26話目:秘密の花園暴き
さて、レジーナさん達の事件からしばらくが経過し……俺とエトルリア先生は今、彼女たちの部屋の前にいた。
「ひゃっほぅ! 憧れの女子寮だぜぇ!」
「いや、ここには普通に男子もおるぞ?」
「え!? お金を払ったら男子も女子寮にフリーパスなんですか!?」
「そもそもここは、普通に契約して部屋を借りる場所だ。お前も稼げるようになれば、家賃のない寮ではなく、こういう場所を借りるようになるだろう」
なんだ、どおりでちょっと内装とかも男子寮より良い感じだと思った。
女子だけ優遇されてるってわけじゃなかったのね。
「さて、ヒビキがここに呼ばれた理由は分かっておるな?」
「はい! レジーナさん達の部屋を漁れってことですよね!!」
「うむ……意味は間違ってないが、恐らくお前の考えているものとは違うからな?」
「任せてください。下着の場所なら秒で見つけてやりますよ!」
「どうしてそれをお前に任せねばならぬと思った????」
ほら、同性だと言いにくいこととかあるじゃない?
だから、こう、異性の僕が……ねっ? 分かります?
「まぁアホなことしたらプチ<黄の穂先>を撃つか。では入るぞ」
「やめてください。しんでしまいます」
エトルリア先生レベルだと低級の術でも致命傷になると思います。
まぁそれはさておき……エトルリア先生が合鍵を使って扉を開ける。
中は意外と広く、少し散らかっているように感じた。
「うむ、中々に片付いておるな」
「そりゃエトルリア先生とか男子の部屋に比べればそうでしょう」
「……良いことを教えてやろう。女子の部屋はきっと綺麗で整頓されておるという幻想を持っとるなら、早々に砕いて捨てておけ」
「なに言ってるんですか! 女を捨てた人の、女の人の部屋とかご褒美じゃないですか!」
「お、おう……そうか。中々に難儀な業を背負っとるな」
こう……床にスカートが脱ぎ捨てられてたり、食べかけのパンが机にあったりとか、妄想力が膨らんで最高なんだ!
あ、ガチの汚部屋は勘弁してください。
変色した何かが転がってたりするのはNGで。
「それにしても……ふむふむ、くんくん……はすはす……ほむほむ……」
ここがあの女のハウスね!
……というネタはさておき、五感を駆使して部屋の中をしっかりと調べる。
いや、味覚は使っちゃマズイか。
でも嗅覚だけに任せっぱなしなのもアレだし、舌で空気を味わうのも悪くないはずだ。
「……真剣に考えこんでいるように見えて、もの凄く気持ち悪いことを考えておるな?」
「バレました? 恐らくここは複数人で使ってて、片づけが苦手な先輩がいたのかと」
「それに注意するのに疲れて、他の人も完璧に片づけるのを諦めた……その結果、家具とか道具は使いやすい位置にまとめる程度になってこんな部屋になった感じでしょうか」
「ほら、あっちのベッド見ると分かりますけど、片付いてるモノとそうじゃないモノあるじゃないですか。自分の陣地だからこそ、他の人は手出しせずに性格が出てるんでしょうね」
「あの綺麗なのはレジーナさんかな? 楽譜バラバラのベッドはパッチェムさん、シーツめくれてるのがペッカータさんで――――なんすか、その顔?」
「いや、予想とは違うことを答えられてな……まぁ気持ち悪いことには変わりないのだが」
マジメに観察して解説したのに、なんでそんなこと言うの!?
「なんにせよ、ヒビキに見つけてもらいたいものは一つ。合唱による<奏術>で<羽化>を行う曲……その楽譜である!」
ぶっちゃけ前代未聞すぎて、下手をすると<黒の遺産>クラスの発見になるらしい。
「ところでエトルリア先生、見つけたらどうするんですか?」
「うむ。恐らく国の研究機関に提出することになると思うが……絶対に悪用されるので、ワエ様の独断で焼く!」
アカンこの先生、公職なのにロックすぎる。
でも同感なのよね。
人を異形にさせる技術とか、絶対にロクでもない使い方されるもん。
というか実験の過程でどんだけの人が犠牲になるか、分かったもんじゃねえ。
だから"そんなものなかった"にしてしまうのが一番というわけだ。
「まぁ焼いたとしてもヒビキが覚えとると意味ないんじゃがな」
「ダイジョブヨー、ワタシ、耳コピできないアルヨー。楽譜アッテモ、雰囲気デ、演奏、シテルヨー」
「とても胡散臭いが、表層心理を読むと嘘偽りのない真実なんじゃよなぁ」
才能ないからね、ワイ。
マジで練習しまくったものはそれなりにできるけど、それなり程度までしか上達しないし。
あと楽譜とか今でもあんまり読めてない。
最初に楽器で演奏しようとした時、合ってる音を一つ一つ地道に覚えて真似てたくらいだ。
パッションで全部解決できたらいいのに。
なんか叫んでたら勝手に問題が解決したり宇宙救ったりできないかなぁ。
「それにしても、見つからんな。あらかた探したと思うのだが」
「ん~……というか、大事なモノなら探したら見つかるようなところに置かないんじゃないっすか?」
だって<黒の遺産>クラスの発見っしょ?
それなら家探しされる可能性だって考えてるはずだ。
「ではここに隠されてはいないと?……それなら、お前は何を漁っているのだ?」
「へ、変なことじゃないですよ!? ただ先輩達のアレコレを探して調べてアハンやイヤンなモノがないかなって……!」
「それは一般的に変なことであろう」
「そうかな……そうかも。でも、結構マジメな理由なんすよ? こうやって私物漁ってるのは、大事なモノの"場所"ではなく"大事なモノを"どこに隠す人なのか"という情報を集めるためですし」
おかげで分かったことがある。
部屋そのものは少し散らかっているが、分類そのものはしっかりとされていること。
大事なモノは鍵のついた箱にしまっているであろうこと。
そして……家探しされることを想定していたなら、絶対にそんなところには隠さないということ。
誰も想像ができない場所かつ、自分達がスグに回収できそうなところ……。
「……奥歯の中とか?」
「それは……どうしようもないな」
うん、自分で言っといてなんだけどぶっ飛びすぎた。
レジーナさんならもうちょっと常識的な答えになると思うんだけど、思考の調節が難しい。
「あ~……う~……むううぅ~~~~ん………!」
ないとは思うが、仕掛け扉とかがないか色々なところを叩いて振動や音を聞き分けてみるが、全然手応えがない。
特定の曲を弾かないと出てこない隠し扉とかあったらお手上げだぞ。
ゲームでもあったなぁ、そういうの。
「…………ん? 扉?」
扉というモノは部屋の中でもあり、外でもある。
家探しをされたとしても、部屋という境界線から半歩踏み外している箇所。
「エトルリア先生。ここって、人が退去したら鍵交換とかします?」
「鍵交換? 別にそんなことせんでも、鉱術で鍵穴を変えてランクの低い全能鍵で型取りすればよかろう」
「異世界ファンタジー要素ォ!」
これは盲点!
この世界じゃイチイチ鍵の交換なんかせず、鉱術で解決してる!
だからこそ、そこに隠せばバレないというわけだ!
そして鍵の仕掛けの大きさを見れば……紙くらい簡単に隠せそうだ!
「エトルリア先生! ちょっとハンマーとか工具借りてくるんで待っててください!」
「む? それを壊せばいいのか? それなら、フン!」
オオ、なんたることか!
エトルリアセンセーの気合と共に放たれる手刀によりドアノブが破壊!
アワレ、引きちぎられし扉の破片には怪しき紙片がはみ出ていた!
「うむ、これか!? ヒビキ、確認せよ!」
「いやだから楽譜見ただけじゃ分かんないっす。ちょいと実際に演奏してみますけど」
なにせ実際に聴いたことあるの、俺だけだしね。
それにあれは合唱だからこそ効果のある曲だから、俺一人だけ演奏しても影響はないはず。
そして部屋にあった先輩の楽器を手にして、重要なことに気付いてしまった。
「むっ……!」
「どうしたヒビキ!?」
「この笛……俺が口付けたら間接キスになりませんか!?」
「自分の股関節にキスするような身体にされたくなかったらさっさとヤレ」
「アイアイ! マム!」
結構マジメなことなのに!
純情な感情が三分の一だったり二分の一だったりするかもしれないのに!
そうして拙いながらも、楽譜を見ながら演奏して判明してしまった。
「エトルリア先生……この曲、大変です!」
「どういうことだ!? あれは複数人で演奏するからこそ……レベルの高い音楽隊だからこそ効果のある曲ではなかったのか!?」
「これ吹いてたらなんか物体がスケスケになります! エトルリア先生の服も透けるかなって思ったのに、効果が強すぎて丸ごと見えなくなっちゃう!」
「騒がせるなアホゥ!」
先生のデコピンが俺の額を射抜く。
レベル差のせいか、思わず首がしなるほどの威力があった。
「イッター! いや結構マジメな話っすよ!? これがあれば、どこに何が隠してあるかが分かるってことですから!」
そう、X線みたいな感じで物体を透視できるので、鍵のかかった箱の中もお見通しなのである。
「え~と、あそこには下着……ベッドの裏にもキャミソール……床の間に……ヘソクリが!」
「もっとマシなもんは見つからんのか」
「んなこと言われても……あれ? 風呂場になんかあるっぽいけど……」
「覗きか?」
「誰も入ってないのに何を覗くんすか」
深淵とかそういうの?
でもそれならあっちも覗いてるっぽいからお互い様じゃない?
「まぁ深淵の覗き魔についてはさておき、風呂場のタイル……これ、楽譜が彫られてますよ!?」
透視の曲を止めると何も見えなくなる。
つまり、鉱術で表面をコーティングか埋めるとかして見えないようにし、透視の曲でしか見えないようにしたのだ。
扉の鍵の位置に鍵となる曲を隠しておくとは、レジーナさんも中々にやるものだ。
「それにしても1タイルにつき1曲かな? 結構多いなぁ……」
「文句を言っても始まらん。とにかく模写して、片っ端から試してみるしかなかろう」
そうしてひたすらタイルに彫られた楽譜を見ては紙に模写するだけの作業を行い、それが終わったら全部を演奏してどういう効果があるのかという作業を行うことになった。
結論だけを言うならば―――――。
「ダメっすね。<羽化>に関する曲はなさそうっす」
「むぅ、そうか。実際に聴いたヒビキが言うのであれば、そうなのであろう」
どうやら俺達が思っていた以上に先輩達は用心深いようで、<羽化>の曲に関する手がかりは一切なかった。
つまり先輩達は全て暗記していたというわけで……それだけ、ミゼリア先輩の為に必死で練習して覚えたのだろう。
代わりに見つかったモノといえば、効果が特殊な楽譜の数々である。
「エトルリア先生。この楽譜も全部焼くんすか?」
「いいや、それくらいならば構わん。提出もせんでいいだろう」
「え~? 結構価値がありそうに思えるんですけど」
「<奏術>そのものが研究が進んでおらん分野で、軽んじられとるからのぅ。<羽化>させる曲について詳細が分かれば話も変わるが――――」
それは絶対にしないことなので、仮定も考えなくてもいいだろう。
それを考えると、むしろ研究されていない今の方が好都合か。
「なんにせよ、その曲はヒビキが好きに使うといい」
「合唱曲が多いせいで、あんまり使えそうなものないんすけどね!」
吟遊詩人の才能持ってる人がゴッソリ消えたから、さらに演奏の難易度も上がっているという。
俺だけハードモードすぎやしませんかね。
「エトルリア先生。俺、いいことを考えた。新入生が来たら、俺が先輩権限で無理やり何人かを吟遊詩人にするってのはどうですか」
「その為にも、まずは進級するだけの成績をおさめねばなならんな」
「その進級をする為に吟遊詩人の人員が必要なんですけどぉ!?」
本当にままらないものである。
まぁ得られるものがあっただけ、まだマシか。
先輩達……アナタ達は今、本当に欲しいモノを得られたんでしょうか。
それで満足してるんでしょうか。
俺は満足も納得してません。
だからいつか追いついてみせますよ。
先輩の背中に追いつくのが、後輩の役目でしょう?




