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異世界ダンジョン総合学園へようこそ!  作者: gulu
~にがっき!~赤色の新星

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39話目:5月■日エヴェドの忘備録②

 翌日……約束通り、僕は待ち合わせ場所である訓練場へとやってきた。

 もちろん二人きりなんてはずはなく、≪ドルイド≫で優秀なテクマも一緒だ。


「まったくもぅ、アカネさんったら。付き合うこちらの身にもなってほしいですわ」

「ご、ごめんね? 僕なんかのせいで朝から付き合わせちゃうことになって」

「あら、ごめんなさい。当てつけのように聞こえますわね。アナタが悪いのではなく、勝手に安請負するあの子に文句を言っただけですので」


 テクマもまた優秀で特別な一人だ。

 特別な人に囲まれると、自分まで特別になったかのように錯覚してしまいそうになる。


「ごめ~ん、お待たせ~!」


 そう言ってやってきたアカネの手には、沢山の槍が抱えられていた。


「ど、どうしたの、そんなに沢山。槍ならもう、持ってるのに」


 近づくことすら怖くなった僕は、槍を使っていた。

 その槍ですら、死の恐怖に負けそうになり満足に扱えてなかったけども。


「きっとエヴェドくんはまだ死ぬのが怖くて近くで戦えないだろうなって。それなら、投げ槍ならどうかなって思ったんだ。ほら、試してみて!」


 言われるがままに槍構え……急に手首を掴まれてしまった。


「急がなくて大丈夫。ゆっくり、深呼吸して……そう……」


 彼女に言われるがままに、呼吸を整える。

 訓練場で死ぬことはありえない。

 狙いを見定め、思い切り投げつけた。


「わっ、当たった! すごい、最初から当たったよ!」


 槍は見事に刺さった。

 だけど、それだけだった。


「残念だけど、これじゃあ駄目だね」


 首を振る僕の代わりに、テクマが説明してくれる。


「そうですわね、威力が低いですわ。これなら弓やクロスボウの練習をした方がまだマシですわ」


 アカネはきっと、沢山の槍を投げる遠距離の役割を僕に与えようとしたんだと思う。

 そんなことをする人は見たことがない。

 だから、僕だけの特別を用意したかったんだろう。


 でも、やっぱりどうしようもなかった。

 僕は特別なんかになれないんだ。


 そう思っていたのに、アカネは不敵な笑みを浮かべていた。


「確かに槍だけならそうだよ。でもね、アタシ達にはまだ使えるモノがあるでしょ? エヴェドくん、<鉱術>使えるよね?」

「う、うん。少しだけなら」


 無機物を扱う<鉱術>。

 戦闘でも壁を作り出したり、即席で武器を作り出すことができる。

 他にも破損した武器の応急処置にも使われたりするが、戦闘よりも鍛冶などダンジョン外で使われる方が多い。


「ちょっと見ててね。これを、こうして……っと!」


 そう言って不器用なフォームでアカネが投擲した槍は、訓練用の的から大きく外れてしまったが、僕よりも遥かに上回る威力があった。


「どう? 磁石みたいな感じで<鉱術>を使って、S極とN極から、N極同士にして反発した力を利用してみたの」


 言うのは簡単だ。

 けど<鉱術>を使いつつ、さらに投擲して当てることまで考えると凄く難しい。


「アカネさん、あなた昨日戻ってくるのが遅かったのは……」

「……えへ、これを練習してて」

「もぅ! 夜更かししてまで身体を酷使するだなんて、信じられませんわ!」


 後ろの方でワイワイと騒いでいる二人の喧騒を背に受け、僕はもう一度槍を構える。


 <鉱術>で小手と槍を引き寄せあい……狙いを定め、放つ瞬間に弾きあう力に変換する。


 瞬間、槍は信じられない力を持って的へと発射された。

 ズドンという轟音と共に土煙が舞い上がり、槍は……的に当たらず地面に突き刺さっていた。


「わっ、最初からそんなに近くに当たるんだ。エヴェドくん、才能あるよ」

「いや、そんなことは―――――」

「ううん、そんなことあるよ。だって、一晩練習したアタシよりも近くに当たってる」


 本当に……本当にそうなのだろうか。

 そう信じていいのだろうか。


 やっと見えた一筋の光。

 僕は、この光に縋ってもいいのだろうか。


「それじゃあ、ダンジョンに行こう!」

「はぁっ!?」


 僕が驚くよりも先に、テクマさんが止めに入った。


「どういうことですの!?」

「やっぱり本番で当てるなら、実戦で練習するのが一番だと思うの。怖くなくなる訓練も兼ねてね」

「僕は―――――」


 不安そうに返事を躊躇していたのに、彼女は一点の曇りもない笑顔でこう言った。


「大丈夫、信じて――――アタシが、あなたを特別にしてあげるから」


 僕は自分の可能性を――――いや、彼女を信じたくて、頷いた。


 さて……ダンジョンに入り、すぐさま敵を見つけられた。

 瞬間、死の恐怖が這い寄るのを感じた。


「大丈夫。アタシ達がいるから」


 アカネが手を握ってくれたおかげで、少しだけ恐怖が和らいだ。


 大丈夫、一人じゃない。

 一緒の人がいるのなら、怖くはないはず。


 呼吸を整え、モンスターに槍を投擲する。


 しかし槍は大きく外れて轟音を鳴らし、モンスターがこちらに気付いてしまった。


「あぁもう、仕方がありませんわ。私がなんとかいたします」


 そう言って<色術>を使おうとしたテクマを、アカネが制止してしまった。


「ううん、まだダメ。エヴェドくん、もう一回」

「けど、モンスターが……」

「うん、だからアタシが抑えるの」

「無茶だよ!」


 僕の言葉を受けながらも、アカネが小さな盾と剣を構えてモンスターに立ち塞がる。

 レベルの低いダンジョンだが、女子一人に任せるなんて普通はしないことだ。


 そうでなくとも、彼女が前衛で抑えている間に槍を投げるということは……彼女に当ててしまうかもしれないということだ。


 僕が信じている人を、僕自身の手で貫くだなんて……なんて恐ろしいことだろう。

 けど、彼女はあの時、信じてくれと言った。

 なら……僕が信じないわけにはいかない!


 アカネがモンスターとの交戦を開始する。

 攻撃はせず、防御を回避に専念している。


 あれならしばらくは大丈夫だと思う。


 僕は再び呼吸を整え……鼓動する心臓の音を聞きながら、再び槍を放った。

 槍はモンスターの横を通り過ぎ、轟音と共に違う場所へと突き刺さった。


「大丈夫、さっきより近いよ!」


 アカネの明るい声を受け、再び心を奮い立たせる。

 次こそは当てると自分に言い聞かせ……三射目を放つ。


 ―――――しかし槍は、先ほどまで敵のいた場所へと……アカネの背へ、吸い込まれるように迫った。


「危ない!」

「アカネさん!」


 僕がテクマが思わず叫ぶ。

 もうダメかと思った瞬間、アカネはひらりと身を翻して躱した。


 まさに九死に一生の瞬間……だというのに、アカネは余裕の笑みを浮かべてこちらに語り掛ける。


「さっきよりも良い感じだったよ!」


 一歩間違えれば……いや、僕の手元が狂うだけで死ぬかもしれない。

 僕が彼女を信じて殺してしまうならば、ここで信じることを止めるべきだと思った。


 もう諦めようと、そう口にしようとした瞬間だった。


「大丈夫。エヴェドくん、信じてるから!」


 さっきまで、僕はアカネを信じているだけだと思った。

 救いの光にしがみつくかのように一方的に信じるだけの関係なのだと。


 だけど違った。

 彼女もまた、僕を信じていた。


 彼女に比べれば、僕なんて光だなんて言うこともおこがましいほど小さな瞬きだ。

 なのに、彼女はそれを信じると言った。


 なら……僕も信じるしかない。

 少なくとも、僕が先に信じることを止めるわけにはいかない。


 ここで諦めれば、彼女は間違ったものを信じたことになる。

 僕は、彼女が間違っていたことにはさせたくなかった。


「あなた、本当にまだやる気ですの!?」


 テクマが不安そうな顔をして僕を見つめる。

 それに応えるように、僕は再び槍を構えた。


 呼吸を整える。

(心臓の鼓動がうるさい)


<鉱術>を付与させる。

(血流の流れる音すら聞こえる気がする)


 狙いを定める。

(アカネの一挙手一投足を見逃さないように)


 その瞬間、何かが全て噛み合った感覚があった。

 僕はその感覚に身を委ね、流れるように槍を放った。


 今までにない速度で飛翔した槍は、まさにアカネに当たる寸前にモンスターに直撃し、そのまま屠ってみせた。


 この一投が、僕が特別になる為の最初の一歩になるだろう。

 だけど――――――


「やった、やった! エヴェドくん、やったね!」


 こちらの手を取り、無邪気に喜ぶ彼女がいなければ……信じるという言葉がなければ、その一歩すら踏み出せなかった。


 けど、これで分かったことがある。

 彼女はとっても特別で、僕は彼女を追い抜くことはできないだろう。

 けど僕は、彼女という光を……僕を導いてくれたその背を追い続けるだろう。


「ありがとう、アカネさん。キミが信じてくれたように、僕もキミを信じようと思う。英雄になるまで……英雄になったとしても。信じ続けることを、ここに誓います」

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― 新着の感想 ―
一切恐怖を感じていないという点を除けばものすごく良い青春ですねぇ でもどうせ失敗しても死ぬだけやしな……で割り切れれば普通なのか?
アカネさんから、未曾有の恐怖しか感じられない……。 これなら、まだヒビキくんのほうがオカシイけれどもマトモです。
アカネやばすぎわろた
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