術品ってことにすればワンチャンあるんじゃねぇか!?
「エトルリア先生! 銃がほしいです!」
「……これを見て、同じことを言えるか?」
エトルリア先生が見せてきた紙には、ちょっとよく分からない数字の羅列が並べられていた。
「なんすか? 数字パズル?」
「銃の値段である。ちなみに弾もバカみたいに高いからな」
「ハァ!? なにやったらこんな値段になるんすか!? ミスリルハンドガンとか、オリハルコンショットガンとか!?」
「素材と技術料で二割か三割。残りはパテント料である」
パテント、つまり特許、特許権。
「ちょっと法外すぎねぇそのお値段!?」
「銃一つに使われるパーツごとにパテントが発生するからのぅ。しかもパテントを持っとるやつらが別々なのが性質が悪い」
全員が100の値段なら平等だ。
だが実際には部品によって作るのが難しかったり素材の比率が違ったりで重要度が違う。
そこで誰かが110に設定したとする。
そしたら他のやつらが足元を見て110にする。
なにせどれか一つでも欠けたら作れないのだから。
そうやって価格が徐々に吊り上がり、今の値段になったとか。
「うすぎたねぇ守銭奴どもは滅べ! 他人に寄生するクズどもめ!」
「お前も似たようなことしとったからな?」
俺はまだパーティーに寄生しても色々頑張ってるよ。
声援とか、黄色い声援とか、真っ黒な野次とか。
「それに銃を作る設備にもパテントがある。で、気に入らない奴がその設備を必要としたとならばどうなる?」
値段、吊り上げるだろうね。
そんで吊り上げられた方も仕返しとばかりに友達価格が絶許価格に変更。
巻き込まれた側はたまったもんじゃない。
「やっぱ滅ぼすべきですって。エトルリア先生、更地にしてやってください!」
「必要なかろう。なにせ、お前の世界が殲滅した側じゃぞ?」
「へ? あぁ、そうか。ウチの世界にもパテントあるのか」
「うむ。それどころかそちらの世界にしかない銃の技術もあった。今はまだ情報などを規制しとるが、今頃パテントの上で胡坐をかいとった奴らはパテントが暴落する前に売りさばこうと必死であろうな!」
エトルリア先生がケラケラと笑ってるが、わりと冗談にならない事態にならないか?
「あのぉ~……俺の世界の銃がこっちにいっぱい流入したらやばくないっすか? 具体的に治安とかスラムとか銃弾の雨とかメタルストームとか」
「あちらの技術のものをこちらで作るのは禁忌指定になっておる。そして世界間を移動させるなら処理と加工の手間が発生する。つまり大量流入の心配はいらぬ。そして数の管理も容易である」
「いや、禁忌指定っていっても裏でこっそり作られたりとか……」
「まぁなくはないな。だが銃一本作るのに何百人という犠牲者が出る。採算が合わんじゃろ」
「……ぱーどぅん?」
なんかすげー物騒な言葉が聞こえたので、思わず聞き返してしまった。
「おぉ、そういえばまだ教えとらんかったか。禁忌指定されたモノを破ったならば死ぬぞ、気をつけよ」
「そういう大事なことってもっと早く教えるべきじゃないっすかね!? 知らずに破ったらどうするんすか!!」
「その前に凄まじい激痛で動けなくなる。死ぬのはよほどの無理や禁呪と呼ばれるようなことで無理強いした場合の話だ」
異世界こえー……ファンタジーなのにディストピアの味がするんだけど……。
「まぁこちらに流通するのは大分先であろうな。どうも分校の方で色々あったらしくてな。カシェルとヤマタニ?という者が色々と悪だくみしとるそうだが……ヒビキは何か知らんのか?」
「ッスゥー……知らない……すねぇ……俺、何も関係ないんで……マジで勘弁っす……」
なんか特殊部隊の話がどうのこうのって言ってた気がしたけど、それと関係してんのか?
もしかしてだけど、山谷さん俺をそっち側に引き込もうとしてた?
俺は<探索者>になってパーティーに寄生したいのであって、スーパーエリートソルジャーとかコマンドーになりたいわけじゃねぇのよ!!
なんかもう元の世界に帰るの怖くなってきた。
パパンとママン誘って、こっちに移住しようかな。
……だめだ、異世界側との窓口を取り仕切ってるの山谷さんだ。
移住したいとかいったら交換条件で何を求められるか分かったもんじゃねえ。
つまり詰みです、本当にありがとうございました。
「エトルリア先生、俺なんだか急に偉くなりたくなってきた。そんでマッポーの世に蔓延るアクトク・ダイカンとかを成敗して平和に暮らしたい」
「末法の世であれば平和は訪れんじゃろ」
百理ある。
たぶんすぐにまた世紀末な悪党が出てきて、砂漠とかデスロードとかみたいな世の中になるんだ。
今のうちにモヒカンのカツラでも用意しようかな。
「ところでヒビキ、先ほどからエメトがこちらをじ~っと見ておるぞ」
「知ってます。だから気付かないフリしてるんすよ」
「どう見てもお前に用がある顔をしとるぞ」
「知ってます。だからこうして先生と話してこっちに近寄らせないようにしてるんです」
「……流石に無言でずっと佇まれておると怖い。ちょっと何の用か聞いてこい」
すこぶる嫌だが、このままだと夜になってもついてきそうなので覚悟を決める。
「ねー! 俺にー! 何か用なのー!」
「なぜ距離を離しながら声をかける」
「いつでも逃げられるように……って先生? ちょっと離してくれない先生? これだと逃げられないんですけど先生!?」
俺のズボンを掴む手から、絶対に逃がさないという強い意志が感じられる。
ここは俺も覚悟を決めてズボンを犠牲にすべきか。
とかなんとか考えてたら≪ドルイド≫のエメトが普通にこちらに寄ってきた。
怖い。
「失礼。先ほどヒビキ様が一人でダンジョンに入れないと聞こえたので、待っていました」
「ん? おぉ、そういえばエメトのレベルであれば同じくらいのダンジョンに入れるか。良かったな、ヒビキ! 仲間がおったぞ! だからズボンを脱いで逃げようとするな」
今度はパンツまで掴まれた。
どうしよう、禁忌指定に下半身マッパがあったら死ぬけど、どうしよう。
「やだ! 小生やだ! 二人っきりでダンジョンに入って、噂されたら恥ずかしいし!」
「安心せよ。根も葉も空気すら入ってないお前の噂が広まって、もう手遅れである」
しかも各々が勝手に脚色してるせいで虹色どころか白は256色あるとかそういうレベルになってる。
夏休みで薄まるどころか濃くなってどうすんだよ!
「先生! 急にお腹が! 想像妊娠かもしれません!」
「つまり気のせいであるな。サボりは許さん、諦めてダンジョンに行ってこい」
「イヤーーーーーー!!」
そうして俺は無理やりダンジョンに放り込まれ、後から≪ドルイド≫のエメトが入ってきた。
ふふ、女子と二人っきり……まるでデートみたい♪
胸もドキドキしちゃった、これってまさか……不整脈?
助けて先生!
仮病じゃないです先生!
お願いだから、せめてもう一人連れてきて先生!




