46話目:7月■日分校・期末試験
どの学園であろうとも、それこそダンジョンに関係のない学校であろうとも、期末試験というものは存在する。
一学期での努力を発揮し、その成果を証明する為の試験。
このダンジョン学園の分校でも試験として、各クラス毎にダンジョンに潜る試験が行われていた。
装備などは統一され、制限時間内においてどれだけの戦利品を持ち帰られるか、どれだけのダンジョンを踏破できるかを競う。
<探索者>としての努力ではなく実力だけが求められる試験である。
その期末試験を前に、大多数のクラスはリラックスしていたり、意気揚々と挑まんとする姿ばかりである。
なにせこの期末試験の結果はそのまま成績に直結している為、ここで優秀な成績を修めれば学年一位として表彰される可能性がある。
それ故に、期末試験の前から……それこそ入学した当初からこの期末試験の対策を、各クラスを受け持つ教師達が盛り込んでいたのだから。
一方、アカネのクラスメイト達は緊張していた。
<星堕>のノフェルという卓越した<探索者>が教師になったとはいえ、授業や実技で減点まみれ。
期末試験の対策もできず、いきなり一学期の締めくくりに挑むことに不安な気持ちしかなかった。
そんな様子を遠くから教師達が見守りつつも、懇談している。
「ノフェル先生。そちらの生徒の点数はあまりにも低いのですが、もう少し減点の基準を下げられてはいかがでしょうか? 生徒のやる気にも繋がるでしょうし」
「問題ありませぬ。期末試験のことも考えれば、あの点数は妥当。それに我々は生徒を一人前の<探索者>とすることが職務。点数に一喜一憂するわけにはいきますまい」
学園長が直々にスカウトしたという教師ノフェルに対して、他の教師の反応は様々だ。
まだ教師の職務に慣れてない故に助言しようとする者。
純粋にどのような育成をしているのか気になる者。
<探索者>として名をはせたノフェルが、己の領分に入ってきたので排斥したい者。
すまし顔の彼の表情を変えてやりたいと歪んだ欲望を持つ者。
しかし、教師ノフェルにとってはその全てがどうでも良いものであった。
<探索者>の時に味わった艱難辛苦に比べれば、幼稚で無意味なものであると知っているからだ。
「ノフェル先生。見ればそちらの生徒達は緊張して試験どころではないように見えます。激励の一つでも送ってさしあげればよろしいのでは?」
「試験に際し、教師は生徒へ干渉してはならぬと決められてます故」
他教師からの提案もピシャリと打ち切る。
まるで生徒がどうなろうと気にしていないのではないかと思う教師もいる中、彼は一人の女子生徒に注目していた。
暗雲がたちこめる皆の気持ちを吹き飛ばすように、アカネが立ち上がった。
「どうしたの、みんな。ダンジョンなんていつも潜ってるよね? そんなに不安になることってあるかな?」
「そうは言いますけどね、アカネさん。何の対策もできなかったんですのよ? こんなの、予習もなしに筆記試験を受けるようなものですわ」
いつもならば自信に満ち溢れているテクマも、今回ばかりは憂いていた。
そんなどんよりとした空気であっても、アカネは皆を元気づけようとする。
「でもさ、今回の採点はノフェル先生じゃないから減点されないよ? そう考えたら、全然怖くなくない?」
「それは……クスッ、確かにそうですわね。テクマ、減点!……って言われないのなら、むしろいつもより気が楽ですわ」
冗談めいた言い方のおかげでテクマが笑い、それにつられるように皆も笑った。
もちろんこの会話も教師ノフェルには聞こえていたが何も言わず、眉をひそめただけであった。
『これより第一学期、期末試験を開始する!』
開始の合図と共に各クラスのパーティーたちは一斉にダンジョンへと突入する。
とにかく多くの戦利品を、多くのダンジョン踏破を、そして成績となるポイントの為に。
一方で、アカネ達のクラスはまだ突入していない。
それどころかパーティーの割り振りをしているところであった。
「いい、みんな? この期末試験はみんなで力を合わせないといけないの。でも、協力しあえば絶対に一位になれる……だから、信じて」
その言葉に皆が頷く。
根拠など必要ない。
アカネが信じてというならば信じる、それが彼女がこの学園生活で勝ち取ってきた信頼なのだから。
唯一≪キメラ≫のアタレフだけは冷めた目で見ていたが、逆らう理由も空気を壊す必要もないことを理解しており、適当に迎合していた。
そうしてアカネが皆に作戦を伝える。
「アタシ達は複数のパーティーで複数のダンジョンを攻略しない。一つのクラスで、一つのダンジョンを攻略する」
……
…………
………………
試験の開始からしばらくが経過した。
複数のダンジョンから帰還した生徒達が続々と集まり休憩している中、アカネ達のクラスだけが一つのダンジョンから帰還しているのが見えた。
この時点でポイントの差は三倍以上。
他クラスからは嘲笑の的となっていた。
しかし、アカネはそんなもの気にもしていなかった。
「うん、成功だね。これなら次からは二面作戦もいけそう。じゃあ次のパーティーを編成するよ」
アカネの作戦はこうだ。
先に偵察パーティーが先行してダンジョンに潜り、情報を持ち帰る。
ただし全員が戻るとダンジョンが閉じてリセットされる為、必ず何名かを残す。
持ち帰った情報を元に、試験会場にいる者達で最適なパーティーを編成して本攻略を開始するという流れだ。
配られた<ダンジョンの挿枝>のレベルにはばらつきがあり、高めのダンジョンは早めに見切りをつけて撤退。
逆にレベルが低いダンジョンはボスを倒して踏破する。
なんにせよ、とても時間のかかる作戦だ。
だから他のクラスは侮っていた。
あちらが一つのダンジョンを踏破する間に、二つ以上のダンジョンを踏破しているのだから、時間が経過していくごとにポイント差はグングンと広がっていく。
教諭の面々も、教師ノフェルのクラスが逆転することはないだろうと思っていた。
変化に気付いたのは、残り時間が半分を切った頃。
いくつかものパーティーが脱落し、上澄みのパーティーだけが残っている状態。
その中で、教師ノフェルのクラスだけが全員生存していた。
しかもダンジョンの踏破速度は衰えることなく、ポイントを稼ぎ続けている。
一度ダンジョンで死亡してしまえば、もう試験に復帰することは不可能である。
逆にいえば、死にさえしなければ何度でも挑戦できる。
故に、アカネはただ一人の脱落者も出させないこの作戦をとったのだ。
ある意味、効率的であり、クラスメイトというリソースを最後の一滴まで搾り取る作戦だ。
無論、本人にその自覚があるかは定かではない。
むしろ仲間を手足のように扱うことから必死で目を逸らすように集中していた。
それとは反対に、クラスメイトは喜々として彼女の作戦に従った。
彼女だからこそ、彼女の役に立ちたいという意志で統率された彼らのモチベーションは他のクラスをしのぐほどに高い。
彼女が死ねと言えば、喜んで死ぬほどに。
そんな光景を、≪キメラ≫のアタレフは悪趣味なものだと思いながら見ていた。
仲間を配慮する気持ちと、効率を求めることは両立できる。
両立させてしまったが故に、魂に負荷がかかっている。
唯一その負荷がないものは≪キメラ≫のアタレフに対してだけだろう。
彼に対してだけは、アカネも遠慮せずに指示を出せている。
おかげで≪キメラ≫のアタレフも個人ポイントを稼げているので、口を出さないでおくことにした。
そうして残り時間が1/3まできたところ、他のクラスは一つか二つのパーティーを残して全滅。
アカネ達のクラスは未だ脱落者がおらず、ポイントを稼ぎ続ける。
残り時間わずか。
既にクラスとしての総合ポイントは他クラスを抜き一位に。
それでもまだ彼女らは止まらない。
そうして試験終了の合図が鳴り響く。
クラスの総合ポイントは他クラスの二倍以上の差にまで広がっていた。
こうしてアカネは、誰一人の脱落者も出さずに最上の結果を出したのであった。
この信じられない結果を見た教諭陣に対し、教師ノフェルが口を開く。
「皆様方、どうされましたかな? 我々は生徒を一人前の<探索者>とすることが職務。点数に一喜一憂するわけにはいきますまい」
まるで皮肉かのように、一番最初の台詞をそのまま返す教師ノフェル。
その顔は無表情のままであり、出来て当然だという雰囲気であったという。




