24話目:羽化の唄
さて……あれから数日後、色々と調べてみたが何も分からなかった。
一緒にダンジョンに潜ってる感じ、悪い人たちではなさそうだった。
楽しく演奏して、笑って過ごして、喜び合う仲間。
献身的で面倒見が良くて、疑ったらこちらが悪い怒られるタイプだ。
こんな良い先輩達を疑うなんて、良くないことだ………。
だから直接パーティーメンバーに聞くね!
「パッチェムせんぱーい! 俺の前任者さんって、なんでいなくなったんすかー!?」
分からないことは聞く!
子供でもできること!
「気になります? 教えてあげませーん」
「先輩か~わ~い~い~!……家の都合だって聞きましたけど、やっぱアレっすか。政略奪結婚とかっすか!?」
「う~ん、意味が分からない結婚になってるね~。あと、アタシ達もミゼちゃん家のことあんまし知らないのはホントだよ?」
「パーティーメンバーなのに?」
「パーティーメンバーだからって、家の事まで根掘り葉掘り聞いたりしないもの! ヒビキくんも、あんまり人の家庭に首を突っ込んだりしたらダメだからねっ?」
「はーい、わかりましたオネエちゃーん!」
まぁ家の都合のところは嘘なんだがな。
俺が勝手に付け加えただけのデタラメだ。
先輩やら教師陣にすら聞いたけど誰も何も知らなかった。
見事なまでに情報が一片すらなかった。
なのに、どうして家庭の事情っていう嘘に乗っかって話を進めてたんだろうね?
「そうなんだ、知らなかった~!」みたいに言わないんだろうね?
まぁただの言い間違いとか勘違いとかかもしんないからね。
だから次の人にも聞かないとね。
そうして他の先輩パーティーメンバーにも話を聞いてみた。
もちろん「先輩に聞いたんですけど」という言葉もつけて。
他の誰かが言っていたのであれば……と、口が軽くなる人もいればそれに合わせる人もいる。
そしてその結果、皆が言葉を濁すが、誰も否定だけはしなかった。
まるで口裏を最初から合わせていたかのように。
つまり、全員がグルで共犯者だから、他の人の言葉を否定しないわけだ。
下手に否定したら、そこから設定に矛盾というヒビが入るかもしれないから。
はっはっはっはぁー!
…………やべぇなオイ。
いやいや、まだ犯罪とかって決まったわけじゃないしな?
もしかしたら本当に実家の都合かもしれないしね?
でもエトルリア先生には相談しよっかなー!
「ヒビキくん、ミゼリアちゃんについて調べてるんだって?」
はい、タイムアップです。
リーダー格のレジーナ先輩に嗅ぎつけられました。
次の俺はもっとうまくこましてハーレムルートに突入するでしょう。
だから今から俺はバッドエンドルートとしてアンタを押し倒す!!!!!
ヘヘヘヘ! ひ弱な吟遊詩人の女なんてなぁ! 男に押し倒されたら何もできなくなるんだよなぁ!!
……と思ったが、多分レベル差で普通に押し返されると思う。
つまり今逆らったら死ぬのはワイの方です。
食堂にいる誰か助けて!!!!!
「止めてくださいレジーナ先輩! これ以上、罪を重ねないでください! 死んだミゼリア先輩も浮かばれませんよ!?」
「え? ミゼリアちゃんは死んでないよ?」
「…………あれ? なんか痴情のもつれとか量子もつれとかでグサー、ギャーな展開とかではなく?」
隠し事があるイコール犯罪というわけではないのか。
そりゃそうか、そうじゃないと俺なんか刑期が百万光年とかになるし。
「うん、まだ早いかなって思ってたけど教えてあげようかな。ミゼリアちゃんに何が起きたのか」
そこからレジーナ先輩の独白が始まった。
前衛として戦う実力はない、後衛で役立つ術もない。
吟遊詩人としての才能はあったが、求められていない。
それでも必死に<奏術>を独学で開拓していき、今のスタイルを確立。
このまま卒業して学園初の音楽隊の<探索者>として成功していこうと約束した。
しかし、ミゼリア先輩だけ途中でレベルが上がらなくなってきた。
いわゆる<探索者>としての才能の打ち止めである。
このままでは全員が揃って卒業することなど不可能だ。
そもそも、ミゼリア先輩を見捨てるなんてできない。
とにかくなんとかしようと、才能の壁を打開しようと足掻いた。
だが駄目だった。
何の進展もないまま時間だけが過ぎていったある日……ダンジョンの中で、変わってしまった。
ミゼリアが、ヒトではない何かに。
あとで教師に聞いたところ「ダンジョンに飲まれてしまった」とだけ聞かされたらしい。
彼女のことは忘れるよう言われたが……忘れられるわけがなかった。
苦楽を共にした日々を、あの日の約束を忘れて生きていくなんて……できるはずがなかった。
「だけど、私達だけだとどうしようもない……だから吟遊詩人の人が必要で、ヒビキくんに声をかけたんだ」
「はぁ~……なるほど、なるほど」
そりゃ誰にも言えないよなぁ……。
心から信頼していた仲間が、ダンジョンに飲まれてしまっただなんて。
「つまり、ミゼリア先輩を探す為に……戻す為の協力者が必要で、俺に声をかけてくれたってことなんすね」
そういうことなら話は別だ。
わざわざ言いふらすことはしないし、できるだけ手伝うことも約束しよう。
そうすれば!
いっぱい恩と好感度を稼いで!
恋人ルートとかもあるからね!
グハハハハ! 俺のパライソはここにあったのだ!
悪ぃ、クラスの皆!
俺だけちょっとお先に大人になるわ!
「ううん、違うの。先生にも相談したんだけど、ミゼリアちゃんはもう元には戻らないって……完全に飲み込まれたら、どうしようもないんだって」
「なぁに言ってんすか。可能性を拾い集めるのが<探索者>でしょ? 元に戻る可能性ってやつを回収してやりましょうよ! なんなら俺が<黒の遺産>でも何でも引っ張ってきて解決―――――」
「いいの、そこはもう諦めてるから。でもね……ちょっと考え方を変えるだけで、簡単に解決できるって分かったの!」
ちょっと考え方を変えるだけで?
簡単に解決?
どう考えても、そういう問題とは思えなかったのだが……。
「ミゼリアちゃんを元に戻すんじゃなくて、私達がミゼリアちゃんのところに行けばいいんだって、気付いたんだ♪」
「ダンジョンに飲みこまれるって言うけど、あれって正確には<羽化>って言うの! 人の身体じゃ耐え切れなくて、壊れて出てくるからそう言うんだって!」
「それでね、それでね! いっぱい勉強して、いっぱい演奏して見つけたの! 合唱による<奏術>で意図的に<羽化>する方法を!」
「でもまだ完璧じゃないんだよ。あと一歩ってところで、途切れちゃうの。それで分かったの、合唱をするには音の力が足りないんだって! ヒビキくんがもっと強くなればきっと届く、私はそう信じてる!」
あぁ―――――――残念だ。
ミゼリア先輩がダンジョンに飲みこまれた時……きっと、この人もダンジョンに飲みこまれたんだろう。
正気を…………いや、心を。
本当に、本当に残念だ。
「ってことは、レジーナ先輩達は俺も<羽化>しろって言いたいわけっすか。友達も家族も、全部捨てて」
「うん……ツライよね、分かるよ。真っ暗な闇の中に身を投げる怖さ……でも、私達はその黒色の中で一筋の光になってあげられる」
レジーナ先輩が、優しく俺の手を包み込む。
「ヒビキくんが失うものの代わりに、私の全部をあげる。叶えたい希望も、欲望も、なんでもしてあげる♡ だから―――――私達と一緒に、生きてください」
純粋で本気の告白。
男であれば一度は夢見るシチュエーション。
これに心が躍らないはずがない。
「うへへへへ! 今、なんでもって言いましたよね? つまり……アダルトなことも……!?」
「うん、もちろん♪ ヒビキくん以外、みーんな女の子だからね。皆で取り合いになっちゃうかも?」
「ウヒョー! 分かりました、レジーナ先輩! 俺に任せてください!」
なんとも素晴らしい、最高の夢だ。
「今すぐ先生のところに行って、治療してもらいましょう」
夢なら―――――醒めないとな。
俺の手を優しく包み込んでくれるレジーナ先輩の手を、俺の手ごとナイフでテーブルに串刺しにした。




