みじかい小説 / 015 / 挫折という名の
高校2年の秋、私たちの学年は体育館に集められた。
何の話だろうと思えば、これから始まる受験についての話だった。
私たちの学校は県下随一の進学校で、毎年東大に数人入る程度の学力を誇っていた。
毎年学年があがる際にクラス替えの試験が実施され、上位何位かに入ることが出来れば、晴れて文系理系それぞれ学年に一クラスある進学クラスに入ることが出来る、というシステムだった。
前回のクラス替えのテストで、私はぎりぎりで進学クラスに入ることが出来なかった。
一方で、進学クラスから落ちてきた生徒もいた。
彼らは、さすが進学クラスにいただけのことはあり、日頃から勉強をする姿勢が身についていた。
隙が無い、というべきか。
常に勉強のことを考えているし、家に帰っても勉強しかしていない。
私はこういう人たちと大学受験を戦うのか、と思うと気が遠くなったことを覚えている。
ある日、土手を歩いていると、父娘とおぼしき二人とすれ違った。
若い女の人が「ごめんね」と年配の男性に謝っていた。
姿勢の悪い、いかにも卑屈そうなその女の人を見て、大人になってもああはなりたくないなと思った。
そう、私はこんな地方の田舎で埋もれて人生を終えたくはない。
都会に出て、ひとかどの人間になるのだ。
お金もたくさん稼いで、いい部屋に住んで、いい暮らしをして、素敵な人と巡り合って、素敵な恋をして、素敵な人生を送るのだ。
私は断じて、こんな片田舎で終わる人間ではない。
それが、学生の頃の私の信条だった。
しかし、結局私は大学受験に失敗した。
今、私は一浪して県内の国公立大学を目指している。
両親と話し合いをした結果、資金面でもそれしか進路がないと言われたのだ。
人生、ままならない。
私は今、はじめて挫折を味わっている。
私はこんな片田舎で大学生活を送り、卒業し、就職し、結婚し、一生を終えていくのか。
世の中、なんて不公平なんだ。
私の脳裏に、あの日、土手ですれちがった女性の姿が浮かんでいた。
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