40話目:5月■日とある≪ライカンズ≫の女子生徒のメモ
最近、ウチのクラスが妙な感じです!
別に犯罪とかそういうのではないですよ?
普通、五月にもなれば<探索者>への憧れから入学した人が何人かは辞めるもの。
ただでさえノフェル先生の毒舌と授業で心が!
訓練とダンジョンで身体がボロボロだというのに!
誰も辞めていないのは快挙なのです!
上の学園にいるお兄ちゃんに聞いてみたら、絶対におかしいって言われました。
そこでワタシが調べてみるのです!
あ、ちなみにもう原因は分かってます。
爪や牙こそありませんが、このながーい耳は飾りではないのです!
というわけで、今日もこっそり監視しております。
はい、あちらが世にも珍しい≪ヘイズ≫の……おっと、異世界人のアマボシ・アカネ殿です!
クラスの皆に囲まれて談笑しております。
お兄ちゃんの話では、入学してしばらくは同じ人種の人達で固まるらしいです。
なのに、アカネ殿の周囲には多種多様な人達でいっぱい!
皆と仲良くなるのが上手なお人なのですね!
さらに、頭も良いのです!
授業でもワタシはノフェル先生に当てられないように祈ってるのに、彼女は積極的に挙手します!
よく一緒にいる≪ドルイド≫のテクマ殿も負けじと手を上げ、まるで競い合ってる感じです。
まぁこちらの世界に慣れてないそうなので、ちょくちょく間違えちゃってますが。
でも、そういったところも愛嬌ですよね!
決して!
ワタシがよく間違えちゃうから!
愛嬌ということにしているわけではありません!
そうそう!
術の適正も高く、先生達は舌を巻いておりました!
<色術>は既に四色!
<鉱術>の基礎も扱え、祈手のような奇跡も使えるとか!
才能爆発!
あれ、違ったかな?
才気煥発とはまさにあの事ですね!
あれならパーティーの後衛として、文句なしの優等生です!
しかーし!
彼女はなんと前衛としても戦えるのです!
武器はなんでもござれで、純粋なファイターはともかく、及び腰のヘッピリ腰な人よりも強いのです!
最近は≪レギオズ≫のエヴェドくんと一緒に槍の練習をされているそうで。
そのエヴェドくんも最初の意気地のない顔から変わり、自身に満ち溢れた立ち振る舞いをするように!
おっと、そんなことを言ってたらその彼がアカネ殿に話しかけております。
さて、どんな会話をしているのでしょうか?
「アカネさん。投げ槍の弱点を克服できたかも。あらかじめ槍に鉄を仕込むことで<鉱術>で槍を引き寄せられそうなんだ」
「へぇ、それは凄いね! おっきくてしぶとい敵と戦う時は槍が足りなかったから、これで投げ放題だ!」
「最初はロープをつけようって話をしてたけど、邪魔になるからね。これでキミの足を引っ張らないで済むかな」
「ん? アタシは最初からエヴェドくんが足を引っ張るだなんて思ってないよ。これからも期待してるからね」
むむむ、青春のささやき風が聞こえてきます。
あれが彼女の悪いところでもあります!
誰にでもあんな思わせぶりな事を言っているせいで、男子も女子も皆がメロメロです!
いつかはノフェル先生もメロメロになったりするのでしょうか!?
……いや、それは一生なさそうな気がするであります。
いわゆる解釈違いであります!
う~む、それにしてもアカネ殿は完璧ですね。
完璧なモノ<カミール>だなんて与太話でしか聞かないと思っていましたが、まさに彼女の為にあるような言葉ですな!
もしやアカネ殿の世界にいる人はみんなこんな感じなのでしょうか!?
聞くところによれば、本校にいる同郷のお方は<混沌の墜とし児>と呼ばれているとか!
……いやいやいや、怖いすぎでありますよ!?
いったい何をしたらそんな二つ名がついてしまうのでありますか!?
もしや本校を滅ぼしたのでありますか!?
それはつまり<不朽の英雄>すらも倒したということに!?
アワワワ、大変な方が異世界からいらっしゃいました!
もしかしたら、アカネ殿もこの分校を滅ぼす為に遣わされた侵略者なのでは―――――
「どうしたの、ハヴラさん?」
「ひええぇぇ!?」
いつの間にか移動教室の時間になっており、教室にはワタシとアカネさんの二人だけ。
口封じされるには、絶好の機会!?
こうなったら全力で命乞いをするしかありません!
「アカネ殿! どうか、どうかワタシの命だけはお助けを~!」
「え、急にどうしたの? 何かあったの?」
その後、涙ながらに話していたらワタシの誤解だということが分かりました……。
そもそも、アカネ殿本校のいる人については何も知らないそうで。
「へぇ、知らなかった。あっちにいった人、そんな風に呼ばれてるんだ」
「同郷であるのに、名前も知らないとは不可思議な。仲が悪いのですか?」
「そんなことはないよ。一緒になる機会がなかっただけかな? <ダンジョン耐性>を持ってて、異世界にまで留学しに来る人ってほとんどいないみたいだから」
確かに、いきなり学園に入ってダンジョンに潜るなんて、普通ではありえませんな!
そうなると……アカネ殿は、いったいどうしてこの学園に入られたのでしょうか?
「ハヴラさんって情報通なんだね。皆も知らないことを、いっぱい知ってるだなんて」
「いやいや~それほどでも~~~!?」
「ダンジョンでも凄かったよね。隠れてた罠も見つけたり、宝箱の開錠でって早かったもん」
「いやいや、そんな……アカネ殿に比べればまだまだ! 戦うのも苦手でありますし……」
「敵が来る方向や距離も正確に把握してたし、危ないことにすぐ気付いてくれる。一緒にいて、本当に頼りになるなって思ってたんだよ」
おおぅ、なんということでしょう!
クラスで一番の優等生に頼りにされていただなんて!
嬉しくて思わず飛び跳ねてしまいそうであります!
「ハヴラさんは戦うのが苦手だって言ってたけど、それを補うほどの力があるよ。もっと胸を張ってもいいと思うけどな」
「そ、そんなに褒められると……照れくさくて体中が痒くなってしまいまする!」
「そうだ! 明日の合同ダンジョン授業、一緒に組まない? 戦うのが苦手なら、アタシが守ってあげるよ」
「え? えぇっ!?」
「って、そろそろ授業になっちゃうね。ほら、行こう!」
そう言って、アカネ殿はワタシの手を引いてしまいます!
嗚呼……こうして皆、彼女に引き込まれていくのでありますね。
ワタシも、もう抜け出せないかもしれません……!
そういえば、アカネ殿に何か聞きたいことがあったような?
う~ん……思い出せないなら、後にしてしまいましょう!
今はとにかく、赤面するこの顔をなんとかしなければいけないのであります……!




